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「普段泣かねえヤツが、泣いたんだ。どうやったら泣かせられるか気になるだろ。」
「キャプテンウイを泣かせたいの?」


きょとんと首をかしげるベポはこの際無視だ。


「キャプテンには無理だ。同じことやっても多分ウイは泣かねえよ。いや、泣かなかったと思う。」
「意味が分からねえ。」


歯切れの悪いやりとりに苛立ってくる。
そこまで言うならもう話してしまえば良いものを。


「まあ、推測なんだけど。あるきっかけで泣き出したらしいんだけど、それ見てたヤツの話だとわんわん泣いてた理由は多分他のことだと思うって。その、捕まっちまったこととか、色々あんだろ。」
「それはロイの見解だよな?その続きに関してはどうでも良い。そのきっかけが知りてえ。」


あー、もうと頭を掻きむしるペンギン。
シャチとベポは視線をそらし無視を決め込んでいる。


「ロイのヤツが、何も口にしねぇアイツに痺れ切らせて、口移しで水を飲ませたんだと!!」


なんだと?
そうか、さっきのあのやり取りはそういう事か。


「どうせキャプテンキスぐらいウイにしてんだろ?それで泣かねえんだからキャプテンには無理だ。」
「ちょっと待て、お前らまた覗きか。」
「そこは覗いてねえ!!なんとなく、だ!!でもまあロイは泣くほど嫌なのにキャプテンのは泣かねえとか、良かったじゃん。」


な?と言うペンギンにため息をつく。
こいつらの覗き癖はなんとかならねえものなのか。

正直、ロイがウイにキスしたというのは腹が立つ。
そこの対処は本人にするとして、だ。

確かにウイにキスした時、彼女は泣いていなかった。
いやむしろ、本人に自覚があるかは知らないが
最初こそ嫌がっている素振りはあったが、それ以降はウイも俺にこたえるように舌を絡ませて来たようにすら思える。
だからこそ、それが嬉しくて中々やめられずにいた。

それは俺が、俺だから嫌がられなかったと
そう解釈しても良いのだろうか。


「だってロイのやつ口噛みつかれて流血したらしいぜ?アイツも狂暴だよな。」


俺があまり取り乱していないことに調子に乗ったペンギンがあれこれと情報を漏らし出す。
噛みついたのか。
噛み付かれなくて良かった。

「まあ良い。良くはねえけどロイをぶん殴ろうにもここにはいねぇ。」
「俺は少しウイの部屋に行ってくる。」


他の男にキスされたとなれば、早々に上書き処理しなければ。
あの時彼女の初めてを頂いておいて本当に良かった。
ロイに触れられてしまったというのは腹が立つが、それよりも今は彼女が自分にどう応えてくれるのかが知りたい。


「ちょっと待ったキャプテン!聞き逃げはずりぃぞ!!」
「ああ。放っておけ。」
「は?」


どうせウイのことだ、あえて聞いたとしてもはぐらかすに違いない。
あの頑固は筋金入りだ。


「ほっとけって、謝ったりとかさ、なんか、悪ぃじゃん。」
「アイツはそんなことしても喜ばねぇよ。」


むしろ、アイツは隠していることに触れられるのをビビってる。
俺らの前で泣かない以上、そこを触れられたくはねえはずだ。


「じゃあ何も知らねえふりして今まで通りにしろっての?」
「別に聞きたきゃ聞けば良いし謝りたきゃ勝手にしろ。ただアイツははぐらかすぜ。アイツは見せようとしないものを覗かれるのを極端に嫌がる。」


後は好きにしろ、とそれだけ言うとリビングを後にした。


「好きにしろって言われてもな。どうする?」
「キャプテンはああは言ってたけど、なんかこのままってのも、なぁ?」
「俺はやっぱり謝りたいかな。怖い思いさせちゃってごめんって。もっと頼ってって。」


3人はリビングで、ため息を付きながら顔を見合わせた。














「ウイ?」

まだでんでんむしでブラーヴェと話をしているかと思ったら、ウイはベッドででんでんむしを抱えたまま眠っていた。

寝落ちというやつか。

見たところ吐いた様子もなく、無事自力で消化できているようだ。
久しぶりに体に食べ物が入ったせいで、眠気が襲ってきたのだろう。

点滴を新しい物と替え、ベッド脇の椅子に腰をおろした。


本当に随分、痩せてしまった。
ひと月もほとんどなにも口にしていないのであればこうもなるのだろうが
普段自分たちとほぼ同じ量の食事を完食するウイ。
おやつと称して結構色々と間食していることも知っている。

そんな食べることが大好きなウイがひと月も食事を摂らない。
よほど、堪えたのだろう。

目が覚めて、抱きつかれた時は流石にウイは泣いているかと思った。
でも、彼女はやっぱりいつもの彼女で。
きっと彼女に泣いていたことを問い詰めても、笑ってはぐらかされる気がした。

目が覚めた時の様子といい、
先ほどの話といい、
なんだかウイも自分のことを好きでいてくれるのではないかという期待が膨らんでならない。

ウイも自分を好きでいてくれるのならば、どんなに危険であろうと仲間として一緒に連れていこう。

強くなるための鍛練は怠らない。
今度こそウイを守る。
彼女が抱えるものを一緒に背負ってやりたい。
いつでも彼女が心の底から笑っていられるように
支えになりたい。

でも、
もしこの気持ちが自分の勘違いで
ウイが俺を頼ることも、心を許すこともしてくれないのであれば
今はまだ、彼女に気持ちは伝えられない。
無理に仲間にすることも出来ない。

