18-25




「…でも確かに俺、踏ん切り付けようとしてなかったね」


嘘付く時
それに信憑性を持たせるのには若干の本当を混ぜると良いらしい。


もう諦めたと思わせる為に
聞こえの良くなさそうな、だからこそ本音に聞こえそうな餌をバラ撒いた。


「流石に結婚式ってなると、俺でも理解すんじゃないの?」


嘘なら腐る程ついてきた。

でも、これに関してだけは嘘をつきたくない。
それが何を生む訳でもないただの下手な拘り。


もう諦めるって、次に進むって
それを言葉にして言いたくなかった。


「それ、…ほんとに?」
「今若干切ないってことはそうなんじゃないの?」








ごめん、諦め悪くて。
タチも悪けりゃ聞き分けもなくて。








「…ペンギンがいなかったら、今の私はなかったよ。私今ペンギンのおかげで幸せだよ。でも、ペンギンの事だけまだ…どうしても引っ掛かってる」







気にされたい。
でも、どうせ叶わないなら悩みの種にはなりたくない。

心に爪痕を残したい。
でも、いつでもアホみたいに心から笑っててくれないとなんか嫌。







矛盾するこの感情はきっと、"良い方"に傾ききれない分"良くない方"が強い。


重さを偽装してまで均衡を保ってる。
重い方が沈まないように差し込んでる手を引けば、全てが壊れるって知ってるから。

その先に求めた未来なんて待ってない。


そんな危ういものだって理解してても、俺はまだウイを好きでいたい。
知られなくても気付かれなくても良いから、このままでいさせて貰いたい。

これを失えば、諦めたら
もう二度とこんな気持ちが内側から沸いてくる事はない気がする。


しんどくても幸せじゃなくても
それだけでは、なかった。









「ぶち壊したかったらとっくにしてるし、自分で困らせるくらいなら助けたりしないけど」








頼むから
進みたくなれば勝手に進むから

縛られてる訳じゃねぇし、寧ろここにいたくてしがみついてんのは俺の方だから。







だからお願い、放っておいて。
ここは見逃してくれって


スカした顔を装った内側で必死で懇願する自分がいた。








「あーっ…もう…!!!なんか!!自意識過剰だったらごめんだけど!!全然吹っ切ってるように聞こえない!!!」


あら。







こっちも今日は随分食い下がる。





これで片付いたと思ってしんみりしてたのに。
また現実と気持ちの乖離を見ないふりしてやり過ごす日常が待ってるって、自分で選んだくせにうんざりしてたのに。


頭をガシガシ掻きながら急に荒ぶり出したウイを見て、ちょっとこれはどうしようって内心焦った。
いつもののらりくらりが今回も通用するって、舐めてた。


「ペンギン優しいから!!優しい癖に照れ屋なのか恥ずかしがり屋なのか!そう見えないように上手い事隠すし!」


褒められて…るっぽいのにすんごいキレてる。


どうしよう。
…取り敢えず聞こうっと。


「だから心配なの!!苦しんでても傷付いてても!それも誰にもバレないように上手く隠しちゃいそうだから!!」


返す言葉を頭の中で組み立てるのをやめて
今は大好きで仕方ない女が物凄い剣幕で心配してくれてるその様をまじまじと観察する事にした。


「今も私がツラくないように…自分で抱え込んでそれも隠して良いように見せてるんじゃないかって!疑わしくて仕方ないの!!」


鼻息は荒いし
興奮してるのかなんか泣きそうだし
すんごい目で睨んでるし。


やっぱり女の子の本気は可愛くないね。
怒ったふり、ムキになったふりくらいが丁度良い。

ウイにそんなこと望むだけ無駄だってわかってるけど、これは中々酷い。







言いたい事は取り敢えず言いきったのか、ハァハァしてるウイがさっき以上の目付きで睨み付けて来た。








さて。
どうしよっかな、本当に。











「…ウイちゃん俺を買い被り過ぎじゃない?」
「買い被り過ぎでも!ペンギンが実際どんな人だろうと!!私はそう思ってるもん!!」








えー…










中々困ったことを堂々と言いきられて面食らった。


ウイがどう思うかが基準なら、それって俺が今何をどう言おうと意味なくない?








欺こうとしてるのに
そうじゃねぇと困るのに

どんなに罠をかけても騙されずに本当の俺を見てくれてる事がちょっと


本当にちょっとだけ、嬉しかった。




「じゃあいいよ、それで。そっちのがなんか俺良い人そうだし」
「…は?」


どういうこと?


予想外過ぎる返しに一瞬で頭が冷静さを取り戻した。
取り戻したけど理解不能。


巧妙に直接的な事を言わないペンギンは
本当はまだ私を好きでいてくれるから、だからそうしてるんだと思ってた。
結局これまでと何も変わらないのに、騙くらかされそうになってる気がした。


…え、良いの?
私にそう思われないように誘導してたんじゃなかったの?


「え?だからそう思うなら是非そっちを採用しといてって」


あっけらかんとそんな事言うこの人が、謎過ぎる。


やっぱり自意識過剰なだけ?
踏ん切り付けようとして"なかった"ってことは、もうそれはやめるの?
私がペンギンって人をそういう目で見すぎてるの?


