18-22





明後日髪どうしようってそわそわしてるカレンは気付いてないんだろうけど
凄い身近に、ずっと想ってくれてる人がいるのになって思ってたら


「髪型気にするくらいなら何も喋らず黙ってた方が効果的だと思うけど」
「は?黙れ!!ハゲろ!ハゲれば良い!!ディゼルなんて私にこれまで言ってきた暴言の数だけ髪の毛抜けたら良い!!!」


ナイスなタイミングでディゼルがやってきた。


相変わらずな二人だけど、言ってる事暴言寄りなのはカレンだよ。
いつも。


「カレンに暴言なんて言ったこと僕一度もないけど。事実が暴言に聞こえるなら少しは改めたら良いのにね」
「ありのままの私を好きで愛して止まないような超イケメンの性格良い王子様が明後日現れるもん!!」


ギャーギャー騒いでるカレンの今のホットワードはハゲなんだろうか。
やたらとハゲハゲ連呼しては結局言い負かされたのか、最後にハゲろバーカっ!!って大声で叫んで逃げて行った。


嵐が去った後っていうか
カレン一人がいなくなっただけで物凄い静けさだ。


「…ここに居るのにね。良い性格してるカレンの理想の王子様」
「…気付いてたんだ」


少し驚いた顔してるディゼルには悪いけど


「本人以外、…なんならアオイとかだってわかってるんじゃないかな」
「アオイは気付いてないよ。この前俺とカレンへのおまえの発言はモラハラって言うんだぞって、やたらと真面目な顔で説教して来たから」











アオイ…。









想像出来過ぎるその状況を思って頭を抱えた。


気付いてないのか。
アオイはともかく、ディゼル他の人には超絶紳士なのに。
たまにこっそり毒吐くけど。


「言わないの??いつか本当に、カレンにぞっこんな素敵なライバル現れちゃうかもよ」
「ないでしょ。今まで見てきた中で惚気が一週間以上続いたの聞いたことない」


…確かに。


いや、そうなんだけどさ。

なぜかカレンの恋はいつも上手くいかないけど
でもあんな美人で明るくて優しくて、好きな事に打ち込んでる時の真剣な顔とかもギャップ萌えだと思うんだけど…


本当なんでだろ。







「カレンアホだから、言わなきゃ絶対気付かないよ」
「言っても…カレンは僕の事別にそういう目で見てないよ」


今は見てないだろうけど…


「それディゼルがいつもあんなに苛めるからじゃん」
「だって面白いから。あんな沸点低い生き物見たことない」


これは…俗に言う好きな子程苛めちゃうってあれか!!


まぁそうだろうとは思ってたけど、ちっちゃい子の愛情表現みたいなイメージだったそれをディゼルがしてるって事がちぐはぐに見える。


「…それにカレンとイチャイチャ甘々な関係になりたいとか全くこれっぽっちも思えないんだけど。僕は本当にあのバカが好きなのかな」


ディゼルとイチャ甘な…カレン…














『ねぇディゼルーぅ!次の休み、どこにデート行くーぅ??』
『カレンが居ればどこでも僕は楽しいよ』

『やだーぁ!!もう!!じゃあカフェでお茶してお買い物に行きたいな♡』
『勿論だよ。カレンの好きそうなカフェ、調べておくね』

『嬉しい♡大好きディゼル♡』
『僕の方が好きだよ』














「おぇっ!…あ、ごめん。なんか…現実とかけ離れ過ぎたの想像しちゃって」
「何してくれるのやめてよ」


いや…これは想像以上だ。


妄想の中でもディゼルは割とディゼルなんだけど
彼氏が出来た時のカレンのルンルンモードをそこに組み合わせるだけでなんか…。


「カレンがディゼルに猫なで声で話しかける時点でなんかちょっとあれだよね」
「ウイ実はカレン嫌いなの、猫なで声って」


いや、何回かカレンが彼氏と電話してる声聞いた事あったけど
あれは猫なで声以外のなにものでもなかった。


大好きだけどあれは猫なで声だって言ったら、ディゼルが猫に失礼だって。


本当に、不器用なんだか素直じゃないんだか…


「私だってローといる時別にイチャ甘とかじゃないし。恋人になっても今のままで良いんじゃない?」
「まずカレンにその気がないでしょって」


そう言うディゼルの顔はどこか拗ねてるようにも見えて
イチャ甘になりたくなくても絶対カレンの事好きじゃんって思った。


「急かす訳じゃないけどさ。でも後悔しない内に、ちゃんと伝えた方が良いよ」


これからはずっとそばにはいられないから、最後に少しだけ
お節介してみた。





「僕がカレンに好きとか言ったとこ想像してみてよ。すっごい腹立ちそう」
「…あぁ、それは…うん」


途端にふんぞり返るカレンの姿が容易に想像出来た。


やっと私の魅力に気付いたか!とか
今までのあれって照れ隠し?ガキかよとか

水を得た魚のように強気になりそう。


「でもその時だけじゃない?カレン単純だから、案外ころっとほだされそう」
「だからウイは本当にカレンの事好きなの」


単純なのも恋する乙女気質なのもカレンの良いとこだよ。
うん。


凄い冷めた顔でこっちを見下ろすディゼルと、結構真剣にそれを考えてた私の目が合って
暫く無言で見つめ合った後、同時に吹き出した。


「すぐにとは行かなくても、考えてみる。ありがとうウイ」
「こちらこそ。カレンとアオイ程じゃなくてもさ、私もディゼルに迷惑かけ通しだったよね。本当に今までありがとう、ディゼル」


