18-23
「ありがとう。私が今こんなに充実した日々を送れているのも、やり甲斐のある仕事を出来てるのも…あなたのお陰だわ」
「それはこっちの台詞だよ!!私仕事以外にも、沢山迷惑かけた!我儘聞いてもらって、悩ませて…」
仕事に関係ない、個人的な事でも私はソニアに凄くお世話になった。
余計な心配かけて、我儘聞いて貰って、叱ってくれた事も諭してくれた事もある。
でもいつも最後は、味方でいてくれて背中を押してくれた。
「今回だって!結婚式もそうだし、居場所残して送り出してくれたり…私ソニアと出会えて、働けて本当に良かった!感謝してる!!」
「ウイがそう思ってくれてるなら、それが一番嬉しいわ。…こんな気持ち、なんでしょうね。娘の結婚を控えた母親って」
そう言ってソニアが
少し悲しそうに、でも嬉しそうにも見えるそんな顔で笑った。
ずっとブラーヴェに居たいって、そう思ってしまう私は我儘かな。
これは自分で決めた事。
ローと離れたくない。
でも、ここは名残惜しくなりすぎる程素敵な場所だ。
結婚するって、こんな複雑な気持ちで式を迎えるんだね。
「いつでも帰って来なさい。連絡もちょうだいね。あんまり危ない事はしちゃダメよ?」
「…本当にソニア、なんだか母様みたい」
親子程年が離れている訳でもなければ
親子程長い時間を過ごした訳でもない。
でも色んな事があって、一緒に全力で働いて、乗り越えて来て
そんな私たちの絆は強くて堅いと思う。
隣に座るソニアの肩に、そっと頭を預けてみた。
そしたらね、ふって笑ったのが聞こえて
ポンポンって頭を撫でてくれたの。
切なくて嬉しくて
寂しくて楽しみで。
難しい気分だった。
「あなたが抜けた後、問題児2人を多数決で負かせなくなるのが…一番厄介ね」
「あはは、…引き分け、だね」
大丈夫だよ。
ソニアもディゼルも怒ったら怖いから。
夜中まで飲んで、話して笑って。
その日はブラーヴェの式場の船に泊まったの。
カレンと一緒の部屋でね、部屋に戻っても話は尽きなくて。
でも流石に飲み過ぎたのか、日付を跨いですぐ
カレンはすやすや寝息を立てて寝落ちした。
私も眠かったから、寝ようと思って目を閉じた時
久しぶりに同じ屋根の下で父様が眠ってるんだって、なんとなく思ったの。
…屋根であってるのかな。
船って。
結婚式前日。
ローも呼んで簡単にだけどリハーサルして、後は当日の為に今日は早く寝ましょうってすぐ解散になった。
「昨日そっちも飲んでたの?」
「まぁな。今日は前祝いらしい」
早く寝なきゃだけど、でもそれも楽しみだ。
ちなみに昨日の名目は独身最後の夜飲みだったらしい。
絶対凄い飲まされたんだろうローは全然そんな気配を微塵も感じさせなくて
起きれなくてリハーサル欠席のアオイと同じ人間なんだろうかって、その差につい笑ってしまった。
「おまえこれからどうすんだ。流石にまだ始まんねぇだろ」
「昨日のやつ清書しなきゃ!後はジャンバールのお手伝いかな」
ローの感じに合わせようと思って、私のもまだ清書してなかった。
昨日飲んだならもう聞いてるんだろうけど、ペンギンとアンさんにも私から話したいし。
…でも今日飲むならその時で良いかな?
「ローは?」
「会場、少し見てぇから見学させて貰う」
…なんか意外。
この船、機能性は普通で結婚式にだけ特化した船なのに。
海賊船とかには何の参考にもならないと思うのに。
装飾とかそういうの、実は興味あったの私が知らなかっただけ?
それともローも自分の結婚式会場に人並みな興味でも沸いた…?
「案内しよっか?」
「いや、そこまでは良い。すぐ戻るからさっさと終わらせとけ」
ふーん。
あれこれ拘りまくったから、それ見て貰えたら嬉しかったんだけど。
中の式場の椅子床下に自動で仕舞えて写真撮影とかブーケトスしてる間に披露宴会場に早変わりなんだよ!
とか
あの天井開閉出来て晴れてると太陽の光を背負ったソニアの硝子細工が凄い綺麗なんだよ!
