5-25
待ち合わせ場所の方角から、銃声と悲鳴が聞こえてくる。
これは、なんかあったな。
ペンギンと目を合わせ駆け出した。
予想通りというか、店の前ではキャプテンが海兵二人と交戦中だった。
いや…若い方がキャプテンとやりあってて、じいさんの方はそれを見てるだけ。
恐らく…あのじいさんは強ぇ。
しかももう片方もキャプテン相手に良い勝負。
これは…
「ペンギン、とりあえず若い方をキャプテンからひっぺがせ」
「はいよ!」
ペンギンが威勢の良い返事とともにキャプテンの元へ駆け出した。
スライディングするように若い方の足元を狙ったペンギンは後退した敵の頭狙いでそのまま身を翻す。
フリーになったキャプテンがじいさんの方に向かったのを確認して、俺はペンギンのアシストに回った。
あのじいさんの相手は、例え数の有利があったとしても俺とペンギンじゃ無理臭ぇ。
ならどうにかこっちを片付けて、向こうの加勢に回りてぇとこだな。
剣を抜いたペンギンが攻撃を仕掛けた。
あの身のこなしじゃどうせ喰らわねぇだろうと想定して、避けるだろう方向に斬りかかったものの
敵はそれを読んでか敢えてペンギンの剣を受け押し返す。
これは…2対1でも分が悪い。
流石キャプテンと良い勝負なだけあるわ。
キャプテンの方も、ぶっちゃけ厳しそう。
ルーム内の戦闘ならそれはキャプテンの意のままに進む筈が、その攻撃は全て見切られ受け流されてる。
当たらねぇ理由はわからねぇが、実際そうならこれはまずい。
「…おいペンギン。10分、いや8分1人でこいつ押さえられるか」
「時間稼ぎ?了解!行ってこい!」
俺とこいつなら戦闘の腕はペンギンの方が上。
俺じゃこいつは抑えきれねぇ。
「悪いな。頼んだ!」
俺が駆け出すのと同時にペンギンが敵に斬りかかった。
それは刺さらなかったものの、次の一手を繰り出さずそのまま押し込むペンギンのせいで敵はこっちを追って来れねぇ。
キャプテンの方もこっちも、このままだとジリ貧。
ウイを沖に出させてベポを連れて戻る。
アイツが居れば若い方は確実に片付けれる。
4人でじいさんの方を囲めば…!!
戻ってからの流れを頭でシュミレーションしながら、ひたすら船へと走った。
「あーあ。なんか本当に肩身狭いっていうか…賞金首も苦労すんだねー」
「ウイ本当に何も身に覚えないもんねー。気の毒ー」
ベポと二人でフリーウィングにてお留守番中です。
「マジ迷惑だわー。本当に私が何の役に立つってのよ。10億分の価値とか寧ろプレッシャーだわー」
「ウイ実際捕まっても返品して貰えるんじゃない?アハハ」
然り気無く酷いこと言うな、ベポ。
「ベポ私と10億ベリーだったらどっち欲しい?」
「え、ウイ貰ったらどうしなきゃいけないの?」
え、即答してくれないの。
私って。
「どうって…ベポの好きにしたら良いよ!面倒見て!」
「あー。じゃあ10億ベリーかなー」
待って。
そんなに私の面倒見るってマイナス要素か。
仲間にしたいんじゃなかったの!?
机をバン!って叩きながら立ち上がれば、冗談だよウイの方が欲しいよって今更にこにことベポが笑った。
知ってる。
これが冗談だって。
ベポは結構しれっとこういうジョークをかます。
でもベポは基本優しいんだ。
今だって私の話し相手をしてくれつつずっと気を張ってる。
すごく奥まった岩場に船を隠したのに
ベポの視線はちょいちょい窓から見える島へと向くし、たまに何かを探ってるような顔になる。
きっと船に近付く気配がないかを気にしながら
私が退屈しないように、気に病まないようにってしてくれてるんだ。
本当に、申し訳なさすぎてへこむ。
私がこのまま話しかけてたら、きっとベポの邪魔だ。
「酵母の様子、見て来て良い?」
「うん。行っといでー」
丁度それっぽい用事を思い付いて、食品庫で発酵させてたそれを見に行こうと席を立った時
ベポの目付きが明らかに変わった。
「ウイ、やっぱちょっとストップ。…誰か来る」
私の手を引いて船室から出たベポが、船室の影に身を潜めながら島へ続く道をじっと見てる。
え、本当に?
