5-13
妙な体勢で拘束されたのを何とかすべく
昨日はその体を浮かしてベッドに入り、元の位置に戻したウイを抱いて眠った。
体を擦り寄せ、足まで絡めてくるウイ相手に何もせず寝れたのは
確かに溜まっていたらしい疲労に加えて抱き心地の良い枕があったからだろう。
久しぶりに熟睡した気がする。
今朝早く、ウイが動く気配で目が覚めた。
薄目でそれを覗き見ていれば、ウイはぼんやりと目を開いて微睡んでる。
意識をとり戻した事に、ホッとするのはこういう事かと自分でも思うほど体から力が抜けた。
体調と足の具合を確認しなければとは思うものの、寝惚けたまま刺青を目で追うその様子に
放っておけばコイツはどうするのだろうと好奇心が沸いてくる。
急を要する事でもねぇ。
狸寝入りを決め込んだ。
だがそんなに間も開かずに
自分はこの女に何を期待したんだと、見当違いの報いが顎を襲った。
さして痛くもなければそれで起こされた訳でもねぇ。
だが散々あれだけ求めておいて、目を覚ませばこれだ。
そこに不満を感じつつも
丸二日以上眠り続けた自覚のないウイに、当たり障りなくだが状況を話してやった。
意識のない間の自分の話をきくその顔はまるで百面相。
しまいにはベッド上で土下座までしてのけた。
看病の件に関しては、それを咎めるつもりは一切ねぇ。
だが、#Name1#の謝罪には他のことが含まれている可能性がある。
見るからに反省しているウイには少し気の毒に思えたが、それにはコメントを控えた。
意識を取り戻したのであれば大丈夫だろうと外した点滴を片付けていれば、背に異様な視線を感じる。
いつまでも刺さり続けるそれにため息を吐き振り返ると、しょんぼりしたウイと目が合った。
クルー達と話すと決めた手前、フライングする訳にもいかない。
だが自然と上目遣いになるそのしょげた姿は、それだけで許してしまいそうになる威力を持っていた。
だがここで流されて済ませてやる訳にはいかねぇ。
聞かなきゃなんねぇ事がある。
「随分、魘されてたな」
「…私何か変なこと言った?」
無視された訳じゃねぇ事で許されたとでも思ってんのか、やだ恥ずかしいとウイはへらへらと笑った。
その"変なこと"に、アレは含まれるんだろうか。
「何か覚えでもあんのか」
「え?全然覚えてない。ごめん気にしないでー」
一見当たり障りのないそれは、疑ってかかれば不自然にしか聞こえねぇ。
何を口にしたのか気にしていた癖に、それを聞かずに切り上げた。
「ってか3日も寝てたんだ。通りでお腹減ってる訳だ」
朝飯を作るとベッドから起き上がったウイに特に足を庇う様子はない。
怪我の方は意識のねぇ間に大分回復したようだ。
「病み上がりは寝てろ」
「おかげさまでもう元気だよ!眠くないのに寝てるとかつまんないじゃん」
骨折した足をぶんぶん振るウイは痛みがねぇことに驚いてるようだが
日常生活は問題なくともそれはその範疇を越える。
まだ必要以上に動かすなと言ってもだって痛くないと聞く気のねぇ馬鹿は、そのまま階段へ続く廊下へと駆けて行った。
「後でで構わねぇ。話がある」
「今でいいよ?なに?」
ドアノブに手をかけたウイが振り返り首を傾げる。
そのツラは、昨日まで魘されていたとは思えねぇ程すっとぼけた顔をしていた。
「アイツらも居るときに話す」
「そ?じゃあ朝ごはんの時だね!」
特に気にした風もねぇウイはそう言うなり部屋を出て行った。
一人になった部屋で改めて思い返しても、やはり何かが引っ掛かる。
誤魔化された感が否めねぇ。
俺には言えねぇと。
人間誰しも言いたくねぇことの1つや2つはあるもんだ。
だがあれだけ魘されるような事を、恐らく隠そうとしているだろうウイに感じるのは
苛立ち。
顔はヘラヘラ笑ってはいても、立ち入るなと拒絶された。
直接そんな態度を取られるよりも、それは地味に堪えた。
昨日まで、ついさっきまであんなにも必要とされていたのが嘘みてぇに思えた。
「ではでは!ご心配おかけしました!いただきます!!」
「「「…いただきます」」」
…どうしたんだろう。
今もだけど朝から皆が変だ。
朝ご飯を準備してる途中リビングに上がってきた皆は、私の顔を見るなり喜んでる的なリアクションを一瞬取ってくれたんだけど
その後からずっとこんな感じ。
とにかく変。
なんかよそよそしい。
いただきますの挨拶も今日はなんか元気ないって言うか…ローに至っては無視だ無視。
さっきはそこまで機嫌悪くなかったのに。
怒ってる…のか?
海賊に捕まって、巻き込んじゃって、怪我の治療までさせちゃって。
怒るかそりゃ。
でも…こういう気まずい感じじゃなく、言いたい事あるならハッキリ言ってくれれば良いのに。
何を話しても微妙な返事しか返ってこない朝の食卓には、色々と思惑を込めて握ったおにぎりとお味噌汁、それとちょっとしたおかずを並べてる。
それを頬張りながら相変わらず目を合わせてくれない皆の表情を伺った。
ローが無言かつ無心でおにぎり食べてるのは仕方ない。
むしろ、若干それを狙った。
何か怒られそうだったし、これで機嫌直ってくれないかなって。
でも他の皆まで無言なのはなんで?
