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「でもそれが全部、二人の結び付きをより強めた良い思い出話になって、良かったですね。オメデト」
その言葉に、新郎新婦はこれまでの過去に想いを馳せつつ
新婦はペコリと会釈し、新郎は相変わらずの様子で自身の右腕をじっと見据えていた。
「どっちもこれまで沢山苦労して来たから、これからの時間が二人にとって落ち着けて幸せななものであることを…切ニ願ッテマス」
「なんでたまにカタコトなのよ。……あ、そういうこと?えっと!皆様ご起立頂きまして、ご一緒に乾杯の…乾杯の?あれ?まぁ良いや。乾杯しましょう!」
所々がぎこちないのは照れなのかキャラなのか他の何かかはわからぬものの
ペンギンがカレンに何かを目で訴えた事で彼女は招待客達を促した。
カレンがどもったのは
多すぎる文字の書かれた原稿の中から、目的の箇所が見つけられなかったのか
"唱和"という文字が読めなかったかは定かではないが
招待客達は皆その意図が伝わり腰を上げグラスを手に持った。
「それではお二人の幸せと皆様のご多幸をお祈りしまして!かんぱーい!!!」
そこ、おまえが言うんかい。
誰もが心中でそれを思いながらも、だがしかしそれすらも笑いに変わってしまう不思議。
皆が同じテーブルの中でグラスの合わせ、会場内に涼しい音が響いた。
「結局そこカレンが言うなら俺駆り出された意味あった?」
「あったあった!!ナイススピーチ!!流石ペンギン!!惚れ直した!!」
無茶振りの加害者が被害者の肩をバシバシ叩き、しっかりマイクに乗っていたその言葉に
一人の招待客が驚愕の表情を浮かべる。
ライバルが結婚するのならば、今度こそ私がと意気込んでいたあゆみ。
新たなライバルはまたもや「ナイスキャラじゃんあの司会の子〜!!」と思っていたその人。
彼女はそれ以降、カレンの一挙一投足を食い入るように観察した。
強烈過ぎる恋心を抱く相手が選んだ女性から彼を口説き落とすヒントが何か得られないかと、尋常じゃない程にカレンを見つめ続けた。
それが思い込みの勘違いとは知らずに。
そんなどこかの誰かをよそに
乾杯の音頭を半分取ったペンギンへの拍手が鳴りやんだ会場には、赤やピンクで彩られたザ、ウェディングケーキと言わんばかりの見るからに高カロリーな物体が運び込まれた。
「ウイがうちのパティシエを困らせまくった果てに仕上がったこのケーキは、文句なく可愛くて美味しすぎて幸せになっちゃうこと間違いなし!だそうです。デザートに皆様にも召し上がって頂きますのでお楽しみに〜」
相変わらず台本無視で進むカレンの進行。
彼女に紹介はれたそれは、段を重ねる毎に徐々に小さくなっていく円柱が五段重なった純白の生クリームのケーキ。
一段降りる毎に幅を増す波を描くアクセントの帯は、苺と濃淡の混ざる赤やピンクのマカロンが彩っていた。
生クリームのケーキもマカロンもそこまで好きじゃないけど可愛いからこれが良いと、パティシエの職人魂に火をつけたウイの一言。
菓子は見映えも重要。
それがウェディングケーキなら尚更。
しかしブラーヴェに見初められる程の職人が、それに妥協できる筈がない。
結果仕上がったこのケーキのクリームとマカロンを試食した新婦が蕩けるような笑みを浮かべた時
パティシエは魔のような試作地獄から解放された事を知り崩れるように倒れたとか、なんとか…
カレンのアナウンスで夫婦初めての共同作業を近くで見物しようと招待客達が前方に集まり、見た目も味も新婦大満足の仕上がりとなったそのケーキを間近で見た者達は
まだ食べてもいないそれに生唾を飲む者が絶えなかった。
あっさり済んだケーキ入刀。
その瞬間拍手こそ起こったものの、実のところこのイベントにそこまで見せ場はない。
それでも新婦がこれをやりたがったのは、次に待つそれを切望しての事だった。
「それではお待ちかねのファーストバイトですね!一生食べるものに苦労させないという意味があります!ロー!準備は良いですかー?」
大きめのスプーンでケーキを掬おうとしたローに、こっちが良いと食べさせて貰う部分に注文を付けるウイは流石だ。
仕方ねぇなという顔を浮かべながらも、マカロンとベリー類が乗った指定された部分を
新郎は若干の悪意を込めて大きめに掬い取る。
「それではいきますよー!皆さんもご唱和下さい!せーの!」
「「「「「あーん!!」」」」」
新郎の悪巧みは、新婦の豪快なまでの大口に完膚なきまでに叩き潰された。
スプーンの上のケーキを綺麗に口に収めた新婦は、もぐもぐとそれを頬張り
やっぱり美味しいと幸せそうに笑うのだった。
綺麗とも可愛いとも決して形容出来ない、だがしかし彼女らしい大口を招待客に披露し笑いを拐ったウイ。
しかし彼女は自分の番で、更に彼女らしさを発揮しにかかった。
「続きまして、ウイからローにですね!アレ準備して!!」
カレンとウイは目を合わせると、悪い顔でほくそ笑み合った。
カレンに促され運ばれて来たのは、金色に輝き白いリボンの施された…
シャベル。
そう、シャベルだ。これは。
地面を掘る時に足でそれに体重を乗せると深くまで掘り起こせる
シャベル。
それも結構なサイズ。
会場に本日何度目かになる爆笑が巻き起こる。
これは新郎の悪巧みとは比にならないレベルの"あーん"が待っている。
それにウイがどれだけのケーキを掬い取るのか、それをローはどう対処するのか。