物音も何もしないのにそれわかるの?
私からしたらそんな気配全く感じられない。
でもベポの表情が凄い真剣で、それは冗談とかじゃないんだろうって思った。
大人しくベポの隣で耳を済ませてたら、本当に近付いてくる足音が聞こえてきた。
本当に誰かがこっちに来てる。
なんでベポは足音が聞こえ出すあんなに前からそれに気付いていたんだろう。
っていうか誰だろう。
不安を感じながらベポの顔を見つめてたら、ベポがほっと息を付いて表情を弛めた。
「なんだシャチか。ごめんごめん、大袈裟だったね」
えへへって笑うベポに、同じく胸を撫で下ろす。
でも昼過ぎに戻ると言っていたのにどうしたんだろ。
岩影から現れたシャチの様子は、束の間の落ち着きをどこかへ放り出させた。
とんでもなく焦ってる感じのその姿に嫌な予感が胸を占める。
「ベポ!すぐに来い!ウイは船を出せ!沖にいろ!こっちから連絡するまで絶対に戻るな!!」
「…ウイ、すぐ戻るから。1人で船出せるよね?」
私の返事を待たずにベポが船を飛び出した。
これは絶対緊急事態。
皆が大変な時に、1人安全な場所で無事でも祈ってろって言うの?
…そんなの、絶対嫌だ。
ベポに続いて船から飛び出す。
「お前は来るな!!正直守りきれるか自信がねぇ!!」
シャチが戻れと目の前に立ち塞がった。
その顔は真剣だ。
「急いでるんでしょ?大丈夫、ちゃんと隠れてる」
シャチが走ってきた方角なら見てたから分かる。
連れてって貰う必要なんてないって、強行突破でシャチを押し退けてその方向へと走った。
舌打ちが聞こえた後、追ってくる二つの地面を蹴る音。
「お前までバレたら本当にヤベぇんだよ!帰れ!!沖にいろ!!」
「隠れてるって言ってるじゃん。大丈夫、皆の足は引っ張らない!!」
「ちょっと…本当に変なことしないでよ?」
引き留める時間も惜しい事をわかってやってるのは卑怯かな。
でも私だって譲れない。
そこに居れば出来るかもしれない事も、沖で待ってたらその選択肢すらない。
ベポの言葉に頷いて必死で岩場を蹴った。
走りながら二人の会話を聞いてれば、どうやら海軍と揉めているらしくて相手が手強いらしい。
あの坂を登った所だ、とシャチが指差す方角に目を向ければ
そこはメインストリートっぽい大通り。
「先行って!!場所分かったから!人に紛れて後から追い付く!!」
私のペースに合わせてロー達の所に二人が到着するのが遅れるのは避けたかった。
「お前本当に絶対見つかんなよ!!」
「危なそうなら引き返して!!」
急げって言っているのに振り返りながらまだそんな事言ってる二人に頷いて返事してたら、その後ろ姿はあっという間に小さくなった。
今ローとペンギンが戦ってる相手はあの様子じゃ、相当強いんだろう。
…お願いだから無事でいて。
強敵と台頭してる二人の安否が気になって仕方ない。
もう既に息は上がりきってて、肺は苦しいし思うように動いてくれない足にも腹が立つ。
もっと、早く皆のところに行きたいのに。
やっと見えてきたメインストリートの梺では、通行人達が坂の上を指差しながらガヤガヤと立ち話をしてた。
彼らが指差す方向には人だかり。
もうちょっと。
あそこに皆は居る。
坂道になったせいで地面を蹴る足がさっきより重くて
肺も、苦しいを通り越して口に鉄の味を滲ませる程だった。
行かなきゃ早く。
こんなのどうでも良い位に、皆がピンチだ。
「──シャンブルズ」
ガキィィッン!!!