とか
色々自慢したかったのにな。
「それでは!明日のキャプテンとウイさんの結婚式を祝して!!かんぱーい!!!!」
乾杯の音頭をとってくれたエイジくんはなぜか
始まる前から既に酔ってた。
でも他の皆もテンション高くそれに続いて、次々にグラスを合わせに来てくれる。
昨日もきっとこうだったんだろうなって思うんだけど、皆が今日こそはローを潰そうとお酒注ぎまくるののを見て
ちょっとやめてよって思うんだけど、どうせロー潰れないしいっかって見逃す事にした。
今日はね、私アンさんの部屋で寝るの。
今日が本当の、独身最後の夜。
明日からは夫婦だし、これまでもずっとローの部屋で寝てたんだけど
なんか区切り的な感じでそうしたくて。
ローにそれを言ったら良いんじゃねぇのってあっさり了承してくれた。
珍しい事もあるもんだ。
嬉しいけど、いつも手加減してって思うくらいなのに。
「シャチ!!はい!かんぱーい!」
「へいへい。…いやー、マジで結婚…すんだなー」
シードルの瓶を合わせてくれたシャチがしげしげと私を見下ろしてくる。
そうだよ。
私達結婚するんだよ。
「なんか、会ったばっかりの頃とか思い出すと面白いよね。こんな事になるとは思わなかった」
「俺はあのキャプテンの恋路がこんなに上手くいかねぇとは思わなかったけどな」
長かったもんね。
ここまでくるの。
上手くは、いかなかったね。中々。
「俺さ、今だから言うけど。会ったばっかしの頃…多分おまえの事好きだった」
「…なんですと?」
予想外のカミングアウトに本気で開いた口が塞がらない。
「でもキャプテン相手じゃ敵う訳ねぇし、おまえもキャプテンの事好きそうだしって…そこは無理でも兄貴みてぇとか言って貰えるこのポジションに浸ってた気がする」
「なんか…うん。どうしたら良いのこれ」
全然なんて事ない笑い話みたいに話してくれてるけど
リアクションに困るな。
「そういう特別は無理でも、何かしらおまえの特別になりたかったんじゃねぇの?」
「いや特別だよ。本当に今までありがとうこれからもよろしく頼んだだよ」
どうすっかなーって笑いながらお酒に口を付けるシャチはきっと
これからも素敵なお兄ちゃんでいてくれる。
なんだろう。
シャチのことそんな目で見たことは一度もなかったんだけど
シャチは本当に優しい。
凄い優しい。優しすぎる。
そんな人に、一時でもそういう意味で好かれてた事が
なんか嬉しかった。
こんなに心があったかい人に好きになって貰えるような人だったんだ私って
嬉しかった。
「…頑張ったな。今まで」
「何急に」
どこか遠い目で真っ暗な夜の海を見つめるシャチは
何を思ってそんな事言い出したんだろ。
「つらかったよな。寂しかったし…大変だったよな。ごめんな、気付いてやれなくて。これからはもう、キャプテンも俺らもずっといるから」
…やめて欲しい。
式を目前にして感傷的になってるのかな。
そんなの関係なく心に響く言葉を皆が言ってくれてるだけかな。
最近凄く涙脆い気がする。
でもこれまでを見てきてくれた人にそんな事言われたら
涙だってそりゃ出るよ。
「…私が言わなかったからだよ。気付いてなくてもシャチはいつでも優しかったよ。支えて貰ってたよ」
ありがとう。
涙で上擦る声を堪えて、必死で上向いてこれをこぼさないように気を付けながら
何とか思ってる事を言えた。
なんか照れ臭ぇなって笑うシャチの横顔が、やけにくっきり見えた気がする。
本当にありがとう。
今までだってずっと、離れてても心はそばにいてくれたもんね。
いつかシャチが落ち込んで仕方ない時には、絶対力にならせてね。
これからも、よろしくね。
「あ、浮かれポンチ」
「喧嘩うってるよね、絶対」
お酒おかわりしようってシャチとバイバイしたら、同じく氷に刺さった酒瓶を漁りに来たベポと出くわした。
「っていうかさ、ウイが良いならそれで良いんだろうけど。本当にあのおっさん結婚式出させるの?良いとこ取りでムカつくんだけど」
「半分嫌がらせだから。見る目なかったねー、どんなに媚売っても報われなかったのに私にはこんな素敵な人が沢山居てくれるよーって」
あぁ良いねそれって悪い顔して笑うベポは、父様のこと本当に嫌いみたい。
…嫌い。
嫌いか。
私はどうなんだろ。
「とうとうウイもキャプテンと結婚するのかー」
「なんかそれ、シャチも言ってた」
同じ時間を過ごして来たから、こうなって思うことってやっぱり同じなのかな。
「懐かしいなー。俺達賭けてたんだよね、実は。キャプテンがいつウイのこと好きって自覚するかと、いつくっつくかって…あ、俺勝ったから徴収しなきゃ」
「なにしてくれてんのよ。え、ベポどう賭けてたの」
新事実発覚。
ローがうんざりしてた覗きの原因を、今更知らされた。
皆がどう賭けてたのかは内緒って教えて貰えなかったんだけど
でもらしすぎるそんな賭けにふって頬が緩む。
「ウイで良かったー、キャプテンが選んだ人。ステラみたいなのだったら俺船降りてたよ」
「あ、来てくれるよステラさん!明日!」
そうなの。
ステラさんにも招待状出してみたら、慶んで出席させて頂きます♡って
欠席を可愛いアートで消した招待状が返ってきた。
ステラさんっぽいなって思いつつも
あれから随分経った今、ステラさんはどうしてるんだろうって気になってる。
相変わらずの小悪魔なのかな。
ローの初めての人っていうのは、未だに羨ましくてモヤモヤはするんだけど
「は?何牛なんか呼んでんの。…やだよ俺あの女嫌い」
「久しぶりに会いたかったから。…私結構好きだよステラさん」
なんて言うんだろ。
憎めないっていうか、あの顔とナイスバディと天然の可愛らしさは寧ろ羨ましいと思う。
あゆみちゃんと意気投合しそうだなって
凄い嫌そうな顔してるベポに苦笑いしながら、そんなことを思った。