自分には、その資格がない。

ドフラミンゴを倒し、
彼女を守れる力を身に付けた時には
彼女を危険にさらす心配がなくなった時には

必ず、どんなことがあろうとも
ウイを自分のものにする。
ハートの海賊団として、ずっと側に置いておく。


情けない話だが今の俺には
お前が求めてくれないと、側に居られる資格がない。

離れたくない。
だから、俺に心を開いてくれ。
俺を必要としてくれ。


眠る彼女に呪いでもかけるように
そう祈りながら彼女の頬を撫でた。

「んぅ。」
「悪い、痛んだか?」

結局彼女はそのまま眠り続け、
ある程度は補給もできた為、自分が寝る前にウイの胸元に射した点滴の針を抜いた。
痛まないように気を付けたものの、起こしてしまったようだ。
まだ目はとろんとしているものの、これ以上睡眠を貪る気はないらしい。

「大丈夫。あれ?私いつから寝てた?」
「知るか。何か食べられそうか?」

胃の辺りをさすって、ちょっと今日は良いかもと苦笑いを浮かべるウイ。
少量の重湯だけではあるものの、あんな消化管の様子では胃もたれを起こしているのだろう。
少しでもエネルギーを摂取できるようにと
作っておいた経口補水液をベッドサイドに置いた。

「わあ。これ飲んで良いの?」

ウイの為に作ってきた物ではあるものの
聞いておいて返事を待たずにタンブラーに刺さったストローに口をつける彼女。

「お前ロイにキスされたらしいな。」
「ぶうぅっ!!」

盛大に吹き出した彼女に呆れたような視線を向けつつタオルを渡す。
誤魔化すのが得意の彼女も不意討ちには弱いらしい。
ゲホゲホとむせ混む彼女は涙目だ。
でもそういう涙が見たいんじゃない。






「で?」
「……で?って言いますと?」

ウイはげんなりとした顔でこちらを見上げた。

「だから言ってるだろいつも。お前は危機感が足りねえと。」
「違うあれは!!そういうんじゃなくて!!」

じろりと視線を向けると、彼女は顔を真っ赤にして反論した。

「た、確かに何も食べなかった私も悪いけど。手とか縛られてたし。それにあれはキスっていうか。水飲ませられただけだし。」

ごにょごにょと言い訳を述べだすウイ。
ちょっと待て。

「縛られてた?」
「私が点滴ぺいって抜いちゃったら、抜かないようにって半日くらい両手足縛られてたの。」

確かに点滴の抜去防止の身体拘束は有り得なくもない話だが
アイツはそんなウイに無理矢理……。

「おい、他に何もされてねえだろうな。」
「え、あ、うん。」

怪しい。
返事の歯切れが悪い。
ずびーと音を立てて経口補水液を飲みながらこれ美味しいねと言っている彼女を
じろりと見やる。
視線に気付いているであろう彼女はあえてそれを無視している。


ウイがタンブラーをサイドテーブルに置いたのを見て、ベッドに腰かける。

ウイは何とも言えない表情で俺の顔を見つめている。
なんなんだ、その顔は。

「本当に、あれはそういうんじゃないの!」
「まあ、噛みつくぐらい嫌だったらしいからな。」

ウイは途端に顔を赤らめてなんでそこまで知ってるのと布団に顔を埋めた。

ダメだ。
都合良く解釈してしまう頭が、ウイが自分に誤解されたくないがあまりこういう行動を取っているようにしか見えない。

今、俺がウイに口付けたら、彼女は俺を噛み付いて拒絶するのだろうか。






「噛み付くってことは、ただ水を飲まされただけじゃねえんだろ。」
「あ、あのっ!離して!!」

ウイの両腕をベッドに縫い付け、お互いの吐息を感じる程に顔を近づけた。

ウイは押さえつけられた手を押し退けようと手に力を込めてはいるものの
以前よりも格段に弱くなったそれは当然何の意味も持たない。
彼女はじっと見下ろすこちらの目から逃れようと視線をあちこちに泳がせている。

「嫌か。」

俺の言葉に目を見開き、やっとこっちを向いた。
どうしたというのだろう。
彼女はこちらを見つめたまま動かない。
嫌なら嫌でさっさとそう言えば良い。
拒絶されたところでやめてやるつもりはないのだが。

ただ、すぐに否定してくれないとこれ以上思い上がってしまいそうで
期待すれば期待するほど、突き付けられた現実がそうでなかった時に思い知るのが怖い。

更に顔を近付けると彼女の瞳がぎゅっと閉じられた。
唇に触れると、ウイはそこに力を込めて開くまいと抵抗を試みる。

それならそれで構わない。

彼女の唇の隅々まで、啄むように軽く吸い上げてなぞった。
ロイが彼女のどこにどんな風に触れたかは分からない。

でもそれがどこであろうと、全て取り除いて自分で埋め尽くしてしまいたい。

暫くそうしていると唇にこめられた力はもう大分抜けていて、そこに舌を捩じ込んだ。

「んっ……。」



destruct at reality.