散々うっかり恋バナしてしまってたけど、ディゼルにもお礼を言いたかったんだった。


「そうだった?あの2人が酷すぎるのか僕ウイの尻拭いした覚えとかないんだけど」
「沢山助けて貰ったよ。ディゼルが居れば大丈夫って、私きっとディゼルの存在に甘えてた」


ディゼルはソニアとはまた違った、デキる人。

作業系も絶対ミスはないし、手際も要領も良ければ全体を見て動いてる。
ちゃんと言うことは言うけど、それ以上に優しい。

カレンとアオイ以外には。
あの2人はまぁ、自業自得なんだけど。


そういう仕事面だけじゃなく、ディゼルの酒造への拘りも凄い勉強になった。


「ディゼルのお酒も私大好きだよ。キリッと辛くて、お酒!って感じ極めてて!出るね、人柄が」
「酒飲みにしかウケないけどね。ウイいる内にシードルの売り上げ追い越したかったけど…結局足元にも及ばなかったな」


そんな事思ってくれてたんだ。


いつか必ず凄いの作って届けに行くってそう言われて、私も負けてられないなって思う。


辞める訳じゃないもん。
離れてても、これからも切磋琢磨していけたら良いなって、そう思った。





ブラーヴェはバランスが良かった。

凄い個性的な人の集まりだったけど、それぞれの短所を誰かが補って、良いところを最大限に引き伸ばして
その補うと引き伸ばすを誰よりもしてたのは、きっとディゼルだった。







「ソニア!」
「あら、私も丁度探してたのよ」


ディゼルと話し終わった後、目的の人物がドリンカーにお酒のおかわりを取りに来てた。


「明日、よろしくお願いします!」
「律儀ね。私も楽しみだけど緊張しちゃうわ」


ソニアも緊張とかするんだ。
一見わからなそうだな、絶対。


バージンロードはベガス聖がオッケーしてくれたから、一緒に歩いて貰うことになってる。
父様には出席はして貰うけど、そこは譲れない。


まだベガス聖のお子さん達は皆小さいから、初めてなんだって。
私が一番貰っちゃって良いのかなって心配になったんだけど、そんなの取り越し苦労だったって思うくらい喜んでくれたの。

こっちが嬉しくなっちゃったよ。






それでね、ベールダウンはソニアにお願いしたの。


ソニアと出会ってから、私の人生が鮮やかで賑やかになってから

沢山相談に乗って貰って、面倒見て貰って、背中を押して貰って、いつでも味方でいてくれて。


ソニアは私の、もう一人の母様だった。


「あなたがベールダウンを私にって言ってきた時…なんだか泣きそうになったわ」
「全然そうは見えなかったけど」


我慢したのよって笑うソニアの目が、なんだか今は本当に潤んでて
それ見たら本番はまだなのに私まで泣きそうになってしまった。


皆もそうだけど、ソニアには特に"ありがとう"って言葉じゃ足りない気がするの。
足りな過ぎる。


「6年前ひょっこり賞金首と一緒に顔を出した噂の酒職人が、まさか私の中でこんなに大きな存在になるとは思ってもみなかったわ」
「…でもあの時からソニア、商売やりたいならロー達と一緒にいるなって、言ってくれたよ?」


会って間もないただの他人。
一緒に居たのは、当時は今より低かったけど
一般人なら恐れる額の賞金首。


例え私の商人生命が絶たれる可能性を感じたとしても、普通そんな事言えないんじゃないかな。









「あら、海賊と接点のある仲間なんて私が困るもの。…あの時はまだ、了承は貰ったけれど一緒に働く事をそこまで現実的には考えていなかったのよね」
「私あのまま海賊になっちゃいそうだった?」


その可能性も念頭には置いてたわって、出会った頃の話をしてくれるソニアをじっと見つめてた。


こういうの聞くと、なんだか当時のわくわくっていうか
そういうのを思い出す。

遊園地に初めて行った時と同じくらい、あの時私ドキドキしてた。
何とか食べて行けるくらいではあったけど、ギルドはそれはもう本格的な商売人って雰囲気がムンムンで。


ソニアは私があのままハートの海賊団に入っちゃうかもって思ってたみたいだけど
私はそんな事全然考えてなかった。

皆の事はあの頃から凄く大好きだったし、一緒に居たいと思う気持ちもあったけど
でもいつかはお別れしなきゃって思ってたから。


笑顔や真剣な顔で賑わうギルドの雰囲気に、私もこんな風に働けたらなって
眩しくて憧れて胸が踊ったんだ。


「ウイがこんなに仕事に打ち込むような子だとはあの頃は思わなかったし、天竜人の御用達職人なんて大それたものになってしまうなんて…想像もしてなかったわ」
「それはね、私もそうだよ。…ベガス聖様々だね」


きっとベガス聖がいなければ、ここまでブラーヴェは大きくならなかった。

売り物も皆も、魅力と実力のある素敵なギルドだって思うけど
それでも陽の目を見ない人達なんて沢山いる。


「あんなとんでもない金額出してまで手元に起きたいと思うお酒を作り出したのも…応援したいと思える人だったのも、全部あなた自身よ」








運が良かった。
巡り会う人達に恵まれてた。


それは誰が何て言おうと覆らない事実。
でも、頑張った事も嘘じゃないから。


それが認められた気がして、報われた気がして
胸がいっぱいになった。




destruct at reality.