18-32




「緊張したね!でも噛まなかったしコケなかった!」
「…公開処刑だな」


うんざりとため息を吐くローの基準は中々複雑だ。

ひやかされたり人前でキスするのは全然平気そうなのに、覗きとかこういうのは嫌がる。


私みたいに一緒に楽しんでくれなくて良い。
寧ろそんなローキモチワルイ。


こういうの苦手なのに
私の為に付き合ってくれるそんなあなたが、大好きだ。











式場の扉が閉まって、冷や汗かきまくりでちょっと崩れた気もするお化粧を直して貰って
今度は青い空と海に囲まれた甲板で写真を撮って貰った。


どこからが私たちの記念用で、どこまでが宣材写真なのかはわからなかったけど
とびきり素敵なドレスとタキシードに身を包んだ私たちを、今日という日を沢山残して貰える事はただ嬉しくて仕方なかった。











結構な枚数を撮った後
今後の流れの確認をソニアとして、世界から切り離されたみたいな私たちだけの空間で皆を待つ。


「ね?素敵でしょ?船で結婚式」
「…そうだな」


さっき結婚を誓ったばかりだからかもしれない。
皆に凄く祝福して貰えたからかもしれない。


見慣れた筈のどこまでも続く海と空が、今日は特別な景色に見える。


嬉しくて仕方なくて、何度見てもため息が出ちゃうくらい素敵なローのタキシード姿に見とれてたら
疲れた感満載だったローの目付きが変わった。






これは何かを考えて、思っている時の目。
その視線の先は空と海とを分かつ水平線へと向いていた。














コラさんの事とか、考えてるのかなって思った。


生きていてくれれば、絶対この場に居てくれただろうローの恩人。

いつも笑顔で信じられないくらいのドジっ子で
誰よりも優しくて人情に溢れてて涙脆い。


ローから聞いてる話の中でしか知らないコラさんがもし出席してくれていたら
式の中で何度かあった静かで厳粛なあのタイミングでわんわん泣いてくれたのかなって顔も知らない人の行動を想像した。


…エースはきっと、不貞腐れた顔でも拍手とかするところはやる気なくしてくれて
パパは終始豪快に笑ってる。


母様はどうかな。





きっと父様を骨抜きにしてしまった、そこにあるだけで全てが満たされるようなあの笑顔で
見守ってくれてたかな。





それから皆が続々と出てきてくれて、ブーケトスにブロッコリートスと、全員での写真撮影とか諸々をしたの。

式場は今大忙しで披露宴会場へとその姿を変えてる頃だから。









ねぇちょっと聞いてよ。
ビックリな事実。

ステラさんね、結婚しててもう子供もいるんだって。


ブーケトスの時そこに加わらないステラさんを不思議に思ってたら目があって、こそっとそれを教えてくれた。


詳しく話を聞きたかったんだけど、カレンとあゆみちゃんを始めとするブーケ待ちガールズ達が早くしろって急かすから
後でゆっくり聞かせてねってその話は持ち越しになった。


別に良いけどしれっとカレンが混ざってる事には笑ってしまった。


ディゼルに突っ込まれてカレンがムッと頬を膨らませて、皆の前なのにいつもの痴話喧嘩が始まってしまって。

でもさっきの進行の時に二人がいつもこんな感じなのは十分伝わったらしい皆がそれを笑いながら見てて。


ベガス聖がね、ブラーヴェのスタッフも今は式の為に働いてくれてるけど
結婚を祝う仲間に違いないんだから他のスタッフ達も混ざれって、そう言ってくれたの。







凄い、どよめいてた。

そして皆がベガス聖を、驚きながらも感心してるっていうか、何て言うか
そんな目で見てた。


私の後ろ楯でもあった事で、ベガス聖はある程度他の天竜人とは違うって思ってくれてたところはあると思う。


でもその言葉は、きっとまた皆の認識を変えた。
よりベガス聖って人本来のイメージに近付いた。


ベガス聖は天竜人とそうでない人が別の次元の生き物だなんて思ってない。
"仲間"って言葉で括られても、憤るどころか喜ぶような人。

出来上がったものを楽しむ側に居ても
それを準備して作り上げる人達が存在する事も、そんな人達への感謝や労いも忘れない人。




嬉しそうにブーケトスに参加してくれるスタッフ達のキャッキャウフフな声はこっちまで笑顔にしてくれちゃうし
微妙な顔しながらもちゃんと加わってくれるソニアの項垂れた様子もなんだか笑っちゃう。