…絶対そうだと、思ったんだけど。


「だってそうなんじゃないの?違うの?」
「格好良くありたいお年頃だから。そっちが格好良いならそっちにしといて」


折角尻尾を掴みかけたのに、ひらりとかわされた気分。


私なんかに構わず先に進んでくれるなら、捕まえられなくたってそれで良いんだけど。


「本当に、…本当にもう私に拘ってない?」


念には念を入れて確認した。


だって本当に
ペンギンの事を好きで大事にしてくれて、幸せにしてくれる人を逃さないで欲しい。

幸せになって欲しいから。
本当に素敵で、大切な友達だから。


「拘って欲しいならそうするけど」
「違うって言ってるじゃん」


私が拘って欲しがらなければ
ペンギンはそうじゃない道にいるって、そう受け取って良いんだよね?





ハイハイってやる気なく残り少なかった瓶の中身を飲み干すペンギンを、穴があくほど凝視した。






…信じるからね。


私じゃなく、ペンギンの事を一番に考えてくる誰かを
自分を

幸せにしてあげてね、絶対に。



「これから、よろしくね」
「こちらこそ」



仲間として、友達として。
ペンギンの中では私と新しい関係が始まるんだと思うから、敢えてこれから"も"って言わなかった。


些細なこと。
私が勝手にそう思ってしただけ。

でも、ペンギンには伝わる気がした。


差し出した手を握り返された時、もう一度心にそれを思って私も握る手に力を込める。









信じるからね。








100%納得した訳じゃないんだけど
ここまで念を押してあんな感じなら多分、いくらペンギンでも先に進んだと思う。

そう思いたい。


納得出来ない部分をいつまでも問い詰め続けるのは、事が事なだけになんだか…













違かった時の痛さが半端ない。
今更なんだけど。












今手前の机の醤油差し、醤油のコーラ割なんだよねって
何かおかしいって気付いても絶妙に自分の味覚を一度は疑いそうなイタズラのカミングアウトを始めたペンギンを呆れた目で見つめる。



こんなふざけた事を一緒にやるのが、楽しかった。
ペンギンはいつも私の悪ふざけに、一味も二味も面白さを上乗せしてくれるから。

楽しかったし、本当に助けられた。
救われた。

応えられなかったけど、好きになって貰えた事には感謝しかない。




こういう優しさがあるんだって
助けて貰った時凄く嬉しかったから、私もそれを人にしたくなった。


未だにペンギンみたいには上手く出来ないけどいつか必ず
本家を騙しきって、それで恩返ししようって
今決めた。







「減る度にコーラ足してるんだけどさ、気付かないもんだね」
「それ腐ったりしないの?大丈夫?」


知らないって肩を竦めるペンギンの悪ふざけを、明日からは私も楽しませて貰おう。


でもどんどん塩分濃度薄くなってるって事でしょ?
しかも継ぎ足してるならそれ、醤油はともかくコーラヤバくない?


「ローにそれでお腹壊した人の治療させたら絶対ペンギン怒られるよ」
「ウイちゃんしか知らないもんこれ。ちゃんと守ってね、俺のこと」


醤油差しの中身がヤバくなる前に誰か気付いてくれって願いつつも、目玉焼きとかにコーラかけて普通に食べてる皆を見たら凄い笑けそう。





いつもの感じ。
いつものやりとり。

明日からも、その先もずっと
友達としてこんなふざけた話を出来たら良いな。







本当にありがとう、ペンギン。
これからもよろしくね。

人として、ペンギンの事を尊敬してます。
大好きです。

好きになってくれてありがとう。












でもとりあえず
手前のテーブルには絶対座らないようにしよう。






「案外酔い潰れてないのね」
「明日顔浮腫んだらやだもん」


お開きになって、アンさんの部屋に帰ってきた。





飲みの最中ね、ローとは殆ど話さなかったんだ。

たまに近くにいる時目が合ったりはしたけど、相変わらず延々飲まされてるローは渋い顔してて。
アイコンタクトっぽいことも頷いたりも何もなかったんだけど
でもそれを嬉しいと思った。



気にかけてくれてるから、目が合った。
何の合図もなくてもお互い楽しんでる事が伝わる事が、見えない絆みたいで得意気な気分だった。


結婚前に話しておきたい事は
父様の件を通してもう沢山話したから。

聞いたから。


それにこれからはずっと一緒にいられる。


皆とだってそうなんだけど、明日の式を前にするとなんだか
その区切りは皆と話してる時の方が感じられる気がしてた。


「今日どこかで何か盛り上がってたの?」
「別に普通よ。…ウイ達の話の後に、俺も結婚してぇって。…今日だけで私何人振ったかしら」


あぁ…確かにそんな感じになりそうだね。


気分が盛り上がらなくても、アンさんとなら付き合いたいし結婚もしたいって
多分皆結構ガチで思ってる気がするけど。


「どうして?」
「え…なんとなく?後で良いって振られたから、何か楽しい事あったのかなーって」


全く本気にも相手にもしてないアンさんは、好きな人とかあの後…いないのかな。


カレンとかと違って、惚れっぽくはなさそうだ。
絶対に。










ん?


「アンさん?寝ちゃった?」
「私シラフよ。この時間に寝落ちとか流石にしないわ」


確かにまだ日付も跨いでない。
明日の為に早めにお開きになったから。


返事が返ってこなくて、それで寝ちゃったのかと思った。


明かりを落として
アンさんはベッドに、私は布団にもう入ってた。

いつでも寝れる状態でのガールズトーク。
皆がワノクニにいってる時はいつもこうしてたもう馴染みのスタイルだ。


「…ウイの場合は、相手が父親だものね。何がどうなって結婚式に出る事まで許したのか…嫌じゃなければ聞いてみたいわ」


静かにそう話し出したアンさんに、皆に話しすぎて忘れる所だったそれを思い出した。





destruct at reality.