18-24



「…ベポさ、いつもこっちがヒヤヒヤするくらい怒ってくれるじゃん?」
「悪かったね大人げなくて」


ぶすっと不機嫌になったベポには申し訳ないけど
そういうとこを言ってる。


でもそれは文句じゃなくて、嬉しいよって事を伝えたかった。


「ステラさんの時もだし、父様の時もだし…私も怒られたよね、ローに仲間にするの諦めるって言われたあの雨の日とか」
「…懐かしー。謎に土砂降りの中狂ったように水風船作りまくってたあれか」


謎で狂ってて悪かったな。


絶対ディスろうとしてるそのワードを咎めるように睨めば、私の反応をお気に召したらしいベポが勝ち誇ったように見下ろして来た。


「嬉しかった。…今思えば本当に奇行でしかないんだけど、あの時は絶対泣くの堪えられそうになくて。でも知られたくなくて」
「奇行…!そう奇行!あれ本当頭可笑しいんじゃないかと思ったもん」


奇行って言葉がツボったのか、ケタケタ笑ってるベポを今度は冗談抜きで睨んだ。


わかってるけど、なんか腹立つ。


「見てみぬふりとかじゃなく、気付かないふりとかじゃなく…まさか文句言われるとは思いもしなかったからビックリした」
「言いたくもなるよ、面倒臭い」


本当そういうとこ。
ベポもあの頃と全然変わらない。


「あれから、かな。特にベポが大好きになった。ありがとね、これからも…よろしくね?」
「……奇行はほどほどにね」


背の高すぎるベポを見上げてそれを言えば、ぷいって顔を逸らされる。


ベポたまに凄い可愛い事言ってくれる時があるんだけど、今日はそんな気分じゃないらしい。





素敵だね。
軽口とかイジったりとかが通用する
照れてるだけだって、そんな事が誤解なく伝わるこんな関係。


「ベポもね。可愛いリボン付けて筋トレとかビビるからやめてね」
「煩いよ」


人に言えない奇行に自覚があるらしいベポがハッと目を見開いた後、またそっぽを向いた。








大好きだ、こんなベポが。





「アンさん!」
「どうせ後で部屋に来るんだから今は良いわよ」


ベポと話してたらアンさんが通りかかって呼び止めたら
じゃ、またって素通りされた。


ドライだなぁ。


こういうの、お酒飲みながら話したいものなのにって思って
アンさん飲んでないじゃんってハッとした。


たまにちょっとだけ飲むことはあるんだけど、アンさん基本飲まないからな。


「振られたね。ドンマイ」
「振られてないし。今日夜な夜なガールズトークするし」


ニヤッて意地悪く笑うベポに目を細めてそう吐き捨てて、もう一人の話さなきゃいけない人を探した。






そりゃすぐ見つかるよね。
後ろ向いてたって頭の上で物凄い自己主張してるんだから。







「ペンギン!ちょっと話したいんだけど良い?」
「ん?良いけどなに?」


なにじゃないよなにじゃ。


皆と輪になって飲んでたペンギンは、よっこいしょって立ち上がりながらそんな事言い出す。


お礼くらい言わせてよ、今回の事もこれまでの事も。

何のいざこざもなく丸く収まっちゃったからちゃんと話さずにここまで来ちゃったけど
それもやっぱり話そう?






