5-21



「ペンギン先に潰しても良いんだけどさ、これじゃつまんないし。他のやろう!」


つまんなくしてんのはおまえだがな。


早かれ遅かれ全員潰れるだろうこの流れでは、どのタイミングで誰から潰れようと割とどうでも良い。
しかし瀕死のペンギンは助かったと言わんばかりに喜んだ。


「何しよー。何するー?」


何でも良い。
だが、それを言う体勢をどうにかしろ。


隣に座るペンギンによりかかるようにトランプを切るウイは、猫が甘えるようにごろごろとその頭を擦り付ける。
目線で牽制しても、酔いすぎたペンギンはそれに気付く事なく
寧ろ抱き締めるようにウイに腕を回していた。


「俺の華麗なトランプ捌きを見よ!──あ」
「ちょっとー!へたっぴへたっぴー!!」


酒で手元が狂ったのか元から下手くそなのか。
ウイの上でトランプが盛大にぶちまけられる。

下手くそと頭を叩かれた反撃に頭突きを繰り出すペンギンに、気付けば結構な音を立てシードルの瓶をテーブルに置いていた。
流石のそれにはペンギンも俺が何を言いてぇか気付いたようだ。


「え、なに?」
「わざとじゃねぇって!忘れてた、ごめん」


じゃれ合いこそ収まったものの、未だくっついたままの二人。
それを引き剥がすべく無言で立ち上がり、ウイの両脇を抱え自分の隣へと置いた。


わざとじゃなければ何をしても良い訳じゃねぇだろうが。


まぁまぁと床に散らばったカードを拾い集めるペンギンを睨み付けると、それを誤魔化すようにわざとらしい声をあげる。


「あ、そうだ!ウイ、お前シャチのこと兄貴みたいって言ってたよな」
「?そだねー」


突然場所を移動させられたウイは別に背もたれがあればどこでも良いのか、今度はこっちに背を預けながら返事をした。
寄りかかってくるウイを満足気に眺める。


「ベポはなんだっけ」
「友達!」


なんだこのやり取りは。


何の意味があるかが謎でしかない質問を続けるペンギンに眉根が寄った。


「じゃあ俺は?」


その言葉に──
自分が動揺したのを確かに感じた。





ウイがペンギンをどう思っているか。

それは気になる所だが返答によっては聞きたくねぇ。
最近その可能性が頭を掠める事が何度もあったから尚更。


ウイの答えが聞こえてくるまでの間、本当に何の意図でこんな質問を繰り返すのかとペンギンに目をやれば
その顔はニヤニヤと笑いながらこっちを見ていた。


なんだこの挑戦的な目は。

まさか
知らぬ間にウイとペンギンはくっついていて、それをこの場で俺に聞かせようと
そういう事か…?


「なに急に」
「良いから言えよ」


聞きたくない方の気持ちがどんどん増していく。
なぜシャチとベポはすんなり答えて、ペンギンはそうじゃねぇのか。







「友達!」


それが聞こえた瞬間、自分でも驚く程に体から力が抜ける。
ほら見ろと言わんばかりのドヤ顔のペンギンに、紛らわしい事すんじゃねぇと苛立ちが募った。


無駄に肝が冷えたものの、"友達"じゃねぇ可能性が否定されたのは良しとするか。


「じゃあキャプテンは?」







おいペンギン。
いくら酔ってるとはいえそれは調子に乗りすぎだろうが。


見るからにその辺りに関心のなさそうなウイにそういう目で見られてねぇ事はわかってて
だとしてもそんな対象じゃねぇと本人の口からハッキリ言われては萎える。

止めさせようと口を開くより前に、ウイはそれに答えてしまった。


「だから分かんないって言ってるじゃん」











分からない?










