18-29




「ぐえっ!」
「昨日!食べ過ぎ!たんじゃないの!?」


カレンにドレスを着させて貰ってたんだけど、インナーめっちゃ締められてる。


キツい。
苦しい。


「朝ごはんかなー…早かったから抜こうかなって思ってたらね、ジャンバールがおにぎり作っててくれて」


ついうっかり三個食べちゃった。
折角の結婚式に何やってんだ私は。


なんとか着せて貰って、次はお化粧と髪の毛。
久しぶりだなバッチリメイク。

それを人にして貰うってのもなんだか特別感だ。







特別な日だけど、カレンと私はいつも通りなんてことないガールズトークを繰り広げてて
このコスメが良いとか、良い男いるかなとか、そんなカレンに緊張も緩む。


「ウイ!綺麗だえ!馬子にも衣装だえ!!見違えたえ!!」
「ベガス聖!ちょっとまだ終わってないのに!完成してから見て欲しかったのに!!」


控え室の扉を開けて顔を覗かせてくれたのは、今日ローの元までエスコートしてくれるベガス聖。


いつも白い服着てるから、黒のモーニングもグレーのストライプのズボンも印象が変わりすぎてちょっと驚く。


「はい!完成!」
「あ、ありがとカレン」


ティアラとベールを被せて貰って、大きな姿見で自分の姿を改めて見た。


一緒に作ったから見慣れてる筈なのに
サイズ合わせとか試着で何度か着たのに、いざこうやって見ると凄い新鮮。







私、結婚するんだ。
ローと。


ベガス聖がとてとて歩いて来て隣に並んでくれて、エスコートする時みたいにこっち側の肘を軽く付き出してくれる。
それに腕を通して私も背筋を伸ばすと、なんだか本当にそれっぽい。


鏡越しで目を合わせて、どちらからともなく笑顔になった。


「ちょっと!あんたも何か言ったらどうなのよ!綺麗でしょ!?ウイ!」


キャンキャン騒いでるカレンに何事かと思って目を向ければ、ベガス聖が入ってきた扉のところに
ライトグレーのタキシードに身を包んだローが立ってた。









カッコイイ!
すんごいカッコイイ!!

どこの王子よ!!
あ、でも王子様にしては目付き悪過ぎか。


でも!
本当にカッコイイ!
かっこ良すぎる!!






控え室からしてもう、式場みたいな内装になってたから
そんな背景を背負ったローの破壊力は凄まじ過ぎた。






「ロー凄い似合う!カッコイイ!!白と迷ったんだけどやっぱライトグレーが正解だった!ローに純白とか絶対似合わな──
「煩ぇよ」


照れも、あるんだろうな。


静かめに呆れ混じりに悪態付くローはそんな素振りもまた様になってて
海賊なんだけど品がある。


本当にどこぞの王子様みたい。

嫌々式典に出てくる王子様!
そう!そんな感じ!!


ライトグレーでも普段のローのイメージとは違い過ぎる。
白衣来てても中黒だったりデニムはいてたりだったりで全身白いイメージのローって見たことなかった。


うわー…
格好いいな。

本当に格好良いな。
なんなんだろうこの人。

ズルい、ズル過ぎる。








あれ?







「ローもしかしてペアルックやだったんじゃなく白がやだったの?つなぎ」
「色がどうであろうがあれは御免だ」


昔皆のつなぎを作る時、ローは自分のつなぎはいらないって断固拒否した。
だからコートとかパーカーとかにしたんだけど。










…お揃いは嫌なのにもこもこキャスケットは良いんだよね、ローは。
今更だけど。


あんな厳ついトライバルタトゥーとか入れてて半裸でも帽子被ってるもんな。
なに?


ギャップ萌えでも狙ってるの?


「似合ってる」
「え?」


ウェディングドレスを着て式の開始時刻を待ちながら控え室でベガス聖の腕に絡まりつつも、頭の中は場違いな事でいっぱいだった。


「…綺麗だ」


そう言ってふいっと顔を逸らしちゃうローに、私の事言ってたのかって遅れて気付いて


改めて鏡に映る自分の姿に目をやった。







プリンセスラインの純白のウェディングドレス。
ウェスト部分と裾にはカレン自信作のコード刺繍が施されてて
パニエも着てるんだけど表面の大ぶりな無造作フリルがボリューミーで、そこから透けて然り気無く裾の刺繍が見えるようになってるの。
ベールの裾にも同じ刺繍が入ってるんだ。

お化粧も普段はここまでバッチリしないのに、睫毛もしっかり上を向いててマスカラとかも綺麗に塗って貰って
キラキラが入ってるフェイスパウダーを顔だけじゃなく首とか肩とか腕とか背中とか
ドレスから出てる部分全部に乗せて貰った。

髪は私アップにしたかったのに
カレンがそこは絶対譲ってくれなくてハーフアップにして巻いて貰ったんだ。
でも確かにこっちの方がお姫様みたい。

アオイが俺時計職人なのにって文句良いながらも何日もかけて作ってくれたティアラはよく見るとね、細工の部分がカレンの刺繍と同じデザインになってて
然り気無い統一感がこれもまたたまらないの。




