「いやそこは払わせてよ!!乗せて貰えるだけで助かってるのにこんな美味しいご飯まで作って貰って無賃乗車とか有り得ない!!」
「そうだぜそこは取れよ!キャプテン金は稼げるから!!材料費の5倍は取っとけ!この飯にはその価値がある!!」
食費を始めとした乗せて貰う対価をいらないと言うウイにハートの海賊団達は気は確かかと詰め寄る。
海賊から金を取れと詰め寄られる一般人は中々有り得ない構図。
有り得るか有り得ないかは置いておいたとして、その尋常ではない勢いにウイは気圧された。
「いや、なんかそんなつもりじゃなかったっていうか…でも、そっか。そうだよね…」
唇に人差し指を当て、顎を親指で支えながらうんうん唸るウイは悩むだけ悩んだ後閃いたかのように目を見開く。
「そうだ!じゃあシージャックされてる事にしといて!もしこの先海軍とかに停められたら!」
「「「は?」」」
これは予想外の返し。
そして蚊帳の外でやりとりをただ眺めたいたローもこれには眉を寄せた。
「私一応商人?物を作ったり売ったりしてて、多分海賊と仲良しって良くない?と思うからそうして貰えると助かる!」
「…商人?」
出会ってまだ二日。
一緒に船旅という実に親密そうに思える状況だとしても、彼らと彼女はお互いにまだ知らない事が多い。
「あれ、言ってなかったっけ?…私これとかその他諸々とか、作って売ったお金で生活してる」
これ、とウイが指差したのはシャチが手に持つ酒の瓶。
それは他の面々の手にも収まっており、先程希少だの旨いだのと話題になった代物。
「…ちょっと待ってたんまたんま」
「……え?ん??…つまり、その…」
全員の視線がシャチが持つシードルに集まり、その数秒後かち合った。
「…ちょっと待てよお前すげぇヤツじゃねぇか」
「だからこんな大きな船もウィングカンパニーのお酒も沢山あったんだ」
「これまでの無礼をどうかお許し下さい」
「…なに急に」
頭を抱えるなり机に突っ伏すなり、ハートの海賊団達はウイに許しを請いだす。
船を持っている時点で既に普通ではなかった。
巷で話題の希少な酒を頭数分ホイホイ出して来るのも普通ではない。
お世辞でも少ないとは言えない男四人分の生活費を不要だとか言ってしまう感覚は一般人ならイカれている。
「あれ、言ってなかったっけ?」
どこまで話したかの自覚がないのは、長い一人旅でどこからどこまでを言葉にしているかが曖昧なせいなのだろうか。
「聞いてないよ!!」
「え…じゃあ聞かないのが悪いよ」
商人であることを隠していたつもりなどウイには全くない。
本当に話しそびれていた…いや、話し忘れていただけ。
未だに喚くクルー達を不思議そうに眺めポリポリと頭を掻くウイを、ローはただじっと見つめていた。
明らかになった事が増えたとしても、ローにとってウイが不審人物であることに変わりはない。
仲間達に警戒心を期待出来ない分、ローは全力でウイを疑っていた。
果たしてそれは 鋭い勘が知らせる警告か。
ただの取り越し苦労か。
「あ、そうそう。聞きたかったんだけどさ、これからは一緒に生活していく訳じゃん?生活スタイル?的なの共有しときたい」
「異論はない」
食事を終え いつの間にか皆が2本目以降の酒に口を付けていたその頃、ウイはそう提案した。
「私は普通だよ、多分。普通の生活。皆はどんな感じなの?」
「俺らも普通だぜ、多分」
起きて干し肉食って酒飲んで、たまに体鍛えて、釣りしたり武器の手入れしたり…とシャチが普通らしい暮らしを説く。
普通らしい海賊の暮らしを。
とにかく自由だ!
