18-27




「でもね、誰もそれ叱ってくれなくて。怒ってくれなくて、責めてくれなくて」


叱る…?
怒る?
…責める?

くれなくてって言うのは、そうされたかったってこと?


…ちょっとよくわからない。


「ハッキリは言われた事なかったけど、でもアンさんはそこを見抜いてこんな態度なんだろうなって、思ってて」


それは…ちょっと思ってたわ。
チヤホヤされたいんだろうなって。


知らなかったから。
ウイが愛情に飢えていて、欲しくても手を伸ばせずもがいてたって。


沢山持ってるのに、まだ欲しがってる貪欲な女って
それなのにそれを表に出さないで上手くやってる強かな女って…






知らないって、罪ね。


「自分が悪いと思ってるとこを同じように悪いと思ってて、それを遠慮とかで偽らないで貫いてるアンさんを…私嫌われてても嫌いになれなかった」


ウイの話を聞きながらあれこれ考えていたらいつの間にか
落ち着いて、涙も止まってた。


ウイの話は、今突然私をフォローする為に記憶を遡ってるにしては
出来すぎてた。


「アンさんがいつか心を開いてくれたなら、それは絶対本物だって…社交辞令もお世辞もなしの本物の気持ちだって」


ウイがこれまで本当に思ってきたことみたいに
泣いてる女に同情して急遽拵えたものじゃないように聞こえた。


「この人と友達になれたら、この人は私のことちゃんと見てくれて、ダメな事はそう言ってくれるんだろうなって。…本当に、思った通りの人だった」









私、勘違いしてた。
今だって私、ウイのことを解りきれてなんかない。


あんな父親ですら許すなら私も許して貰えるって思ってたけど、ウイは自分の気持ちを優しさでねじ曲げてそうしたんじゃない。


ねじ曲がり過ぎてるから、色んな人の気持ちに引っ掛かる。
理解してあげられるから、許してもあげられる。





人って、深いわね。







「アンさんは何も悪くないよ。アンさんがおかしいと思うことは本当におかしいし、私は外面だけの優しさは…怖いし嫌い」


周りに波風立てずに上手い事出来るのが、大人なんでしょうけどね。






こんな事を言われるとは思わなかった。

過ぎた事とか
今はもう違うでしょとか
反省してるなら良いよとか

そんな形で許して貰えるんだろうなって思っていたのに
まさか自分が悔いて仕方なかった部分を好きだなんて言われるとは思ってもみなかった。


「真っ直ぐで、優しくて、ちょっと不器用なアンさんが私は好きだよ。私の方こそ、あの時はごめんなさい」
「…そういえば、私勝っちゃったから埋め合わせして貰えてなかったものね」


照れ臭くて
嬉しくて
嬉しいと思ってしまう事にもなんだか照れてしまって
あれだけ泣きながら懺悔した後だっていうのに、それ以上の恥ずかしさを散々晒したっていうのに


性懲りもなくまた可愛げのない言葉を吐いてしまった。


「アンさんがあんなバカ勝ちするからいけな…授業料!!授業料免除したげる!ポーカーとか麻雀の!それでチャラにしよう!」
「今更徴収しようって言うならそれ立派な詐欺よ」


えーって聞こえて来た声に、不満そうな気持ちが全くこもってない。

その声は嬉しそうで、楽しそうに聞こえた。





あれはただ、本当に埋め合わせをして貰おうとなんて思ってなくて。

でもそう言えばウイは断れないだろうって思って
放っておいたら延々とキャプテンを心配し続けながらこの世の終わりみたいな顔してるウイに、気晴らしさせたかったのよ。


そうやって世話を焼いて、自分の中で償った気にでもなってた。


「こんな私なのに、見限らずにいてくれてありがとう」
「そっくりそのままお返しするわ。…ありがとう」


ウイの結婚前夜っていう節目に便乗してしまったみたいな形になったけど
話せて良かった。

聞いてくれて、聞けて良かった。






でもね


私があの時"今は良い"って言ったのには…理由がある。


「ねぇ。狡いって言ってたけど…副船長とはそのこと…話したの?」


あの時はまだウイ、副船長にお礼回りをしてなかったから。


どうしてもそれが、気になったから。





「ペンギン?話したよ!そこも無事!スッキリ?…だと思う」
「なんで最後急に弱気なのよ」


自信満々だった口調は、どんどん尻すぼんでいく。


二人が話してるところを、遠目で見てた。

他の皆も居たからずっとそればかり気にしている訳にもいかなくて、何を話してたかとかも聞こえなかったけど
ただ穏やかに話してた風でもなかったのよね…ウイが。


「ペンギン、あの写真立て父様と直してくれたの。それ本人は私に全然教えてくれなくて、父様から聞いて…もしかしたら私の事まだ好きなのかなって思って…」
「まさかとは思うけどそれ本人に直球で聞いたの?」


え?うんって、けろっと返事をするウイのストレートさに唖然としつつも
そういう子だったって暗闇の中でこっそり苦笑いする。


「私、今回だけじゃなくずっとペンギンに助けて貰ってた。…ペンギンいなかったらそれはそれは酷い事になってたと思うんだよね」
「副船長もなんだかそれっぽい事言ってたけど、何があったのよこれまで」








…嘘。


副船長はそんな話一度もした事がない。
でも聞いてみたかったから、当たり障りなさそうに嘘をついた。


なんで望み薄でも叶わなくても、他にいくらだって女は居ても
未だにウイを想い続けてるのかってずっと気になってた。


よく一緒になってバカな事やってるのは見てた。
楽しそうだった。


でも…それだけじゃないんでしょう?













