「ウイが泣いたって、それマジかよ。」
「え、ああ。その、ごめん。」
泣かせたというのはまずかっただろうか。
彼らはウイをとても大事にしているようだし。
「アイツも泣くんだな。お前ら見たことある?」
「ねえな。」
「俺もー。」
彼女は普段あまり泣かないのか。
泣いている彼女の印象が強いことと
彼らから聞く彼女の話は、普段のウイは喜怒哀楽の激しいイメージだったから
てっきり泣くことはそう珍しいことではないのかと思っていた。
「泣かせといて言うのもあれだけど、30分くらい、結構わんわん泣いて、いた。本当にすまない。」
謝罪と一緒に頭を下げた。
何も言わない彼らが気になって顔を上げると、彼らは顔を見合わせた後、揃って辛そうな顔になった。
「いや、俺らに謝ることじゃねえよ。色々あったのはウイに謝れ。な?」
「ああ。でも、キミ達の大切な友人を傷付けてしまったことには変わりない。本当にすまない。」
「そういうんじゃねえんだよ。」
どういうことだろう。
気にするなと言う彼らの言葉とは裏腹に、彼らの表情はどこか浮かない様子だ。
静まりかえってしまったリビングに、
2階からウイが騒ぐ声が聞こえる。
「そろそろ戻るか!アオイの電話の件も伝えねえとアイツうるせぇし。」
そう言って立ち上がる彼らに続いて、2階の彼らがいる部屋に戻った。
「おーい。ちゃんと服着たかー?」
「脱いでないわこのドアホっ!!」
扉の前で結構な発言をしたペンギンにも少し驚いたが、
彼女の聞きなれない言葉遣いと明るい声色を聞くと
本当に、彼らの元へ帰らせてあげられて良かったと思う。
扉をあけたペンギンに続いて部屋に入ると、彼女はお粥を口にしていた。
胸元に繋がれた管は彼女がまだ弱っていることを物語っていたが
ベッドに座る彼女の顔は、今まで見たなかで、一番元気そうな顔をしていた。
「なんだ今回も何もなし?お前痩せすぎて色気ねえからだよ。そんなんじゃ起つもんも起たねえ。」
「なっ!!そんなんじゃないってば!!っていうかセクハラ!!それセクハラっていうんだからね!!」
全く。何でペンギンはいつもこうなんだ。
他人事の下ネタトークであれば全然構わない上それはそれで楽しいのだけど
自分のことをこうもからかわれると恥ずかしくてたまらない。
大体あの時はローが酔っぱらってただけで、今回だってローは仲間の無事を喜んでくれただけなのに。
「ウイ、僕はもう戻るよ。ベガス聖への連絡方法と、お酒の納期の連絡だけ良いかな?」
ロイの言葉に、頷いて返事をする。
ここまで連れてきてくれたみたいだし、皆がロイと普通に接しているのであれば
私がこうも意地になるのはおかしいんだとは思うけど
ロイを目の前にするといつもの癖で、言葉が出てこない。
ロイは金色のでんでんむしの使い方と、お酒は最低でもひと月に20本、どこかの海軍支部に納めるようにと業務連絡を淡々と伝えた。
私はそれにやっぱり、頷くことで返事をした。
「それと、やっぱりちゃんと謝って置こうと思って。その、水をくち「だぁああああ!!」
私が急に大声を出したせいで、ロイだけじゃなく全員が何事かと私に視線を向けた。
謝ってくれるのは有り難いが、ここでそんな話はされたくない。
「大丈夫!!気にしてない!!気にしてないからそれはもう忘れて!!」
「でも、あんな泣く「だぁああああ!!から、本当に良いから、ね?」
それ以上何も言うなという気持ちを込めた視線をロイに送ると、彼は苦笑いしながら、でも本当にごめん、と謝ったあと、部屋を出ていった。
ちゃんと、私の方こそお礼しなきゃいけなかったんだよな。
また、いつか会えるかな。
「おい、さっきの話は何のことだ?」
ローの言葉がベッドサイドから聞こえるけれど
なぜだかそちらが向けない。
「お前アイツに何かされたのか。」
「されてない!ケンカ!ケンカしたの!!」
どうしてローは受け流すということをしてくれないんだろう。
いつでも何でも拾ってしまう彼のこういうところは、正直厄介としか言いようがない。
「顔が赤ぇようだけど、熱でも出たか?あ?」
「あの、えっとだから、ケンカを、したのよ。」
「一言も口聞かなかったらしいじゃねえか。どうやって。」
ロイは色々と私のことを話して言ったらしい。
恥ずかしいというか、何というか、
なぜかローには聞かれたくない。
ペンギンとかシャチとかベポなら、なんか良い気もする。
「えっと、その、淹れてくれた紅茶が不味くて。」
「くちってなんだ?水だとも言ってたよな。」
本当に、細かい。
聞き逃せよそのくらい。
ちらりとローの表情を伺うと、なんだか怒っている。
別に私とロイの間で何があろうと、ローには関係ないじゃないか。
私がローに話したくないのは、きっと
ローにもキスされた事があるから。
だからきっとローにはそれを知られたくない。
それがなんでかは分からないけれど、
でも言いたくない。
聞かれたくない。
こちらをじっと見つめるローの視線を無視して、お粥を掬い口へ運んだ。
言わなければこっちのもんだ。
「おい、そのくらいでやめとけ。」
知るか。
私は更に無視してお粥を口へ運ぼうとすると、
手を止められた。
「分かった。今は無理に聞かねえ。無理矢理消化されたくねえならそれ以上は食うな。」
私の手が動かない程度に調整されたその力と
ローの目元が優しそうな感じに見えるところから
多分私の胃はこれ以上食べると自分で消化しきれない状態なのだろう。
私はスプーンを器に戻してトレーをローに渡した。
「覗くのやめてって言ったのに。」
「そんなに嫌なもんか?体の中身なんて誰もさほど変わんねえぞ。」
それは色んな人のを見慣れたローからすればそうなのかもしれないけど
私も一応女の子としての恥じらいはあるつもりだ。
「だって、体の中見えてるってことはゲロっぽい胃の中身とか、ウンコとか見えてる訳でしょ。私だって女の子なの!気を使え!!」
私の言葉に皆が黙り混む。
自分たちのデリカシーのなさにやっと気付いたか!!