でも一番笑ったのは縄張り争いに必死なカレンとあゆみちゃんだったけどね。
やれこっちだ、いやこっちだってバチバチに火花散らしてる二人が一番面白かった。






意外と時間をくってしまった気がして、放っておけばいつまででも和やかなこれが続く気がして
皆にそろそろいくよー!って声をかけて背を向けた。


後ろに向かってブーケを放り投げて数秒後
聞こえてきた歓声に心を踊らせて振り向けば、ブーケをゲットしたのはなんと、ユウだった。


「お姉ちゃん見てー!!ユウが取った!貰った!!」


あの頃よりは大きくなったとは言え、ここにいる女性陣の中でユウが一番幼い。
まだ10歳くらいなのかな。

益々可愛くなったユウはあの頃と変わらない天真爛漫な笑顔でブーケを見せてくれて
ハンカチ噛みながら悔しがってる誰かさん達が子供の手からそれを奪い取るとかそういう暴挙に出なくて安心した。


「ブーケ似合うね!ユウお姫様みたいだよ!」
「本当…!!?」


淡いピンクのワンピースを着てるユウは本当にお姫様みたいで
何よりお姫様って言われて食い入るように喜んでる無垢さが堪らなくて

危なくうっかり涎とか垂らすとこだった。






続いてのブロッコリートスはそれはもう熱気が凄まじかったの。


ローは言うまでもなくあのシラケた感じよ。
馬鹿じゃねぇのって目で意気込む男性陣を見てて。

皆もそんないつものロー過ぎる態度に一々突っ込む事もない。


アンさんからちらっと聞いてたからね、なんかこんな感じなのも納得なんだけど
ハートの海賊団の大部分にカレンあゆみ化現象が起きてた。
麦わら海賊団の男性陣も勝負なら負けねぇ!!って腕捲りとかしてるし。


ここ本当に結婚式会場だろうかって思う程、それに敏感じゃない私でも殺気みたいなのを感じたの。




でもルフィくんとか意味、わかってないんだろうなー。




やたらギラ付く男性陣を前に、笑いもしないローが大きく腕を振りかぶる。
これは飛距離が長い、それを思って皆が我先にと駆け出した。







が、しかし。







「…!!取った!!僕が取った!!!」








振りからは想像出来ぬ程ひょいと投げられたそれは
最前列で皆と同じく意気込んでたリュウがゲットした。


興奮気味に緑黄色野菜を手に喜ぶリュウはきっと、初めて会った頃のシュウと同じ位の年頃。
そんな姿を見ると、シュウはあの頃から大分大人びた子供だったんだなって改めて思った。




ブロッコリートスの参加者達に、リュウは凄い得意気にそれを見せて回ってて。
皆がリュウが喜ぶように悔しがってくれてるのが微笑ましい。


何よりも
ローが真剣なちっちゃい子に配慮してあんな事してあげちゃう事が新たなトキメキを生んだ。


ブーケを持ったユウとブロッコリーを持ったリュウと、折角だからってシュウとおじ様おば様も呼んで記念撮影をして。
やるじゃねぇかってぶっきらぼうに二人の頭を撫でるローにまた頬が緩む。