ローと違って私は誰もがそう思う程のもんじゃないんだけど、気分はすっかりお姫様。
今の私が、自分史上一番綺麗だと思う。


そんな姿を綺麗だって、似合ってるって言って貰えるのは
すんごく嬉しすぎてまた顔がにやけた。





控え室の大きな鏡の前で、ノリノリのベガス聖と不貞腐れたローと宣材用の写真を撮って
それからは3人であれこれ昔話に花が咲いた。


主に喋ってたのはベガス聖と私。

でもベガス聖が私と初めて会った時の話をしてくれてる時は、解りにくくてもローは結構興味津々に聞いてて
ローと出会った時の話を私がしてる時はあれこれ訂正が入った。
違ぇだろって。


凄く、穏やかで楽しい時間だった。


控え室の外からは招待客の声がたまに聞こえて来たりもしてね
特にルフィくんとかあゆみちゃんなんかはもう声が大きいからすぐわかるの。





相変わらずな声の主を思ってまた顔がほころんだ。








早く皆の顔が見たい。
話したい。


緊張も少しあったけど、でも皆知ってる人だからかな
楽しみな気持ちの方が何十倍も大きかった。







ハートの海賊団にお願いした受付。
そこにはもう人もまばらで、殆どの人が式場の中に入ってる。
私は今回ベールダウンの役目があるから、式の進行はカレンが担当する事になったの。


…大丈夫かしら、あの子。





私は式場の入り口付近で招待客の誘導をしていたんだけど
変な緊張で息苦しかった。










ベールダウンが、じゃないのよ。
そっちで心配なのは度を越えて泣いてしまうんじゃないかって事。

ベールをおろしたら、ウイはもう今までのようにブラーヴェで一緒には働けないって
自分でその幕をおろすみたいで。


それが決まって大分経つのに、沢山の事を乗り越えて来た仲間が違う道に進むのはやっぱり
今でも寂しい。
おめでたいって、ちゃんと思ってるのにね。












「ソニアー!一人以外受付終了だよ!ねぇこのシャンクスって四皇の??ウイ知り合いなの!?なんなのほんとヤバくない?」
「天竜人が花嫁のエスコートするんだから今更何も驚かないわよ。…その人は送迎船で来る訳じゃないみたいだから」


声をかけに来たベポに、遅れてる招待客の対応はこっちでするから中に入るように伝えた。














…本当に、招待客一覧を見た時は私が一番驚いたわ。
ベールダウンをお願いされて、式の進行をする予定が変わった事にも。


進行役なら会場の中にいないといけない。
ベールダウンって言っても、私はスタッフ達の指示や何か不備がないかを把握しなければならないから控え室には居られない。

そうなると私のポジションって自動的にここになるのよ。


そして謀ったかのように遅れて来るあの人。













…私ウイに昔の話した時、名前なんて伝えてないわよ。


知ってて呼んだ訳でもベールダウン頼んだ訳でもないと思うし
あの人…シャンクスがここへ向かうのに送迎船を使わないのも特に不自然な事ではないんだけど


出来過ぎてないかしら。
これ。





いくら細かい事は気にしない人だって、流石にブラーヴェの名前と幹部の顔や名前くらいは見たことがある筈。
それが昔突然消えた女なら尚更、印象に残ると思うのよね。









憂鬱だわ。
本当に。





閉じられた会場の中で、少したどたどしいカレンが招待客へアナウンスしているのが聞こえ始めた頃
丁度その人はやってきた。

スタッフ達は皆自分の仕事に手一杯で、その対応をする人って
やっぱり私しかいない。


「悪ぃ悪ぃ遅れ…おぉソニア!久しぶりだなぁ!!」
「ええ。元気そうでなによりよ」


どんな顔するんだろうって少し心配だった。


驚きは、しないと思ってた。
嫌な顔するとか、開口一番怒られるとか。


…でもこれは、予想できた一番可能性の高かったリアクション。
この人はこういう人。


昔から少年のようで、でも頼りになって
陰湿さを欠片も持っていないような人だった。


「いやーあん時は驚いた!!突然居なくなるもんだから皆、…すげぇ探したんだぞ」
「あの時は…ごめんなさい」


新世界に入る直前、夢と希望でいっぱいだったあなた達の前から
私は姿を眩ませた。


お荷物になりたくなかった。


あなたの為って言い訳をしても、あれは結局は自分の為だった。


探してくれたと思う。
心配かけたと思う。

今はなんて事ないように、過去の笑い話みたいに話してくれるこの人は
きっとあの時とても傷付いて、つらい思いもしてくれたと思う。


「でもブラーヴェが新聞にもちょくちょく載るようになって、元気でやってるみてぇだから安心した」
「あなた新聞なんて読むようになったの」


読んでんのはベックマンだって言われて
やっぱりそうよねって苦笑いした。


それからも他愛のない昔話に花が咲いて
責められも咎められもしなかった事にほっとしつつも、この人の中で私はもう過去の人間になっている事を少し切なく感じた。







「ここで記帳と、あとお花選んでくれる?招待状見たでしょ?」
「あぁ。…こう、花言葉と並べられると迷うな。ウイのイメージだと可愛らしー感じのが合うんだが…」


結婚式だしそれっぽい花言葉の方が良いのか?って
花屋の前でうんうん唸るこの人のこんな感じは全然昔と変わらない。


臨時で雇ったお花屋さん。
華やかな雰囲気のここに、正装はしていても一般人にはまるで見えないシャンクスは正直浮いてる。


でもこの人、気にしないのよそういう事。




destruct at reality.