とポーズをキメて締め括られたその話に、ウイは固まったままパチクリと瞬きをした。
「…航海中って、干し肉とお酒しか食べたり飲んだりしないの?」
「キャプテン以外はパンも食う!」
キャプテンパン嫌いなんだよね、と答えるペンギン。
お前少しはリアクションしろよと、キメポーズがスルーされた哀れなシャチが不満を溢した。
「…皆それで航海中体調とか崩さないもんなの?」
「安心しろ!キャプテンは医者だ!それも名医!」
どっか悪くしたら治して貰えば良いと得意気に笑う彼らにウイは頭を抱えた。
抱えた頭はとんでもなく重たそう。
効果音を付けるなら、“ズーン!!”
「…私も論文でしか知らんし…やっぱ実際そういうもんなのかな…っていうか!ローお医者さんなの?海賊じゃないの??」
「医者で海賊だ」
「え、両刀使い凄っ!!」
情報量過多によりウイの頭は混乱していた。
医者と海賊の両立は驚きだ。
一般的なイメージが真逆のそれら。
一般人でも実は医者は結構なドッキリ。
それが海賊なら更に驚くというものだ。
結構驚きはしたものの、今は先ず直近の事を考えねばとウイは思考を今後の船上生活に戻す。
「あの…別に無理強いはしないんだけど。私は航海中でも島と同じようなご飯を食べるんだ。…もしよければ皆も一緒に食べない?」
「え?島出て飯食えんの!?」
「良いの!?」
秒で身を乗り出すペンギンとベポ。
意外とすんなり食い付いた事に 海の上では干し肉意外勝たん的な拘りはない事をウイは察知した。
海賊たる者うんちゃらかんちゃらとポリシーを貫かれたらどうしようという心配は一瞬で吹き飛ぶ。
「どうせ1人分も5人分も作る事には変わんないし。じゃあ準備して良いのね?」
ウイの言葉にクルー達は泣いて喜んだ。
海の上で飯が食える しかも女の子が手作りしてくれる旨い飯を と。
彼らはこれ迄、好き好んで干し肉ライフを送っていた訳ではなかったようだ。
食事は昼と夜は皆で食べる。
朝食はセルフで各自自由な時間で勝手に済ませる。
手前の冷蔵庫の中身は自由に飲み食い可。
奥はウイの仕事関係用なので触らない。
「──こんな感じでおっけー?」
「反対する理由がないでしょ。むしろそれ、本当に良いの?」
問題ないよと笑うウイの返答で、船上でのルールは決まった。
「おい、俺も確認してぇ事がある」
「なんでしょうキャプテン」
「お前の“キャプテン”になった覚えはねぇ」
ピシャリと戯れを跳ね除けたローではあるが、それで?なに?と首をかしげるウイにはやはりそういうものは通用しないらしい。
「見返りはなんだ」
ローの言葉を聞くウイはただ時が止まったようだった。
ローの発言に対して何のリアクションも示さない。
聞こえているかが怪しいレベル。
「みかえり?」
聞こえてはいたらしい。
ウイは見返りという言葉を知らないのだろうかと思ってしまう程のオウム返し。
黙って頷くローにウイは首をかしげ、先程のように顎を親指で支えながら握り拳を唇に当てる。
目線を斜め上に持っていったまま数秒固まり、やっと船主は口を開いた。
「え?…ん?私が??皆が??」
「…飯付きで乗せて貰う以上、俺等はおまえに対価を支払うべきだろ」
話が通用しなすぎる一般人に、対価を払わせろと海賊は詰め寄った。
本日二度目の逆恐喝。
それも今度は船長直々に。
「ねぇ、皆職業海賊であってる?大丈夫?ちゃんと海賊できてるの、そんなんで」
一応聞かれている意味を理解したらしい船主が、理解した上で彼らを信じられない物を見るような目で見つめる。
それは正にカレー味のうん◯を味が全てだと今にも口にしそうな友人を見る目。
本当にそれで良いのかと問う疑心の目。