…いや、どんな嫌そうな顔をしてくれるのか。
新郎をあまり知らぬ招待客達も徐々にこの場の笑いどころを押さえつつあった。
ローはそれの登場に、これから何が始まるかを予見し
無言で頭を抱える。
この新郎、今日だけで一体何度頭を抱えたのだろう。
「一生美味しいもの作るからね、という意味が込められてるんです♡#Name1#、準備は良いですか〜?」
「待って待って!どこが良いかな…」
二人がかりで運ばれて来た金色のシャベルをウェディングドレスを身に纏いながらも一人で軽々と持ち
良さそうな場所を頭上に音符でも見える程にルンルンで探すウイの姿を、招待客達もここが良いんじゃないかとアシストする。
この場にローの味方等いなかった。
結局シャベルに掬い取られたのは小振りなワンホール分に相当しそうな量のケーキ。
ローはわかっていた。
花嫁に食べさせる気等ないことを。
これが正当なそれではないことを。
シャベルを構えるウイのそれは既に、パイ投げ上等!と言わんばかりのそれであった。
「では皆さん!再度ご唱和下さい!っせーの!」
「「「「「「あーん!!」」」」」」
さぁお口を開けてと促す半笑いの重なり合う声。
それは覚悟を決めろと言わんばかりにローを攻め立てた。
「ちょっ、待て!落ち着け!」
「私も太鼓判のこの…っ!ケーキが食べられないの…っ!?」
シャベルの柄を握り、食べさせようとする素振りから今にも振りかぶって来そうなそれをローは必死で押し止めた。
両端からの力で、黄金のシャベルはプルプルと震えている。
「食わす気ねぇだろその振り!!」
「食べさせるのが…っ!私なのが気に食わないの!?」
本当に心外だと言わんばかりに、悲痛な表情を浮かべ食い下がらぬ新婦の迫真の演技。
彼女は自分のしたい事を実行する為ならどんな手段も厭わぬ事を、ハートの海賊団の面々はいつかの水鉄砲戦争で目の当たりにしていた。
しかしそれはいつしか
それを知らぬ者達ですらこの押し問答を笑ってしまうレベルの茶番劇と化す。
腕力比べならばどちらに軍配が上がるかは歴然。
自身に向かう力をコントロールし、それを口元へと持ってきたローがシャベルの先端のケーキをパクリと食べた。
それに何て事をと驚愕の表情を浮かべた新婦と一部のギャラリーは無視し、もぐもぐとそれを咀嚼したローがケーキを飲み込む。
「…旨い」
「っんな事わかってんのよ!!なんでこういう事す…!!まだ残ってる!残ってるよロー!!」
ほら、とシャベルにこんもりと掬われたケーキを必死で指差す#name1#に
面白いもの見たさの外野が乗っかってくる。
食べ物を粗末にするな、新婦の愛のこもったあーんが受けとれないのか、と。
パイ投げしようとしてるヤツのどこに食べ物を大事にする気持ちと愛があるんだと全うな突っ込みを心の中で入れるローは、ケーキ入刀の際前に出てきた者達を眺め片鼻を引きつらせた。
敵は#name1#と野次を飛ばしている連中だけかと思っていたローの予想を覆す
祈るように何かを期待する面白い物見たさ全開の招待客の眼差し。
新婦が何をしようとしているか理解しているかが定かではないものの、ブーケとブロッコリーをゲットした幼き姉弟は
キラキラ輝く目で懇願するようにローを見つめていた。
どうかわそうと、こいつらが納得するまで先には進まねぇ。
ローは遂に、それを悟った。
ため息を付き顔を上げたローの表情には仕方ねぇなと諦めの色が滲んでおり
このポーカーフェイスの内側を読み取るのが割と得意でせっかちな花嫁は、このチャンスを逃すまいと間髪入れずに振りかぶった。
ある程度は抑えたものの、顔半分がケーキに埋まった新郎が吐いた盛大なため息は
クリームで埋められた口と鼻から出られる事はなかった。
ゲラゲラ笑い出すギャラリーとこの場を記念に残そうとするシャッターの音。
新郎の愛、しかと見届けました!とさも愉快そうに述べられるカレンのアナウンス。
笑いすぎて涙目の新婦から受け取ったハンカチで顔半分を覆い尽くすクリームを拭き取る新郎は
些か不機嫌であった。
傑作だと口々に溢しながら、ガヤガヤと招待客達は席へ戻って行く。
なんで俺がこんな目に、と心底疲れきった新郎の頬に
柔らかい布が触れた。
「ローまだ付いてるよ?クリーム」
「…誰のせいだ。誰の」
いかにも世話を焼いてる風のウイは、ローのドスの利いた文句に等屈しない。
しょうがないなぁと頬に僅かに残ったクリームを拭き取る彼女の顔は、実現したかった事への達成感で晴れ晴れとしていた。
「良いもの見れましたね!!では、これより暫し歓談のお時間とさせて頂きます。新郎新婦が皆様のお席へ伺わせて頂きますのでお席でそのままお待ちください!」
待ってましたとばかりに新婦の顔が更に輝く。
彼女にとって
結婚式という儀式やイベントが出来る事は
誰よりも愛する相手がそれをしようとしてくれる事は
本当に何にも替えがたい幸せ。
しかし
順調に進む式は徐々に緊張を解して行き、今新婦の心には最後に読み上げる手紙への僅かな緊張と
久しぶりに会えた者達と早く話がしたいという欲求が占拠していた。
「お食事も順次運ばせて頂きますが、新郎新婦到着まで皆様にお願いしたい事があります!!こちらは二人の為に、この日の為に作られた自動巻きの懐中時計です」
そう言ってカレンがそっと招待客に見せたのは、その掌に丁度収まる大きさの
アオイが丹精を込めて作り上げたプラチナの時計だった。