私の思惑をよそに、ウイは副船長とこれまで何があったかを話してくれた。


ニシキって島で、キャプテンの初めての女と遭遇して
揉めた時の話。

ハートの海賊団と離れていた期間、副船長が当番の時は毎晩でんでん虫で話してて
それに励まされたり、ちょっとした相談に乗って貰ってた事や
キャプテンにも隠してたドフラミンゴとの商談を、副船長は知ってて黙ってくれていて
バレて怒られた時には庇ってくれたらしい事。


途中から助けて貰った事から脱線して、あんなこともあったこんなこともあったって話になったけど。










当たり前だけど
私と出会う前のウイと副船長には、私の知らない二人の歴史があった。


話で聞くその場面を想像すると、副船長がどんな顔でそれをしてたかがなぜか
想像出来る気がした。






「あれ?何聞かれてたんだっけ?…まぁいっか。──でもね!!…幸せになって貰いたいんだよ、ペンギンには。分かりにくいかもだけど本当にいい人なの!!」
「…それはもう、なんだか…わかるわ」


ウイはきっと、これまで私が副船長を苦手っていうか…嫌いだったことに気付いてる。
だからフォローしようとしてる。


「本当に!!いい人だし凄い人なの!一見そうは見えないけど!見せないようにいい人なのが凄さの象徴なの!!」
「わかって…るから、落ち着いたら?少し」


きっとウイと同じか、それ以上にわかってる。


ウイを好きで、だからしてきた事とそのやり方を見れば
悪い人でもなくて、きっと素敵な人で、…とんでもなく不器用な人なのは明らかだ。


「ペンギンが何か失礼なこと言ったなら、それ嫌いだからじゃないからね!!」


わかったって言ってるのに、未だに説得しようと必死なウイは変なところが鈍感。


でも、どういうことって
それが気になった。


「ペンギン嫌いな人とかどうでもいい人には優しいから!色々言う人って実は好きだから!!」
「…そう、…なの」


本当に、副船長があらぬ誤解をされるのは嫌なんだなって思った。
鼻息荒く前のめりでそれを言ってる感じな勢いだった。






…でも、本当そんな感じよね。

今まで私にあれこれ言ってきてた副船長の言葉を思い返すと
嫌いでも無関心でもなかった気がする。

私がそこを見えてなくて取り違えてしまっていただけ。


「そこはわかったから。…なんで結局ちゃんと話せたかがそんなに弱気なのよ」
「んー…私が気にし過ぎなのかもしれないけど…でもそれなら良いんだけど!もう終わりにするって、言質取れなかった…から?」





「どういうこと?」
「言ってる事はもう諦めるでしょ普通って感じだったんだけど…なんか引っ掛かるっていうか…最後に念は押したんだけどね!!でも今思うと…なんか微妙なような…」










なんだか
ウイの読みはあながち外れていない気がした。


キャプテンから奪ってやろうとか、そういう事じゃない。


ただあの人は今も、ウイを好きでいるような気が
なんとなくした。








「でもそこまで念を押したなら、本当のところどうだろうと後は副船長の勝手じゃない」
「それじゃなんか…嫌っていうか。散々そこに甘えて来てどの口が言うっていうのもあるんだけど…」


なんだか自分がどうしたいのか
何を思って他人の事情に首を突っ込んでるのかわからなくなってきた。


「ローに好きって言って好きって言って貰えて…私今凄く幸せだし楽しいし…ペンギンにもそういうの感じて貰いたい…?」


ただ
気になるの。


副船長が今何を思っていて、これからどうするかが。


「本当に、凄い人なの。だから…私なんかに囚われて他の人に目を向けないなんて勿体なさ過ぎる」


もう、この感じだとウイに出来る事ってきっとない。


そこまで念を押されても気持ちが変わらないなら、変わる気がないなら
後は副船長の問題だ。


「ちゃんとわかってるわよ。きっと」


私は本当に、嘘ばかりつく。


本当は私、副船長は今でもウイを好きなんじゃないかって思ってる。

例え吹っ切っているとしたなら、もう好きな人ではなかったとしても
そこまで想った相手に副船長は不安要素なんて微塵も残さないくらい上手くやると思うから。







そこまで頑なならウイが何を言っても副船長はきっと変わらない。

ならば、そういうことにしておいて欲しかったんだろう副船長のアシストをしたいと
なんとなく思った。


「だと、良いんだけどな」
「そこにいるのに、たまに別の世界にいるみたいに思う時が…あるのよね、あの人」


これは嘘じゃない。
結構本当にそう思う事がある。


「どゆこと?」
「同じもの見てても、違うように見えてるっていうか…でも全く別のもの見てる訳でもなくて…捉え方が独特?なのかしら」


私にキツい事言ってきた時もそうだった。
ウイの父親にああした時も。

ウイと関係ない事でもいつもそう。


…主観が恐ろしい程ない?
何て言えば伝わるのかしらこれ。












destruct at reality.