18-33
なんだったっけ。
えーっと……
「おまえ、赤髪と知り合いか」
横に居たローの言葉で、何に引っ掛かっていたかにやっと気付いた。
そうだ。
ソニアシャンクスさんの事呼び捨てにしてた。
初対面の人を、ソニアはそんな風には呼ばない。
「ええ。…あなた達には話したわよね。私が昔海賊船に乗っていた話を」
「……え?…ちょっと、待って…!?え!!!?じゃあソニアの昔の恋人って…」
こくりと頷くソニアにドレス着てる事を忘れて凄い体勢で驚きこけた。
ひょえ〜っ!!?って感じに。
逆に良かった。
ドレスで足元見えなかっただろうし。
「…なるほどな。おまえがやけに肝据わってんのも納得だ」
「これは元からよ」
「っていうかなんでローそんな冷静なの?びっくりしないの?びっくりでしょこれは!おったまげるでしょうが!」
全然何て事ないように普通にしてるローにもびっくりだ。
「普通に驚いてる」
「見えないよ全然!!」
ローのポーカーフェイスは本物だ。
本当に普段通りな顔してるから。
えー…でもそっか。
そうだったんだ。
シャンクスさんがソニアの昔の恋人だったんだ。
なんか、全然雰囲気の違う二人だなって思うけど
二人が並んでるところを勝手に想像したら凄いお似合いだった。
私達の逆バージョンって感じなのかな。
ローもソニアも落ち着いてるし、シャンクスさんは賑やかな感じの人だったし。
えー…
何か勝手な思い込みかもしれないんだけど
シャンクスさん元から出席出来なかったのにソニアに会いに来てくれたんじゃないの?
ソニアがブラーヴェの社長だって事はシャンクスさんも知ってただろうし。
ご祝儀もプレゼントも断固お断りって言ってたのにお詫びに渡せるちゃんとラッピングされたプレゼント持ってた位だし。
…そもそも本当に私達と男女が入れ替わった的な組み合わせなら
シャンクスさんソニアの事めちゃめちゃ大好きだよ。
すんごい好きだよ。
好きすぎてヤバいくらい好きだよ。
「…ありがとう。こうしてまた彼と会うことが出来たのもあなた達のおかげだわ」
そう言って笑うソニアは、普段以上に綺麗すぎてつい見とれてしまった。
えー…
詳しく聞きたい。
聞きた過ぎる…!!
結局ソニアも忙しいし私も準備しに行かなきゃだしそしたらすぐ入場だしで、詳しく話なんて聞けなくて。
でもそっか。
再会出来て良かったなって思った。
あんな顔で笑うって事は、その再会もきっと良いものだったんだと思うから。
「結婚式って、なんかこう、優雅なイメージだったんだけど…いざしてみると忙しいんだね」
「女は大変だな」
トレーンとベールを外して貰って、キラキラの粉またはたいて貰って
口紅塗り直してすぐ入場で。
ローはさっきまでと変わらないからちょっと休憩出来たみたい。
相変わらず乗り気ではなさそうだけど。
「さっき…ありがとね」
二人きりで話せるタイミングがなくて遅くなっちゃったけど、入場を待つ間にやっと集合写真のお礼を言えた。
「…なにがだ」
「…なんでもない」
きっとローは気付いてる。
私のお礼が何の事かを。
父様を呼んだのは皆が煩かったからって事にしたいのは
私の葛藤に気付いてああしてくれたって事を隠したいのか、私がそう思ってしまった事に触れずにいさせてくれる為かはわからない。
けど、どっちみち私の思いは見えてたと思う。
なんとなく、そんな気がした。
ローは私の事を私以上に理解してくれてて、逆に私の方がそれに追い付かなくてわめき散らす事もあるくらいで
いつも私は甘えっぱなしだ。
本当に素敵な人だと思う。
そんな人が私の旦那様。
これからの時間を私と生きたいと思ってくれて
私のこれからの人生を欲しいって言ってくれた人。
改めて、信じられないくらい幸せだなって思った。
これから生きていく中で、私の隣にはいつもローが居てくれる。
誰よりも頼りになって、こんなに格好良い人が。
あ…
「ロー凄い似合ってるね!格好良い!!王子様みたい!!」
「……なんだ今更」
怪訝そうな顔で見下ろしてくるローは、いつかみたいにわかりやすく照れてはくれなかったけど
でも良いや。
思った事は伝えよう。
口にしないと伝わらない事もある。
この人は絶対に、世界で一番素敵で格好良い人だ。
「お待たせ致しました。新郎新婦の入場です。皆様温かい拍手でお迎え下さい」
カレンのアナウンスと共に、式場の扉が開かれる。
その先には、もう見慣れた満面の笑顔の新婦と腕を組む仏頂面の新郎の姿。
先程までの式場とはがらりと雰囲気を変えたそこで、手を打つ招待客達の温かい笑顔が二人を迎えた。
当初の予定ならば、披露宴からはソニアが進行を行う予定であったのだが
招待客の反応に気を良くしたカレンがそれを譲らずに今に至ったのは一部の者しか知らぬ話。
最初はそれに怪訝な顔を浮かべたソニアも、彼女独特の持ち味が新郎新婦とこの招待客に合っているからとため息を付きつつも渋々了承したのであった。
「新郎のトラファルガー・ローさんは元は七武海にも名を連ねた億越え賞金首の海賊で、海賊団を束ねる船長です!!…あれ、これオフレコだったっけ?」
やや軽装にはなったものの、ウェディングドレスは歩きにくい。
ゆっくりとした歩調で主役達が招待客の座席の間を進む中、誰が聞いても即興とわかる新郎新婦の紹介がなされる。