「キャプテンは兄貴とか友達じゃねぇの」
「それ前も話したじゃん、本当何なの…あ!ねぇローって何なの一体」


ずい、と顔を覗きこまれる。
その目は割と本気でそれを聞いているようで、俺の答えを今か今かと待っていた。


そんな事を聞かれても困る。






だが判明した事が二つ。
一つ目は、考えようによっては実は脈なしでもねぇんじゃねぇかという事。

そしてもう一つ。
見た所分かりにくいが、──ウイは恐らく既に結構酔ってる。


普段より呂律が回ってねぇ気のする喋り方に加えて


「ねえってば!」


距離が近ぇ。


むっとした顔で身を乗り出すウイの傍らでは、いつの間に4本目のシードルが既に半分その中身を減らしていた。





「俺が言った事を、お前はそういう事にでもしてくれんのか」


それなら有難い事この上ねぇ。
ウイの頭に手を回した。


前に一度、忠告した。
男にべたべた触るなと。

それを無視したのはこいつの方だ。


「いや何か参考になるかなって」


あの時の事はすっかり忘れてでもいるのか、ウイはけろっとそれを答えた。


学ばねぇ女だ。
これはもう、自業自得だろ。


「丁度俺もそこは気になってた。良い機会だ。検証でもしてみるか」


そこまで飲んでねぇ気もするが、自覚がないだけで実は酔ってんだろうか。
それともさっきのウイの発言が背中を押したんだろうか。


身を乗り出す際付いてきた手は、人の足に結構な体重を乗せている。
そこを軸にして転がしたウイに覆い被さるように手を付いた。


リビングのカーペットに仰向けに横たわりぱちくりと瞬きをしているウイは、状況を理解してねぇんだろう。
この期に及んでこの反応とは、危機感がねぇにも程がある。


「俺ちょっとトイレー」
「じゃあ俺酔い覚ましに風に当たってくるわ」
「進行方向確認して来ようっと」


ウイを押し倒したこの状況に、クルー達が退散しようとそそくさと立ち上がった。


どうせ面白がって覗きでもすんだろう。
この場に居られるよりまだ、そっちの方がマシだ。


「ちょ、ちょっと待って!!ねぇ!ローがご乱心!!酔ってるよこのひと!助けてよ!」


やっと状況を飲み込んだらしいウイは助けを求めつつ、この体勢をどうにかしようと体を起こすが
こっちも退いてやるつもりはねぇ。


「随分積極的だな」


自分から寄ってきたその頭をその距離で固定した。
面白ぇ程慌てるウイの顔は、真っ赤だった。




「ちょっ、違う!!ロー絶対酔ってる!落ち着いて!!」
「酔っ払いはてめぇだろ」


そのままの距離を保って、浮いた背を再び床に転がした。
その決して押しやれぬ絶対的な存在に背後の逃げ道を断たれたウイの焦りは増す。

肩やら胸やらを押し足をばたつかせ、本人なりに必死で暴れてるんだろうが
残念ながら全くなんともねぇ。


「冗談やめて!やり過ぎ!退いて退いて退いて退いてー!!」


想像以上の暴れっぷりに、こいついつまでこれを続けんのかと
必死なとこ悪ぃが観察させて貰う事にした。


実に気分が良い。
どんなに暴れようが絶対逃がさねぇ確信があって、更に大義名分はこっちにある。


叶わねぇ抵抗を5分程続けたウイは、息を切らし睨み付けながら暴れるのをやめた。


よく頑張った。
まさか5分も暴れ続けるとは思わなかった。


うっすらと汗ばんだ額に張り付いた髪を払ってやる。
体力を使い果たしたのか、肩で息をするバカに笑いがこみ上げた。


「バカにすんな!もう本当にどいてよ!!」
「いや、可愛いなと」


その瞬間、ウイの頬にさぁっと朱色がさす。


これだ。
これが堪らねぇ。

普段色気の欠片もねぇからこそ、貴重なこんな顔が
本気で堪らなく可愛く思えた。


「さて。冗談じゃねぇならやめる必要はねぇんだよな」


その輪郭をなぞるように指を這わせ、耳をなぞる。
耳に手が降れた瞬間、びくりと震えた体が何かに耐えるように顔をしかめた。


「ろ、ロー…?」
「どんなに飲んでも変わらねぇ顔色が、なんで今こんなに赤いんだろうな」


実際明らかに赤いその頬を撫でると、それは更に増す。
自分の思うがままなウイに高陽しているこの感覚が恐らく、支配欲や征服欲。


「ろ、ローがこんなことしてるからでしょ!!」
「それはどんな気分だ。検証すんだろ、お前にとって俺がなんなのか」


動揺し過ぎてまともに喋れねぇウイが、目線だけでも逃れようと逸らそうとする顔を
そうさせまいと阻んだ。



逸らさせねぇ。
俺だけ見てろ。





「この程度じゃ何も思わねぇなら仕方ねぇな」
「ちょっ!やぁ…っ!」


首筋に顔を埋めそこを舐めあげた。
暴れたせいでかいた汗のせいか、肌の味に混ざって塩分を感じる。

びくりと震えたそれを無視して、そのままそこを強く吸い上げた。
髪から香るのシャンプーの匂いに頭が眩む。


「ね、ぇロー!!違う!何、も思わないとかじゃ、ない!!」


紅い跡を残しながら上へ上へと登っていき、辿り着いた耳朶を甘噛すれば
甘ったるい声が鼓膜を揺らした。


「ひっ…!待って待ってお願い待って!!」


耳の穴に滑り込ませた舌でくちゅくちゅと音を立てると
ぶるりと肩が震えた原因を思って口端がつり上がる。


全体的に感度は良さそうだが、特に耳は弱そうだ。


「で?」


乱れた息を整える困惑と怯えが入り交じる揺れた瞳が見上げてくる。


こんな目も良い。
だがその傍らに映える首の跡が、これは自分のものだと言っているようで堪らない満足感を与えて来た。


「は、恥ずかしい!!」
「それは見て分かる」


え、これだめ?と困ったように他の言葉を探すウイに、笑うのを必死で堪える。
普段と違う様子に混ざるいつもの調子に、このアホさがやはり好きだと改めて思った。

人間切羽詰まった時にこそ素が出る。


焦る様を見てるのも楽しいが、答えの出て来る様子のねぇウイを更に追い立てようと
Tシャツの裾に手を滑り込ませ脇腹を撫でた。


「ぇっ…!?どっ!ドキドキする!!」


自分に都合の良い答えが返って来た時は手を止めてやる。
もっとそれが引き出せるよう調教する今の自分は、確実に体より気持ちを欲していた。


「その原因は」
「え、原因?そんなの知らな──っ!くないです、えっと…」


都合が悪けりゃ事を進める。
なんだこの美味し過ぎる展開は。


知らねぇと投げ出そうとしたウイの腹を撫でれば、途端にそれを考え出す。

気持ちを聞けても、触れられるのも
どっちに転ばれても構わねぇ。


本当に検討がつかないのか、ウイは考え事をするときのあの癖を発動しながら必死で目線を泳がせた。


まあ良い。
ゆっくり考えてくれ。





destruct at reality.