私達に子供が生まれたら、ローはきっとこんなパパになるんだろうなって
そんな妄想をしてしまったのは内緒の話。






その後全員で記念撮影になったんだけどね
こんなメンバーだからより私達の近くに写ろうとする人達でまたガヤガヤ揉めたんだ。


実は気にしてたから
式の間もその後も何度か目が合った。

でも私も声をかけなければ、あっちもでしゃばっては来なくて
父様はずっと私達や招待客の皆をにこにこ眺めてた。


集合写真もきっと、端にひっそり写るんだろうなって思ってて
許した訳じゃないのに…近くに来てくれたらなって思う気持ちが、なくはなくて。


でもそんな事言えないし、言いたくない。


きっと今私こんなに幸せだから、負の感情を忘れてしまってるだけだ
一時の気の迷いだって

その小さな望みは諦めようと思ったの。







「おいそこのジジイ、こっち来い」
「…良いの…か?」


未だにギャーギャー立ち位置で揉めてる皆を尻目に
ローが父様を呼んだ。


呼ばれた方も驚いて固まってるし
私も複雑な心境のまま、どうしたのってローを見上げた。


「コイツら近いと煩ぇんだよ。良いから来い。…そんくらい問題ねぇだろ」
「それは…構わない、けど」
「ありがとう。…緊張してしまうな」


そう言ってローが父様の立ち位置に指定したのは、ローと私のすぐ後ろ。
最前列は私の隣にベガス聖、その隣にブラーヴェの幹部。
ローの隣にハートの海賊団初代の皆。

ローが言う事に逆らえる騒がしい系の人なんてここには居なくて、皆あっさり残りの場所の奪い合いに戻った。









考えてる事、バレてたのかな。






騒がしい皆に苦笑いしながらチラッと見上げたローの顔は本当にうんざりしてて
でもそれだけじゃないんだろうなって。


胸がきゅうっとなった。





やっと決まった並びで写真を撮って、カメラマンさんのオッケーですの掛け声と共に
ソニアが披露宴会場への移動をアナウンスした。


私は披露宴前に色々しなきゃだったし、皆とは別にまた入場になるから
久しぶりに会えた皆を後でゆっくり話そうねって送り出した。


披露宴は本当に、最低限のプログラムにして貰って皆と話す時間を最大限に取ったの。


ハートの海賊団の皆もブラーヴェの皆も、新郎新婦の友人代表として出し物する気満々だったみたいなんだけど
それは遠慮させて貰った。


いや、それも見たいんだけどね。
絶対凄いのやってくれると思うんだけどね。


でもたまにしか会えない人達も居るから、話せる時間がある方が嬉しいなって。




でもファーストバイトはやりたかったからやるし、知らない人もいるだろうからって私達の馴れ初め三択クイズなるものもやることになった。
最後まで残った人にはベガス聖イチオシのお取り寄せギフトがプレゼントされるの。

後は私が準備したお礼のお手紙読んでお開きかな。


ユウやリュウみたいにまだ小さい子もいるし、ブラーヴェの従業員もあまりお店を休む訳にはいかないから終了時間は早め。

その後は甲板なら好きに騒いでて良いってソニア達は言ってくれたけど、どのくらいの人が残れるかが分からないし。
…これでも時間足りるかな。





「そうそう。忘れるところだったわ。これ、シャンクスから」
「あ!!!シャンクスさん!!!」


ソニアに紙袋を手渡されて、あんなに目立つ人が見当たらなかった事に今気が付いた。


ん?

紙袋って事はカモメ便で届いた訳じゃないんだよね?
シャンクスさん来てくれてすぐ帰っちゃったの?


「急用が出来たみたい。ウイに謝っといてくれってそれ置いていったわ」
「えー…なんか逆に申し訳ないな。忙しいのに来てくれてお祝いまで貰っちゃって…」


袋の中身はなんだろう。
結構大きいぞこれ。


申し訳ない気持ちもあるんだけど、中身が楽しみでそわそわするのが抑えきれない。


「一応断りはしたんだけど、詫びも兼ねてなら良いだろって。折角だもの受け取っておきなさい」
「いや、送り返すつもりとかは全くなかったんだけどね。…ん?」


あれ?
なんだ?


何か引っ掛かった。





ん?





destruct at reality.