5-22




答えの返って来ない間、この生肌を堪能出来るのはもうそれが当然の流れになりつつあった。

ただ肌に触れているだけ。
肝心な場所にはまだ手を出していない。

だというのに敏感な体は一々びくりと反応を示す。
それに愉悦を感じながら、焦らすように手を上へ上へと進めた。
それがどこに向かっているかを察したウイの顔がさっと強張る。

胸を覆う下着へと到達した指が、そのラインをなぞり隙間から中に潜り込んだ。


「待って!待って本当に待って!!分かんない!!本当に分かんないってばっ!!」


再び暴れだしたウイを無視した。
差し込んだ指が柔らか過ぎる感触をやわやわと堪能する。


「ちょっ…ね、ぇ!!お願…ぁっ!ゃめ、てぇ!」
「お前は誰にされても、こうなんのか」


腕も、頬も、足も唇も全体的に柔らかいが、ここは格別だ。
もっと自由にそこを味わおうと、邪魔な下着を取り去る為に手を背に回す。


パチン


それが外されたことで、一瞬目を見開いて固まったウイがガバッと胸を腕で覆った。


「まあ俺は別にこのままおまえが黙ってても構わねぇんだがな」
「されないもんこんな事!っていうかいい加減にしてよ!!」


潤んだ瞳で、怯えと怒りの混ざった睨みを利かせるウイには残念ながら不正解と言わざるを得ねぇ。

発言も反応も
俺の欲する物でもなければ、煽るようなそれは逆効果でしかない。


良い答えが出来れば止めてやるという教育的指導以前に、この生意気な顔を快楽に歪めたい欲求が
ガードを固める腕を撃ち破った。

先端を求め阻もうとする腕の隙間に潜り這い進む指先に、更に力を込めた#Name1#が叫ぶ。


「節操なし!大体なんでホック外すの私よりスムーズなの!チャラ男!!ヤリチン!!スケベ変態!!」


おまえそんな下手くそなのかと思う気持ちと
不特定多数にこうだと思われてるらしい事が、何とも言えねぇ気分を生む。


「──別に誰でも良い訳じゃねぇ」
「じゃあなんで!あ、愉快犯の方?」









鈍いにも程があんだろ。
なんで伝わらねぇ…。









見上げて来るきょとんとした顔は、俺を何だと思ってんだ一体。





「俺はおまえが、俺をどう思っているかが知りてぇ」
「は?」


伝わるように噛み砕いたつもりだ。
だがそれすらも伝わってねぇのか、呆けたウイの胸を覆う力が弱まる。


「兄貴でもなけりゃ友達でもねぇんだろ。じゃあお前にとって俺はなんだ」
「それ聞いたのこっち!!なんでこんな事になってるの!!意味わかんない!謎!謎展開!!」


これは…本気で救いようのねぇパターンか。


ここまで言っても伝わらねぇ。
伝わっててその感情が欠落してんのかもわからねぇ。


結構ガチ切れしてるウイに唖然とした。
唖然として止まった手に、隙をついて抜け出ようとするトロい腰を押さえ付け阻止する。


「お前…頭大丈夫か。鈍いにも程があんだろ」
「はぁ!?そんなことないし!鋭いし!!勘とか結構当たるし!!」


この状況でそれを堂々と胸を張って言いきられても、全くもって説得力がねぇ。
現に、ここまで言ってる俺の気持ちに全く気付いてねぇじゃねぇか。


「キス、してぇ」
「は?」


何言ってんだとでも言うような目が見上げてくる。
少し離れてしまったその顔に、鼻先がぶつかる程顔を寄せた。
困惑に揺れる目を、逸らさせはしねぇと至近距離で覗き込む。


「意味わかってんのか、アホが」
「近い近い近い近い!!!だから!ローは今酔ってて!欲求不満なんでしょつまり!!そのくらい理解できない程バカじゃないよバカっ!!」


それを阻止しようと、顔をどかすのに必死なんだろうが
男相手に力が通用しねぇことをこのバカはいつになったら学ぶんだ。

本気で拒みてぇなら、目潰しなり髪引っ張るなりもっとマシな手があんだろ。
されたらされたで困るが。


「お前…思ってる以上にとんでもねぇバカだぞ実際」
「はっ!!?」


伝わらない気持ちがもどかしい。

もうこれ以上ない程に言ってる。
ここまで言って伝わらねぇなら、これ以上俺にどうしろと言うんだ。


「選べ。このまま続けられんのが嫌なら、今回はキスで勘弁してやる」
「はぁ?!何その意味わかんない二択!!」


もう良い。
そっちは今回は諦めた。

この鈍さは昨日今日で改善される事はねぇ。


好きに触れられるこの状況を手放すのは惜しい。
だがどうせ幼稚なもんでしかねぇだろうそれを、どうしてもウイからされたかった。




ぶつくさ文句を言うだけで一向に選ばねぇウイを見かねて
顎を抑えていた手を下に滑らせTシャツ越しに胸の膨らみをなぞる。
追い詰められた状況を思い出したウイが慌てて引き剥がそうと伸ばした腕を、両方纏めて頭上で拘束してみた。

思っていた以上に良い眺めのそれに、無意識に口角が上がる。


「こっちが良いと。なら次の質問をしねぇとな」
「ちょ、ちょっと待った!!分かった!分かったから!!する!キスするから離して!!」


それを狙ったものの、この状況もやはり惜しい気がした。

旨そうな餌を前に一纏めにした細い手首を離してやれずにいると
そこから伝わるドクドクと速い脈と、潤んだ上目遣いに本気でタガが外れそうになる。

だがこれ以上に貴重だろう事をしてくれると言うんだ。
絶景を捨て腕を解放し、上から退いてやった。


ソファーに寄りかかり、警戒するように後退りながら体を起こす獲物を眺めながら
すっかりぬるくなった酒で喉を潤す。
恐る恐る覗き込んで来る目を捉えて、それを急かした。