「その強さは凄まじいらしくて!どんな脅威からもウイを守ってくれる事でしょう!でもね!ウイ以外に興味無さすぎてたまに失礼ですこの人!浮気の心配はないんだろうけど!もう少し他の人にも興味持ちましょう!!」
ドッと笑いで沸く会場と、額に青筋が見える気もする新郎。
それを新婦はけらけら笑いながら見ていた。
本当に、一般の結婚式ではあるまじき紹介だ。
「新婦のロレイシル・ウイさんは皆さんご存知の通り、未だに一世を風靡するあのシードルを作り出した酒職人!でも実はブラーヴェに売られてるお菓子や紅茶なんかもウイが手掛けてたりします!」
ちなみにエプロンやハンカチ等も私とコラボしてますと、ちゃっかり自分の宣伝も忘れない所は自己主張の強すぎる彼女の性格故か
頭の弱い彼女にも僅かに存在するだろう商売人魂故か…
「楽しい事が大好きで、優しくて一生懸命。友達を大事にする、本当に良い子です。そんな#Name1#が、…ずっとまどろっこしい恋心を抱いてた相手とこうして結ばれた事を、本当に嬉しく思います」
招待客が受け入れてさえくれるのならば、こうしてカレンに進行役を任せて良かったと
それをまっとう…出来ているかは不明であるが、心底楽しそうな彼女の姿をソニアは苦笑いを浮かべつつ見守った。
急遽変更となった事で、ソニアが読み上げる筈であった台本をカレンは読み合わせすらしていない。
初見で上手く読み上げられるスキルも勿論なければ、例え出来たとしても彼女は思い付きが先行するタイプの筆頭だ。
お粗末過ぎる新郎新婦の紹介を聞く招待客の眉尻は下がり、口元に笑みまで浮かんでいるのは
作りこまれた物ではない故に響く何かがあるのだろう。
「ねぇ聞いた?私優しくて良い子だって!友達想いだって!」
「…良かったな」
二人が囁き合うそんな会話が耳に届いた周囲の招待客達は、微笑ましいそれに更に笑みを深めた。
アドリブの利きすぎた新郎新婦の紹介が終わる頃には
二人は会場前方に設えられた白いソファーの前に到着していた。
周りを飾る大小の白いバルーンや生花。
そんなお伽話再来な背景を背負う二人が、深々と頭を下げる。
「新婦の強い、強すぎる希望により、主賓からのスピーチとかそういう凝り固まった物はナシになったんですが…あ!そうだペンギン!!乾杯の音頭くらいとってよ!!」
行き当たりバッタリにも程がある。
祝杯の為にと注がれていたシードルとリンゴジュース。
そのグラスを掲げる為の挨拶は本来進行がそれとなく行う予定であったのだが、彼女は彼女基準の名案が頭に浮かべば
何の躊躇いもなくそれを実行する。
ペンギンは即興でもそれを難なくこなす口の上手さも胆力も備えてはいるのだが
彼が抱える秘めた心情をただ一人知る女性はそれに、ピクリと眉を動かした。
えー、と嫌そうに席を立つ新郎の束ねる海賊団の副船長。
「えーっと…本当に急遽任されたからお粗末な感じなのは見逃して下サイ」
気泡の立つシャンパングラスを持つペンギンは
どんな時でも忘れない自身の名を象徴するマスコット付きの帽子を被ったままマイクに口を寄せた。
「この度は?キャプテン、ウイ、ご結婚オメデトウゴザイマス。参列頂きました皆様も、お忙しい中二人の為にお集まり頂きアリガトウゴザイマス」
二人に頭を下げ、招待客にもそれをする彼は
意外と結構な常識人。
いや、やろうと思えば出来るだけで普段の彼は基本自分のペースを崩さない。
「あ、俺の紹介も必要か。キャプテン、新郎の海賊団で一番こき使われてる副船長のペンギンです」
今度はペコリと軽く会釈をした彼に
批難の嵐が巻き起こった。
一番こき使われてんのは俺だ、だの
いつも副船長面倒な事任される時いねぇじゃん、だの
一番のサボり魔だ、だの
その癖おいしいとこ持ってくじゃねぇっすか、だの…
あれ可笑しいなと頬をかくペンギンに、他の招待客は目を見開いた後
クスクスと笑い出した。
あぁ、同類だと。
何も違わない、と。
新婦の選んだ伴侶で友人達。
そうは言っても、天竜人程ではないにせよ一般人の持つ海賊へのイメージは良いものとは言えない。
だがしかし彼らは殺戮や強奪が生き甲斐かのような、ただの危険で良からぬ集団ではないという事を
この苦情の嵐は会場に伝えた。
この海賊達当番制で掃除やら洗濯やら庶民的な事をさせられてるんだ、と。
副船長という立場の相手にも、こうして気軽に文句を言えるような風通しの良い集団なのだ、と。
「…という感じにキャプテンはとても人使いが荒いです」
批難されているのは自分だと言うのに、しれっと話を差し替えるこの惚けたキャラクターも
一般的な海賊のイメージを払拭するのに一役買ったのかもしれない。
相変わらずブーイングの止まない集団を華麗に無視して、ペンギンは再びマイクに口を寄せた。
「堅苦しいのも長いのもアレだと思うんで手短に。…キャプテンともウイとも結構な付き合いで、ここに来るまで二人にはすれ違いとかまどろっこし過ぎる期間とか…周りがお手上げ状態の激しすぎる喧嘩が…山のようにありました」
先程までのバッシングはどこへ言ったのやら。
ハートの海賊団の面々は揃ってうんうん頷き、他の招待客達は知らぬ二人のこれまでの経緯を真剣に聞き入っていた。