「ウイ。おまえ俺らに何か、言うことあんだろ」
「さっきから何言っても微妙なリアクションなのに何を言えと」
鮭おにぎりに食らい付いてるローが喋った。
謎な事を。
言ってる事も謎だし、おにぎりの時ローが食べる以外の事するのもちょっと驚きだったんだけど
皆が真面目な顔で見てたから。
やっぱ改めてちゃんと謝ろうって思った。
「沢山心配と、迷惑かけちゃってごめんなさい。助けてくれてありがとう」
持ってたおにぎりをお皿に置いて頭を下げた。
でもやっぱり何にも言ってくれなくて、顔を上げて皆の表情を伺えばそれは揃って微妙な顔してて。
謝った所で許さねえとか、そういう事なのこれは。
皆怪我とかはしてないみたいに見えるけど、あの海賊達は海楼石の銃弾を持ってた。
捕まるどころか最悪殺されてたかもしれない。
結果オーライだったけど、本当に私は皆を危険に晒してしまった。
「そこじゃねぇ」
「え?」
改めて考えたら相当な迷惑をかけた事に今更気付いて落ち込んでたのに、何か私はズレてたらしい。
皆は何か私に不満があって、でもそれは巻き込んじゃった事じゃないみたいで。
訳が分からなすぎて目線でそれを問うようにローの顔を覗き込んだ。
呆れたようにため息を吐いたローが無言でテーブルに何かを置く。
それは、先日海賊達から失敬してきたウォーターセブンのエターナルログポースだった。
「シュウが持ってきてくれたの?良かった!ちゃんと届いてて!」
皆が子供達を送ってくれたって聞いてたから大丈夫だとは思ってたんだけど、でもちゃんと届いたのを確認出来てほっとした。
「あの海賊達が持ってたの!だから貰って来ちゃった!」
探し求めていた物が目の前にある。
中々珍しい物らしいこれを手に入れられたのはお手柄な筈。
なのに皆の顔は浮かないっていうか、寧ろ何か怒ってて。
その視線が痛い程突き刺さった。
「話はガキ共に聞いた」
ローの話によれば
私が寝てる間、毎日子供達はお見舞いに来てくれてたらしい。
それは嬉しい。
嬉しいけど、話…?
聞いた…?
私なんかあの子達にヤバい話したっけ。
「あの海賊達にも締め上げて全て吐かせた。──お前が捕まった時の経緯も全てな」
え。
あー…なるほど…。
そういうことか。
自分から捕まりに行ったのがバレてるんだ。
「反省してんなら自分で話せ。なんでそうなった」
シュウ達から聞いたっていうのは、助けに来たって言っちゃったアレだ。
ならもうそれは誤魔化しようがない。
観念して酒場からの経緯を全て話した。
それを皆は黙って聞いてた。
「──ということで、本当に申し訳ありませんでした」
偶然迷惑かけちゃった訳じゃない。
考えが甘かっただけで、私は意図的に皆の事を巻き込んだ。
あの海賊達が海楼石の銃弾を持ってた事も全部話して、今度こそ深く頭を下げる。
話す事がもうなくなっても、沈黙は続いた。
皆、呆れて物も言えないのかな。
「ウイ、なんで俺たちが怒ってるかちゃんと分かってる?」
ずっと黙ってたベポが口を開いて恐る恐るそっちを向けば
呆れてるには呆れてるけど、思ってたのとは違う顔のベポがこっちを睨んでた。
「私が後先考えずに行動したせいで、皆を巻き込んじゃったから…でしょ?」
ちゃんと解ってる。
船を探されたら皆の事がバレちゃう事を考え付かなかった私が浅はかだった。
それを聞いた皆から何個も重なったため息が聞こえて来て、本当にアホだったなって自己嫌悪が凄まじい。
「ウイはどこまでバカなの。俺らがンなことで怒ってるとか本気で思ってんの」
普段より大分トーンが低い声が、ペンギンが今結構不機嫌な事を伝えて来る。
怒ってるのは十分解った。
でも、それが原因なんじゃないの…?
もう謝るから教えてよって、縋るように皆の顔を見た。
「お前拐われたって聞いた時、俺らがどんだけ心配したかお前ちゃんと分かってんの」
解ってるよ。
皆は本当に海賊かって疑いたくなっちゃう程優しいから。
でもそれさっき謝ったじゃん。
謝って済む事かは置いておいて
反省してるのにわかってないと云わんばかりに叱られ続けるこの状況に、段々こっちが苛々して来た。
「そんな事して手に入れたログポースを俺らが喜ぶとでも思ってんのか!?最悪どんな目にあってたかとか!お前ちゃんと分かってんのかよ!!」
頭が真っ白になった。
確かにそこは、考えてなかった。
「ログポースが手に入った代わりにお前死んだなんてことになってみろ!!俺らにどんな思いでウォーターセブン行けってんだよ!!」
本当…だね。
もしそうなってたら、優しい皆はウォーターセブンに行けても
潜水艦を作って貰えても全然喜ばないと思う。
でも…
「死ぬつもりで捕まった訳じゃないよ。ちゃんと逃げる策も考えてた」
「ったりめぇだろバカがっ!ふざけんな!!死なねぇだけが全てじゃねえだろ!!」
更に勢いの増したペンギンの怒鳴り声にびくりと体が震えた。
それに縮こまっちゃってるのは、怒鳴られたのが怖かっただけじゃない。
ペンギンの言うことが間違ってないから。
「お前アイツらに輪されでもしたらどうするつもりだった!?キャプテンにからかわれたくらいで顔真っ赤にしてたヤツが!あんなもんじゃ済まねえんだぞ!!」
本格的に、もう何も言えない。
それも確かに有り得た話だ。
私は考えも甘かったし、自分の事しか考えれてなかった。