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「まだ動いておりませんが、こちらをこの度お二人の結婚の証人となられた皆様の手で動かし、そして今後…も?ソノ幸セナ時間ヲ刻ミ続ケラレマスヨウニ…トイウ願イヲ皆様ノ手デ込メテ頂ケタラト思イマス」
「…おまえどんだけ文字読めねぇんだよ」


流石にここは台本通りにアナウンスした方が良いと思ったのか
手元のそれに食い入るように顔を近づけたカレンのお粗末な音読にアオイが茶々を入れた。


「うっさいわね!…つまり、二人におめでとうって思いながら、一振ずつして下さい!例えば2人がしょうもない事で喧嘩しちゃった時とか!これを眺めて今日皆さんに祝福されて結婚した事を思い出せるように!!」


カレンは文字を読むのは苦手なようであるが
伝えるべき事を自分の言葉で表す事には長けているのかもしれない。


今の時間に調整されたそれがベガス聖の手に渡り、それが振り下ろされた瞬間
懐中時計の針は時を刻み始めた。









彼は何を思ったのだろう。


初めてウイと出会った日か
彼女の手掛けるシードルを初めて口に含んだその時か
誰も自分とは対等に接してくれないと諦めていた中、水浸しになったあの時の事か…


振られる毎に、時計に蓄積されていく想い。


込める側と受け取る側では異なる事もあるだろうそれが、この懐中時計を動かす。


他人であった二人の人間が共に生きるこれからの時間の原動力。
それ担うのは二人がこれまで培って来た人々との結び付きだ。






「ロイ!いつぞやはごめんね!!いつもありがとう!!っていうか今どこでどうして何してんのよ!」
「クザンさんと相変わらず根無し草で放浪してるよ。…なんだか普段通り過ぎて今が結婚式なのを忘れてしまいそうだ」


最初に訪れたのはベガス聖と初代ハートの海賊団、そこにロイが加わったテーブル。
ベガス聖も皆も話す機会はあったから、真っ先にロイをとっちめた。


相変わらず物腰の柔らかいロイ。
でんでん虫ではそこまで久しぶりでもなかったけど、顔を合わせるのはベガス聖のお屋敷以来。

ロイの人生の転機ともなった
恥ずかしくて顔向けも出来ない程に当たり散らした、あの時ぶりだった。


近況を話してくれるロイに、ローが今クザンさんが居るらしい島の情報屋の事とかを伝えてあげてて。





今はもう辞めてしまったけど、二人並んでるのを見ると海軍と海賊って印象がどうしても先行してしまって
二人が普通に話してるのになんだか違和感を感じる。












初めてロイと会った時は、まさかこんな事になるとは思いもしなかった。


寧ろね、…サザンスターだったかな。
あの戦いとかもうよく覚えてない。


ただロイはペンギンをズタボロに負かした嫌な人って、私と皆を引き離した人ってしか
思ってなかったな。


「クザンさんに伝えさせて貰うよ。それと最近新世界で正体不明の物取りが増えてるらしい。金目の物以外が狙われるらしく…気を付けると良い」
「それは…島に停泊中での事か」
「堅苦しい話はやめるえ!それにしてもブラーヴェは良いシェフ雇ったえ!この鯛の昆布締めのカルパッチョ!絶妙だえ!このオリーブオイル欲しいえ!!」


情報交換してた二人に割って入るベガス聖が、今日のお料理を誉めてくれた。

ケーキだけじゃなくお料理にも凄く拘って貰ったの。
だって誰よりも食に煩いベガス聖がそれを食べるから。


斬新で美味しい物好きのベガス聖に、お魚のメインはめで鯛ではなく別の物を準備してる。
ブラーヴェのシェフが話してくれたワノクニ出身の亡命者に教わったお料理。

だから前菜に鯛を出せた。


既に興奮気味なベガス聖が続くお料理を見てどんなリアクションをするかが気になる。


大好きな人の大好きな物が解るって
楽しくて素敵な事だよね。




タイムキーパーのスタッフが次のテーブルに移る時間を教えてくれて、こんなに早かったっけって名残惜しい気持ちで次のテーブルに向かった。


もうおしまいかって後ろ髪引かれる思いはあるけど、次も次で楽しみで。

結婚の宣誓やらファーストバイトやら
そこを最高に良かったって熱弁してくれるハートの海賊団のテーブルが2つ続いて、次のテーブルは麦わら海賊団の皆のところ。


ルフィくんは旨いけど足りねぇってお料理の量に文句を付けて、サンジさんは分析するかのようにそれを味わってて
チョッパーはドレス綺麗だな!って笑ってくれて
ナミさんはシードルおかわりしまくってて。

主にローがからかわれ通しだった。


ここのテーブルだけ、私よりローの方が親しい。
でもそれはね、アウェイ感を感じる暇もない程幸せな気持ちにさせてくれたの。


ローはローでどこで誰と話してたって変わらないんだけど、普段と違うやりとりが新しいローを見せてくれる。
麦わら海賊団の皆と言葉を交わすローの横顔がね、全くもってブレはしないんだけど新鮮に見えて
また改めて素敵な人だなって思えた。


ほっこりしながら私も色々お話させて貰ってたら、またもや次のテーブルに移る知らせ。


楽しい時間って、本当に過ぎるのが早いんだなって。
そうとしか思えない程あっという間過ぎて困る。


その後ブラーヴェの従業員のテーブルをいくつか経由して
次はステラさんとかあゆみちゃんのテーブルだって心が浮き足立ってたら、予定にはなかったカレンのマイクを通した声が鼓膜を揺らした。


「さてさてさて!!遂にこのお時間です!新郎新婦!壇上にお戻り下さい!!!」


あと半分の皆のテーブル。
そこを前に、お気に入りの真っ白なソファーに戻れとのお達しが下った。


「今日来て下さった皆様と、私達ブラーヴェからプレゼントがあります。ディゼル!アオイ!!新婦が一時退席しますので、エスコートして!!」









は?










