18-26



「あ!アンさんありがとう!あの時父様に謝れって言ってくれて。黙り込んだ父様見て本当そんな感じで腹立ってたから、嬉しかった」
「私が腹立ったのよ。しおらしくしてる割にそこで黙るのはどういうことなのって」


故郷の島でウイが先生に怒り狂った気持ちを、あの時理解した。


先生がウイの父親みたいだったら
私がウイだったら


そんな事考える余裕もないくらいただ、腹が立った。


「でも謝るなって言った手前私自分でそれ言えないじゃん。だからね、凄い感謝したし…私にはこんな怒ってくれる友達いるんだからって…そんな事思っちゃった」
「私もそう思ったわ。言いたい事全部…それ以上の事を言ってくれたのも、あんな恐喝紛いな事してまで私にした事を怒ってくれる友達がいるって見せつけられたのも…嬉しかった」


私には天竜人やブラーヴェ程のバックはないけど
それでも自慢になれる友達であれたなら良かった。


変ね。

友達って人にひけらかすものなんかじゃないのに
私もウイもそれをしてしまっていて、された事にも喜んでる。


「それで?どんな言い訳を聞けば許そうとなんて思えたの?」
「…許しては、ないの。母様を殺した事は絶対許さないって、言った」


許してないのに結婚式参加させるの?





そんな疑問が沸いたのをよそに
過去何があったのかを、ウイの父親がその時何を思っていたのかも
ウイは全部話してくれた。

副船長から簡単にしか聞いてなかった事は、私が思っていたより大分…酷かった。

そしてやっぱり言い分を聞いても


「私なら二度と顔も見たくないってしか思えないわ。関わりたくもない。関わって欲しくない」
「ローも…似たような事言ってた…なぁ」


あはははって、乾いた笑い声が聞こえてきたけど
それを笑えるくらいには気持ちの整理はついてるみたい。

無理したり我慢したりして出席を許した訳じゃないなら、それは良かった。


「なんか…自業自得なのは!わかってるの!父様が悪い。悪いし無能だった。頑張り方間違ってた!目的見失い過ぎにも程がある!!」
「全くもってその通りね」


…なんだ、そこもわかってるの。


父親だから情に流されて色々見えなくなってた訳でもないことにも、安心した。








「ただ…そこまで追い詰められた時の気持ちが、わからなくはなかった…のと!…凄い反省してるのは、伝わってきたから」


普通そういうもの?