「ゲロとかウンコとか平気で口にする時点で恥じらうポイントズレてると思うけどな。」
「うん。そこ恥じらうならもっとこう、オブラートに包んだ言い方なかったの?ウイ。」
反省してると思っていた彼らは、呆れた目でこっちを見ていた。
「じゃあもう一回やる!テイクツーね!私だって女の子なのに「いや、もう聞いたから遅ぇし。」
何をそんなに嫌がっているかと思えばそんなことか。
確かに見慣れた人間の中身も、年頃の女の子である彼女からしたら恥ずかしいのかもしれない。
「っつーかお前起きてて大丈夫なの?」
「私は平気だけど。」
ウイがこちらにちらりと目を向ける。
一応医者の言うことは聞く気があるようだ。
「無理のない範囲なら構わない。」
「ならウイ、ブラーヴェの連中に声聞かせてやれ。アイツら煩くて敵わねえ。」
ペンギンはそう言ってウイにでんでんむしを渡した。
俺らもその間に飯食っとこうぜ、と言うペンギンに特に異論もなく
彼女を残して部屋を後にした。
「言いたい事があるならはっきり言え。」
ダイニングでシャチがお粥を作りながら用意したらしい炒飯を食べていたのだが
いつもは煩いほど勝手に喋りまくるクルー達が
一言も話さない上にじっとこちらを見ている。
「いや、さ。どこまで話したら良いもんかと。」
「俺も。」
「同じく。」
それだけ言うとまた黙りこくってこちらに視線を向ける彼ら。
正直面倒臭いことこの上ない。
「全部話せ。」
「いやー、それは、どうなんだろ。どう思うシャチ。」
「お前に任せる。な?ベポ。」
「うん。」
マジかよ責任重大じゃんと頭を抱えるペンギン。
本当に、彼らはどんな情報を掴んだのだろうか。
あー、どう話そうと頭を捻っている彼の様子からすると
あとは黙っていれば勝手に話し出しそうだ。
「ウイにどう接して良いかが分からねえ。」
「別にいつも通りに喋ってただろ。」
さっきも特に不自然なところはなかったように思ったが。
シャチとベポも同じことを考えているのか、どうにも微妙な表情を浮かべている。
「アイツ泣いてたんだって。」
「……念のため確認しておくがそれはウイのことか?」
それに頷いたペンギンは、それもポロっとかじゃなくわんわん30分も泣いてたらしいんだと言う。
ウイが、泣く?
以前魘されていた彼女が涙を流したことは見たことがあった。
涙目になっている所も何度か見たことはある。
でも、声を上げて泣く?
ウイが?
「俺はアイツが泣いてるとこなんざ見たことねえぞ。」
「俺らもだよ。」
3人は揃って頷いた。
「アイツ目ー覚ました時も、そんな素振り全く見せねえだろ?あんな感動的なとこでも、どんなに説教されても、足折っても泣かねえようなヤツが、わんわん泣いてたんだと。」
「それはどういう状況でだ。」
いや、それはちょっととペンギンが口ごもる。
なぜそこまで言ってそこを伏せるのかは知らないが、自分だけ知らないというのであれば
彼らはロイからその話を聞いたのだろう。
ロイが帰り際言いかけていた言葉を思い出す。
な?
泣かせた?
ロイがウイを泣かせたのか?
「なんか、それ聞いちまったらさ。アイツあんなにガリガリに弱ってんのに、いつも通りじゃん?でもやっぱり辛かったんだろうなって。それを俺らに気ー使ってあんな風に接してるんだって思ったら、なんかそれに甘えてるのも申し訳ねえっていうか。」
かと言って触れられたくねえみたいなのをあえて話すのも気が引けるし、とペンギンは視線を落とした。
「おい、それが気になるなら対処法を教えてやる。だからその状況を話せ。」
「対処法って、キャプテンウイと何か喋ったの?」
「まあ、それもあるがそれの対処法に見当が付いてるのは本当だ。」
情報を引き出す為のハッタリではない。
むしろ、今回は事が大きいだけであって
今までアイツがへらへら笑いながらも色々抱えていることにこいつらが気付いていなかったことの方が驚きだ。
気になるのはどうすればアイツを泣かせられるのか、だ。
何かヒントが得られれば、せめて彼女の気持ちを救ってやることくらいできるかもしれない。
「いやー、なんつーか。俺の口から話して良いもんなのか。なぁ?」
「だからお前に任すっつったろ。」
裏切り者!とペンギンがシャチの頭をひっぱたいた。
なんだ?この口振りは。
俺に言いにくいこと。
知るとしても、こいつらの口からそれを聞くべきではなさそうなこと。
見当が付かねえ。
「なんで?キャプテンはなんでウイが泣いた時の状況を聞きてえの?」