なにそれ聞いてない。









「ウイ、ちゃんと歩こうね」
「喜べウイ!俺様がエスコートしてやるしこれ付けたらおまえ最高に笑い取れるぞ!」


アオイにアイマスクを付けられた瞬間、本当に会場に爆笑が起こって
肌に触れる空気が揺れた。








「ちょっ!!何これ聞いてない!!っていうか絶対変な目ついてるやつでしょこれ!!何!?どんなやつ!?」


気になるのそこなんだって、皆の笑い声の中からディゼルの呆れたような声が聞こえたんだけど
結局それは教えて貰えなかった。


こんだけ笑ってるってことは、キラキラおめめの可愛いヤツではない筈…





もう。
どんなサプライズよ。


本当に驚いて嬉しい時って、なんだかそれを素直に喜ぶのが恥ずかしくて。
アイマスクの目に合わせた変な動きでもして誤魔化そうとした作戦も失敗に終わって。

腕を組むってよりも、ディゼルとアオイに両腕をがっしりホールドされてるから
まるで気分は捕まった宇宙人だよ。


…全くもう。


「ヨホホホ〜!!では一時退席の音楽は私が奏でましょうか!」


この笑い声は、…ブルックさん。
聞こえて来たバイオリンの音色に合わせて、ずっとBGMを担ってくれてた生演奏のオーケストラがその伴奏を奏で出す。


「ねえ、本当に聞いてないんだけど」
「まぁまぁ。こういうのは身を任せるものだよ」
「そうだ!取り敢えず歩け!!」


両脇に居るだろう仕事仲間に事情の説明を求めれば、それはやっぱりスルーされる。


前が見えない不安の中、導かれるがままに進む道は期待で満ちていた。
まだ収まらない驚きと嬉しさがドキドキ胸を高鳴らせる。







本当にいつの間に…
皆は何を準備してくれたんだろう。








何度が曲がった後椅子に座らされて、髪引っ張られたりなんかごそごそされてるのをされるがままに受け入れてた。

お花の、匂いがした。


もう両手は自由なのに、きっとふざけた目の付いてるアイマスクを
取る気にはならなかった。

何度何してるのか聞いても、それは結局教えて貰えなかった。



そんな中カレンのよし!って声が聞こえて来て
行くよ!って言われて椅子から腰を上げる。


腕を引かれるがままに歩いてたら、遠くから拍手が聞こえて来て
その音は扉の開く音と共に、関を切ったように大きくなった。








多分、会場に戻って
何も見えない私を導いてくれた手はローに手渡された。


見えなくてもわかる。
これはローの手。


拍手が一層大きくなる中、何も言ってくれないローの腕に引かれるがままに
足を進めた。








「お待たせしました!ロー!そのふざけたアイマスクを取っちゃって下さい!!」


マイクを通したカレンの声。
これ以上ないってくらいの手を打つ音が鼓膜に響く。


そんな中
光を得た私の目に映ったのは、皆の温かい笑顔だった。


何が皆をそうさせるかわからなくてローを見上げれば
少し照れてるようにも見えるその人の手には、やっぱりふざけたプリントがされたアイマスク。
ゴツ眉毛の暑苦しさ全開のやつ。


やっぱりなって思ってため息を付くと、視界の端に覚えのない彩りが見えて、その先の自分を見下ろした。









「マーガレット"真実の愛"、ガーベラ"希望"、デンファレ"お似合いの二人"、フリージア"信愛の情"、ラナンキュラス"とても魅力的"…」









披露宴会場に入ってから、実はずっと不思議だった選んだ覚えのない壇上に飾られてた大きな白縁の鏡。
お花や蔦でデコレーションされてたから、これもオブジェみたいなものだと思ってた。


鏡の中で、ローの隣に映る姿を見て
カレンが読み上げた名前のお花をそこに見つけて


プレゼントが何なのかに、察しがついてしまった。











私は本当に、なんて幸せ者なんだろう。











「花言葉、イメージ…同じ花であっても、込めた気持ちやなぜそれにしたかはそれぞれ違うんじゃないでしょうか。でもこの花は全て、皆が今日二人の為に選んでくれたものです。…綺麗よ、ウイ」


私を見つめながらアナウンスしてくれるカレンが本当に嬉しそうに目を細めてて
これをする為にドレスを調整してくれた事に気付いて

今更涙が滲んで来た。



真っ白だったドレスは今、沢山の花で綺麗に飾られてる。


ウェディングドレスを着てお姫様にでもなった気分になってたけど
今は私、花の妖精にでもなっちゃった気分だ。




destruct at reality.