私全然理解も出来なければ、反省してるからってだから何?って思うんだけど。






でも、そう。
ウイの場合は相手が赤の他人じゃなく、父親だから。

母親はもう亡くなってしまっているし、兄弟とかもいないみたいだし
あの男が唯一の肉親。

そんな相手に裏切られて利用される気持ちも
謝られた時どう思うかも
きっと私には一生わからない。


だからウイが決めた事に、何も言えない。
言ってあげられない。


「…頑張ったわね。話を聞こうと決めたことも、一部かもしれないけど許したのも」
「ローのおかげ。全部…、私一人じゃ、こんな風にはならなかった」


何があったかはわからないけど
結局やっぱりキャプテンはウイのことを理解した上でウイの為にあの男を呼んだって、ことよね。
つまり。


着いていきたいと思った人に失望せずに済んで良かった。
良かったけど


「誰のおかげだろうと、それをしたのはウイでしょ。…許すって、体力使うもの」
「アンさん…!!」


カバって布団から起き上がったウイを、良いから寝てなさいって制した。







誰かを恨み続けてるって、精神衛生上良くない。

でも恨んでしまう元になった事っていうのは消せなくて
壊されてしまったものも直りはしなくて
マイナスな事考えたくなんてなくても、ずっとそうして来た事はもう日常で。


自分の中の恨みをなかった事にするって言うことは
慣れた事を変えようとするのは、結構疲れる。
勇気がいる。


私の場合は逆恨み。
壊されたんじゃなく、最初からなかった。

でももう終わりにしようって思ったあの時、凄いエネルギーを使った気がするから。


「アンさんはなんでいつも私が思ってる事解ってくれちゃうんだろ。エスパー?」
「…なんででしょうね」


ウイに抱いた、今となっては隠蔽したいような気持ちが
今のウイを理解させてくれるっていう不思議。


ドラマちっくなのか皮肉なのか、わかんないわ。





「…ありがとう」
「何よ急に」


凄く、優しい声だった。
耳を疑う程に。


「わかるってことは、アンさんもそれで体力使って、疲れて、頑張ったねって言って欲しかった時があったんでしょ?」












一瞬、息をするのを忘れた。


その時の事は、その時やそれまでの気持ちは
今こうして懐いてくれてるウイには絶対知られたくない。

散々八つ当たりしては来たけれど
その心で思ってた事は、それ以上に醜い物だったから。


それが明け透けに見えてたんじゃないかって、バレてしまったんじゃないかって
肝が冷えた。


「あ、言って貰えて嬉しかった方かな。…でもそれを私にしてくれるのが嬉しい。ありがとう」









何だか…違うみたい。

いなければ良かったのにとか、私本当にもう思い出したくもないような事をこの子に思ってた。


流石のウイでも、それを全部知っててその相手にこんな事言える程気違いではないと思う。


「父様の事だけじゃなくね、…なんて言うんだろう。色々全部ありがとう。アンさんとはクルーの皆の中で一番付き合い浅い筈なのに、なんかそれが信じられないや」


色々全部って括ったのは、照れてるのかもしれない。
一々それを挙げるのは、酔ってるから面倒臭いのかもしれない。

ウイはきっと、そのことまでを全部に含めてはいない。


でも


自分の後ろめたい事がそこに含まれているような気がして
もう良いよって言って貰えた気がして
叶わなかった恋心の逆恨みでしてきた事が、許されたように錯覚した。





「…あの時は、ごめんなさい」
「アンさん?」


あの後そこには何も触れずに接してくれてたウイとのこの関係に私、ずっと憧れてた。


女友達みたいで
妹みたいで
珍獣使いにでもなったみたいで。


ただ冷めた目で眺めてたあの診療所の待合室にいたどんな人たちよりも
ウイといる最近の私は輝いてた。
羨ましく思うような関係の、片方だった。


「キャプテンへの恋路に邪魔なウイを、私…何も、知らずに、自分本意なエゴで私…酷くて失礼なこと沢山した、わ」
「アンさん…!?」







言うつもりも泣くつもりもなかったのに
込み上げて来たそれが声を震わせた。





知られたくないけど
どんなに楽しい時でも、あの過去がチラついては落ち込んだ。
気分が萎えた。


「私、自由になれて…自分が世界の中心みたいに思ってしまって、キャプテンの心にはもう別の人が居る事を…思い通りにならない事を全部、ウイのせいにしてた」


私は狡い。

自由を奪って、親としての責任も果たさず良いように自分を利用した人の気持ちまでわかってあげちゃうようなウイの優しさに
自分も甘えようとしてる。


「皆がウイウイ言うのも面白くなかった。ここに居たいって望んだ筈の場所が、ウイが現れた途端急に居心地が悪くなった」


ウイの父親に腹が立ったのは、謝って楽になりたいっていう気持ちが解るから。


「自分はこんな日陰にいるのに、眩しいくらいの光の下にウイはいて、それがキャプテンの好きな人なんだって」


許された気になれそうな事が目の前に転がっていて、それを拾おうと手を伸ばした途端
本当にこれで良いのか戸惑った。


「そう思ったら虚しくて悔しくて、…本当に、私…ウイを邪魔だって、あの時思ってた」


反省もある。
悔いてるから、だから忘れられない。
なかった事に出来ずにいた。


「この子さえいなければって、そう…思ってしまった」


でも悪かったと思う気持ちよりも、自分が楽になりたい気持ちは勝る気がした。


「どんなに冷たくあしらっても、歩み寄ろうとしてくれるウイをうざったく思ってたりもしたけど」


話してしまって、後ろ暗い事をなくしたかった。

ウイと居る時に感じる楽しさや世話を妬いてる時のあの気分を
何の曇りもない本物にしたかった。


「本当は嬉しかった。私居なくても良いんじゃないかって、心細くなっても誰もそこに気付いても気にかけてもくれないのに」


私はウイのことが好きで
ウイと居るときの私が好き。


「ウイは違かった。…皆の中心にいるウイが構ってくれるのを、私が邪険にしてるんだって思うことで…ちっぽけな自尊心を保ってた」


でも
触れられない事に甘えてなかった事にはしたくないって、出来ないってそう思えたのも

結局は許して貰えそうだからこそ出来た、打算だ。








「本当に…ごめんなさい」
「え…いや、あの…えっと…アンさん悪くないよ!」


どんな顔してそんな事言ってくれてるんだろう。


優しさに甘えたの。
つけ込んだの、自分が楽になる為に。


どんなに最低だろうと、有り得なかろうと
ウイは反省すればどんな事でも許してくれるって
それを考えなかったなんて嘘でも言えない。


軽蔑される可能性が少しでもあったなら、こんなこと絶対言えなかった。


ずっと言えずに隠してた事を聞いたウイが一瞬でも引いた顔してたらどうしようって
本当は許せないのに、優しさでそれを我慢して飲み込ませてしまっていたらどうしようって

怖くて仕方なくて、狡いのも今更なのに
同情を引く泣いてるのが丸わかりなこんな声で今何か言うのは卑怯だって


矛盾し過ぎる気持ちに手をつけられなかった。


なんで私、こんな纏まってもいない気持ちを外に出してしまったんだろう。


「…私ね。正直アンさんに話しかける時、すっごい勇気振り絞ってた時とかあった。また素っ気なくされるって、他の皆みたいにはしてくれないって、滅入ってた事ならあった」


あの時はそんな事、想像もしてなかった。
ただの能天気な空気の読めない子だと思っていたから。


それが疎ましくも妬ましくも、羨ましくもあった。


「でも、一回尻込みしたら戻れない気がして…すんごい頑張って抱き付いてたりした事も…あったんだよ実は」


フリーウィングで立ち聞きして
ウイがどんな子だったかを知って
そうだったのかもしれないと思った。


だから踏み切れた。
そんな頑張ってはね除けられに来てた子だったんだって、その健気さに心が動いた。


「私…なんでかどんなに冷たくされてもアンさんのこと嫌いって思えなかったんだ」







心臓が絞られたみたいで苦しい。







今でもなんでウイがあそこまで邪険に扱われながらも私に纏わり付いて来たかがわからない。


多分違うと思うのに
可哀想なはみ出しものを放っておけなかったのかなって、そのくらいしか考えつかなかった。


「冷たくされて当然だったから。自分でも狡い事してる自覚あった。ローにも、…エースにも、ペンギンにも」




destruct at reality.