くそ。
さっきから死角を狙って振り下ろした刀を、このくそジジィは難なく受け止める。
交わる剣先の重みが、この男の強さが桁違いな事を物語っていた。
だがこいつは受けるだけで攻撃を仕掛けて来ねぇ。
お陰で息は上がっているもののまだ無傷。
だがそれは、受け流されてる感が否めず腹も立つ。
"いつでも殺せる"、表情一つ変えねぇこの相手がそう言ってるかのようだった。
シャチが離脱した所を見ると、恐らくベポを呼びに言った。
ベポは確かにシャチやペンギンよりも強ぇが、果たして4人がかりでもこいつに敵うんだろうか。
それに…船に残してきたウイのことも気になる。
「っくしょう!クソうぜぇな!!」
時間稼ぎを理解したペンギンの苛立った声が鼓膜を揺らす。
積極的に攻めはしてねぇものの、その脇腹は赤黒く染まっていた。
左足を庇う動きからも、負わされた傷がそれだけじゃねぇ事を物語ってる。
あのロイとか言う野郎一人なら何の支障もねぇ状況が、このジジイ一人の存在で暗転する。
「余所見とは随分余裕だな」
全力で当たって尚この余裕。
昔感じた圧倒的な力の差を今感じている事を、俺は認めたくなかった。
「黙れくたばり損ない」
「とんだ愚将だな。逃げる以外、お前らが負けない道はなかったろうに」
「はっ!逃がしてくれる気もねぇてめぇがそれを言うのかよ」
確かに、敵わねぇ相手なら逃げるのがベスト。
だがこのジジイにそうさせてくれるつもりがあるようには見えねぇ。
攻めて来ねぇ癖に、この男は臨戦体制を崩さねぇ。
いつでも仕掛けるというプレッシャーを常に感じる。
「資質はあるようだな。正解だ」
この状況で、悠長に見定めでもしてるかのような口振りと目線が苛立ちを助長させて来た。
「その能力も。さして脅威にはならんがちょこまかと…いい加減目障りだ」
そう言うや否や初めて振り下ろされた剣。
受ける刀は間に合った。
受け止めたはずだったのに、敵の剣は刀を砕き太刀筋上に位置する腕と胸を深く抉る。
危険を察知しすぐ後ろに飛び退いたものの、割と深く抉られたらしいそこがドクドク脈打つ音が尋常じゃねぇ。
間髪入れず二の手を構える目の前の敵の動きは理解出来ても、それを防ぐ物がなかった。
刀が無事でも、それは盾となったかが微妙だ。
自然と出てきた舌打ちと共にシャンブルズでジジイの後方へと逃げれば──
「またそれか。見飽きたわ、小僧が」
振り向きざまの肘で頭を殴打され、目が眩んだ。
回る世界を戻そうとしてる間に、ガシャリという音とともに手首に冷たい重みを感じる。
目眩とは種類の違うそれに、吸いとられるように体から力が抜けていった。
「宝の持ち腐れとはこの事か。オペオペの実も、お前に持たれては気の毒だが…こちらとしては助かったか」
恐らく海籠石であろう手錠に繋がれた鎖を握りながらそれを言う男の後ろで、脇腹に剣を突き刺されたペンギンの姿が見えた。
俺は自分どころか、アイツらすらも守ってやれねぇのか。
「キャプテン!!」
ベポを連れて戻ってたシャチが、この状況を見て唇を噛み締める。
せめて、こいつらだけでも逃がさねぇと…
「おいジジイ」
「メルビスだ。中将をしておる…まあ、お前にはもう関係ないな」
中将かよ。
どうりで強さが化け物じみてる訳だ。