「乗せて貰えるだけで助かるのにご飯まで準備して貰って…それでタダなんて申し訳なさすぎる!いっぱい貰っときなよウイ!」
「金が入ればウイも休めんだろ?」
感謝の気持ちが説得をさせる。
対価を受け取れと。
説得する相手が何かをほざいていた所で気にもならない程に。
実際支払う対価を稼いで来ているのは説得まではしない船長なのだが 表立って説得せずともそれを止めないのは異論がない故だろう。
「気を遣って…貰ったのにごめんなんだけど…仕事は趣味みたいなものだから」
「じゃあ何かない!?他に!!俺らができるウイが助かること!!」
必死にも程がある。
彼らが海賊であるかどうかはもう関係ない程、恩返し欲の強さが尋常ではない。
一般人でもこの必死さは義理堅さ選手権で優勝出来そうだ。
「ぷっ…!!ねぇ、ちょっ…フフッ…ごめ、可笑しい…!!」
腹を抱えて笑い出す船主ではあるが、他の三名と一匹はその行動が理解出来なかった。
何故笑われているのだろうと、不思議そうに笑いが収まるのを待つ。
「さっきも頼んだけどさ、シージャックの件…あ!じゃああと護衛もお願いしようかな!よろしくね!用心棒ズ!」
状況が理解出来ないまま、バシバシと肩を叩かれ特に労力不要な対価を押し付けられた彼らはされるがままに用心棒ズに任命された。
そんなんで良いのかと不満げなクルー達に、ならばこれもとウイは掃除洗濯を次々押し付けていく。
一日二回の日光浴中人力扇風機三十分ずつを言い渡した辺りでキレだした彼らとそれをゲラゲラ笑う船主。
和気藹々と会話を楽しむウイの横顔を、ローは神妙な顔で見つめていた。
「おい、ところでこの船真水はどの程度積める」
「まみず?積んでないけど」
船を案内された際、バスルームはハートの海賊団で好きに使って良いとウイは言った。
船主の部屋には別にそれがあるらしく、彼女はそこを使うらしい。
他のクルー達は特に何日も風呂に入らずとも苦痛を感じない人種。
しかしローは可能であれば毎日入りたい派。
そこそこ大きい風呂があり、船の規模も大きければ、船に貯水槽でもあるのだろうと思ってはいたのだが ローの問いかけに対する返事はノー。
気は確かかと一瞬表情を歪めたローは、これまでのウイの行動を振り返る。
食事の準備や洗い物、掃除に洗濯、温室に散水までしていたあの水の出所はどこなのかと。
次の島までは順調に進んでも10日。
水の蓄えなしにこの先どう生き延びれば良いのかと ローは絶望した。
「海水を濾過して真水にしてるんだよ!最近はちゃんと毎日組み上げてるから気にしなくて大丈夫!」
「…濾過?海水を?」
確かにここは海の上。
水分であれば広大な海に腐る程ある。
しかしそれは所詮海水だ。
塩分や雑菌、プランクトンなど真水にはない多くの成分がそこには存在する。
生きていく上で真水は必要不可欠。
通常船は真水を積んで海を渡る。
「気になるなら濾過装置見に行く?」
ローの不信感丸出しの思考は顔に出ていた。
基本的にはポーカーフェイスを貫く彼を持ってしても、常識の範囲を超える信じがたい事をウイは言っていたのだから。
ウイの後を黙って付いて歩くローが案内されたのは、地下2階の一角。
そこには扉の付いた中が不明な空間があった。
ウイが扉を開き明かりを付けると、現れたのは見たこともない水槽のようなもの。
「これが濾過装置。ここでゴミ、ここで塩分、最後に見えない雑菌とかそういうのを濾過して、こっちに溜めてるの」
ある意味分かりやすいが大分色々とはしょられた説明。
シャチやペンギンなら、へーすげー!で終わるだろう。
しかしこの有用性のあるこの装置に興味を抱いたローは事細かに説明を求めウイを質問攻めにし、その装置の全貌把握に努めた。