「早くしろ」
「あの…え?本当に?本当にするの?」


冗談だよね?と笑って誤魔化そうとするアホに、冗談じゃねぇ事を突き付ける為腕を掴み再び距離を詰める。


「ローさんローさん、私キスとかしたことない。ファーストキス。これは余りにも理不尽。そう!理不尽!!」


悪ぃな。
覚えがねぇだけで、それはもう"初めて"じゃねぇ。

だが、本人に自覚のある初めてが欲しい。
どうしても。


「選んだのはお前だろ」
「だってあれは!!」
「ファーストキス、寧ろ光栄だが」


貰えたら光栄どころか他のヤツにくれてやる気はねぇ。
だからフライングもした。

どうせ伝わらねぇだろうとした大胆な発言に頬を染めるこいつは、一体どこまで理解してんだろうか。


そこが不明なまま、観念はしたらしいウイが怖じ気付きながらも膝立ちで顔を近づけてくる。
さぁどうしてくれるのかと泳ぐ視線を捕まえれば、笑えるほどピシリとその体は固まった。


「目!瞑ってよ…恥ずかしい」
「んな勿体ねぇことするかよ」


もうやだと、これ以上ない程に赤く染まる顔を手で覆うこの状況が堪らない。


いつも、こうなら良いのにと
そう思った。





もう本当にやだ。
なにこれ。

なんでこんなことになってるの本当に。


ペンギンにローのことをどう思うか、いつかも聞かれたそれをまた聞かれた。
自分でもよく分からないそれを、本人に聞けば分かるかもって
そんな軽い気持ちだったのに。


今となればあの時の自分を殴りたい。


なんか色々ととんでもないことをされた気がする。
その現行犯を、顔を覆った指の隙間からこっそり覗いた。


あんなことをしといてどういうつもり。
何あのスカした顔。
こっちはこんなに頭爆発しそうなのに。
…理不尽。

そう!
本当それ!
理不尽!!


ローにとってはこれも只の暇潰し程度の事なんだろうなって思ったら、なんでかチクリと胸が痛んだ気がした。


この感じならきっと、ローは今までそれはそれは沢山のお姉さん方とああいう事してきたんだろう。

モテるだろうしね。
そりゃ女の人もほっとかないよ。

理不尽な事ばっかりで不満しかないのに
こうして見ててもこの人、絵面良いんだもん。


くそっ。


さっきのせいで移ってしまったのか、自分の体からローの匂いがした。
なんかこの匂いは、嫌いじゃないっていうか寧ろ落ち着く気がする。


「考え事か。そっち手伝う方でも俺は構わねぇが」


ソファーから体を起こそうとするローの肩を、慌てて押しやった。
さっきはあんなにびくともしなかったのに、今度はすんなりソファーに戻っていくローの顔は
人を小バカにでもするように意地悪そうに笑ってた。






なによ。
何なのよ。

なに本当に、…キスしたいって。
ローとキスしたい人なら、無人島じゃない島にならいくらでもいるじゃん。




あんまそんな風には見えないけど
実はロー、今結構酔ってんのか。

そうか。
そうなのか。




色々と謎でしかないけどとりあえず
キスしといた方が良いんだろう、これは。

このまま考えてても打開策は生まれない。
謎も解けない。
痺れを切らしたローがさっきの続きを始めちゃえば、きっと恐らくキスもそれ以上もされちゃう気がするし
そんな事になれば今度こそ本当に頭が爆発する。

それに、こんな感じでローとそんな仲になっちゃうのは嫌だ。


守ってやるって言ってくれた事が嬉しかった。
仲間にしか見せない優しい顔を見せてくれるようになったことが、嬉しかった。

ハートの海賊団に女の人は居ないから。
そういう欲求を満たせる対象は沢山いるとしても、ローが仲間と思っている女は世界で私一人だけ。
それは特別な存在。

ローに抱かれでもしちゃえば、私はその他大勢の仲間入り。
それが何だか嫌だった。






深く息を吐いてローを睨み付ける。


理不尽極まりないけどやるしかない。
やってやろうじゃん、キスくらい。


キスするなら、顔が届くくらいは近寄らなきゃいけないから。
ソファーを背にその長い脚を折って膝に腕を投げ出してるローに膝立ちのまま接近した。
ギリギリ届くだろう場所まで来て恐る恐る触れた肩が温かい事に、なんでか驚いた。


人って温かいんだって。
これ、人なんだって。

ペンギンとじゃれ付いてる時とか
そこを意識した事なかったなって、なんでか今そんな事を思う。


気を取り直して近くなったローの顔を覗いたら、それはあの意地の悪い顔じゃなくなってて。
宣言通り閉じてくれる気配のない目に見つめられて、さっきまでとは違うドキドキが心臓を鳴らす。

熱っぽい視線に、色気みたいなものを感じた。


や…やらねば。
唇に、唇を、つけるだけ。

大丈夫。
いける。


なんかその目を見てられなくて、目的の唇をガン見しながら
意を決してゆっくり顔を近づけた。

吐息を感じる程の距離
あと少しで唇同士が触れるって直前でまた怖気付いたんだけど、この距離にずっといる方が心臓に悪いって
ボコボコに沸騰してる心臓をさっさと休めようって
ちょんってだけ唇を合わせて勢い良く身を引いた。







引いた。
引いた筈なの。

でも気付いたらさっき以上の心臓に悪い距離にローがいて、肩についてた手に感じた温もりを今度は全身で感じてて

そしてどこよりも、唇に感じる熱が熱かった。




destruct at reality.