いつまでもこの人を引き留めてちゃダメだ。







「なに?式の前夜に花嫁から告られんの?俺」


ドラマちっくーって船縁に寄りかかりながらお酒に口をつけるペンギンは
言ってる内容の割に話し方に抑揚がなくて。


まぁそれはいつもの事なんだけど。


「…ありがとう。写真立て、受け取ったよ」
「あらバレちゃったの。オトコノコの裏事情だったのに」


バレちゃったの、じゃないよ。
もし父様がペンギンの事教えてくれなかったら私
その優しさに、助けて貰った事にずっと気付かないままだったかもしれない。


「なんでいつも、こんなに助けてくれるのに裏でこっそりやるの?」
「…別に助けて"あげてる"訳じゃないもん。したかったからしただけ。ほっといて」


つーんってわざわざ口に出してまで拗ねてる風を装うこの人には、ハッキリ言わなきゃダメだ。


「私のこと、…まだ好き?」
「世界で一番大好きって言ったじゃん。忘れたの酷い」






手強い…








でも今日は、おちゃらけたそのノリには乗ってあげないからね。








「そういうんじゃなくて!!」
「なに?俺そろそろ本気で引導渡されちゃう系?」


そっちか。

親父さんの方と、他のヤツラにも言って回ってるっぽかったこれまでのお礼的なやつで終わる事を期待してた。


「私がハッキリ言わなかったからだよね。本当にごめん。…ペンギンが好きでいてくれて、それでしてくれる事に私いつも助けられてる」


本当バカだと思う。
助かってるならそのままでいれば良いのに。


「今回も、本当に助けられた。…きっと父様ペンギンがほっとけばあの写真立て、直せもしなかったし直そうともしなかったと思う」


だろうね。
憂さ晴らしになったなら良かったとか言ってたくらいだしね。


「私、ペンギンが言う通り…あれ壊しちゃった時自分がやった事なのに心が痛んだ」


それも見てたらわかったし、やっちゃったって顔見なくても
ウイならそう思うだろうなってわかるし。


「直してくれてありがとう。…父様に、良い友達に恵まれてるって。そう言われてざまぁ見ろって思ったから。…それもありがとう」






でも親父さんはきっと
その"良い友達"よりも、捕まえて来た"良い男"の方に感心してると思うんだけどね。


「ドウイタシマシテ」
「今回だけじゃなくて!これまでだって…ニシキの時もドフラミ──「良いよいちいち言わなくて」


なんか
それ言われたらウイの中で"お礼言って気が済んだ事"になる気がして


「ウイちゃんがどう思ってるかとか、言われなくてもわかってるからダイジョウブ」


感謝されてるなら、心に残ってるなら
少しでも色褪せて欲しくなくてつい言葉を遮った。


言わせてやるのが、きっと正解。
心置きなく大好きなキャプテンとの式を迎えさせてやるのが正しい。

こんなの正解どころか何の意味もねぇのに、今更どう足掻いてもゲームオーバーは確定なのに
足場のない続きを受け入れられなくていつまでも絶壁の前で後ろを向いてる。


「私、ローと結婚するよ」
「流石に知ってますよそのくらい」


ウイが何を言おうとして
どんな流れに持っていきたいのかも

それを言われたら後がない事も解ってて、どう延命するかを必死で考えた。


一回死ねば楽になるんだろうに、でもまだ
殺されたくなかった。






「ペンギン前に言ってたよね、俺の幸せをおまえが決めるなって」


…そんなこと覚えてたの。


「決めるのは私じゃなくたって、いつまでもペンギンが先に進めないのは私が嫌だよ。そんなの絶対…幸せじゃないよ」


幸せじゃねぇけど
好きな女が他の男と結婚するのに、報われない気持ちを持ち続けてるのは幸せじゃねぇけど







これがなくなるのは…そう、"絶望"だ。







初めて、人を好きになった。
振り向かせたいとかじゃねぇ、駆け引きを楽しむとかじゃねぇ感覚に最初は戸惑った。

手に入れてヤッてハイ、ゴールじゃなくて
本当に欲しいのはその先だった。


この生き物が好きで、この人間に必要とされたくて
俺がした事で笑って欲しくて
その心に自分が居て欲しいと思う気持ちを、初めて味わった。















なら聞くけどさ
俺、おまえ吹っ切ったらまた同じように思える相手できんの?


俺ウイより4年くらいは長く生きてるし
女のケツ追いかけ回してた分出会いならいくらでもあったけど

ウイ以外にそう思った事ないんだけど。










俺の幸せを探す目的の口論なら、負ける気はしなかった。

何を言われようと言い負かせる。
自分に自分でも勝てねぇからこうしてる。


でもそれは口に出来そうにない。
んな事言われたって、ウイが困るだけだから。







ウイはバレねぇように助けられてるって思ってるらしいけど
俺知ってた。

ウイの親父さんの態度とか口振りで
少しでもウイが聞いて喜ぶだろう事ならこれは言うだろうなって、知っててやった。

俺が自分でそれを言わずにいれば、またそこでもウイが何か思うだろうなって
それもわかってた。



今思えばこうなる事も十分想定出来てた筈なのに
例えそれで少しくらいウイの心が動いたとしても、もうどうしようもない事はわかってた筈なのに


でも少しでも俺のこと考えて欲しくて
億に1つもない可能性に期待して


冷静な頭にバカな欲が勝っちゃったんだろうね。








「ペンギン?」


押し黙り過ぎたのか、名前を呼ばれて我に返る。

居心地の悪そうなウイは
俺がそれを言われてどう思うか、何を言うかが気がかりで仕方ないんだと思う。


「キャプテン、前からだけど最近更に丸くなったよね」
「え、そうかな」


困らせる事も諦める事も出来ないなら
俺のする事って決まってくる。

ここでもう諦めるって、終わりにするって
ウイの結婚を心から祝福したふりしてやんのが正解。


「ウイと会う前、会ってすぐの頃より更にとんがってたよ。あの人」


カイドウを倒して、これでやっと本当にドフラミンゴの件が全部片付いて
あのキャプテンだってそりゃ肩の力も抜けると思う。





でもきっと、それだけじゃない。





「キャプテンの幸せ願う気持ちも嘘じゃないって…これ言ったっけ?」
「言ってた」


こうなる事を願ってた。
散々苦労してきたヤツだから。


ほっとけば良いのに
置いてきたら楽だったのに

全部を自分にくくりつけて、引きずってでも歩いてた。


重すぎるそれを持って歩く為に力を付けて
砕けなかった物をぶっ壊す為に強くなって


これまでのキャプテンはずっとそうだった。
全部がその為だった。
その為に持てる力を全て注いで、それしか見てなかった。
見ないようにしてた。

そして今、やっと身軽になった。
自由になった。


そこにウイがいる。
ウイに愛されてる。
求められてる。

誰よりも必要とされてる。


キャプテンの今は、偶然でもラッキーでもなんでもない。
成るべくしてそうなった、これまでを積み重ねた結果だ。







そんなキャプテンの幸せを願わないヒトデナシ中々いないでしょ。

俺、それ誰よりも近くで見てきた。
ずっと一緒に過ごしてきた、こんなんでも。







だからつまり
そんな人が愛した女を、想い合ってる二人を知ってて
それでもウイを好きで欲しいとか未だに思ってる俺が、ヒトデナシって事。


「キャプテン俺と違って誰でも良くないから。キャプテンと上手くやってけるような女も、そう居ないから」


誰でも良くないのは、俺。
おまえじゃないとだめなのも、俺。








わかってる。
キャプテンよりも誰よりも、俺が一番厄介で面倒臭い。




destruct at reality.