【離れていた時、何を考えても
気付けばローに繋げて考えてしまっていました。
怪我は大丈夫だったかな。
勝手なことして怒ってるかな。
何してるかな。
会いたいな。
ローも、会いたいって思ってくれてるかなって。
あの時はローのことが好きとか気付けていなくて
なんで私はこんなにローのこと考えてるんだろうって
不思議だったな。】
あの時、一度だけ
お前に呼ばれた気がした事があった。
お前も俺のことを考えていたのなら
もしかしたら本当に、有り得ない超常現象でも起きて
お前の声は俺に届いたんだろうか。
【ローのこと好きだなって気付いたら
気まずくなったり、悲しくなったり、触れたくなったり、嬉しくなったり、恐くなったり
日に日に情緒不安定になるし
考えてる事が駄々漏れって言われるし
なんだか調子が狂いました。】
お前の思考回路は正直独特だ。
出会った頃のお前は特に、型にはまらない行動を存分に発揮していた。
でも最近は
今までのお前からは考えられないくらい、人間臭く動くことが増えていて。
逆にそれに驚かされたりもした。
【皆やローに出会えて、見える世界が急にカラフルになったような気がします。
それは明るい色だけじゃなくて、暗い色もあるけれど
もし出会えてなかったら
きっと私の人生はつまらない単色の世界だったと思うんだ。】
随分と詩人だな。
つまらないなんて言葉は
とてもじゃないがお前には似合わない。
【ローみたいに、強い人になりたいです。
いつも助けられて、幸せを貰ってばかりだから
私もローや皆にとってそういう存在になりたいです。
もしそうなれたら、聞いて欲しいことがあります。
なれるかどうかも分からないけど、その時は聞いて貰えますか?】
お前は一体何になろうとしてるんだ。
助けられて、幸せを貰ってばかりなのはこっちの方だ。
俺は俺のやりたいようにする。
お前が何になろうと、何を言おうと
どうせやることは変わらない。
【ローの信念が果たされることを、遠くからいつも祈ってます。
でも、心配だからあんまり無茶はしないでね。
本当に今までありがとう!
大好きだよ。 ウイより】
約束する。
信念を果たして
必ずお前を迎えに行く。
手紙を読み終えたクルー達のリアクションは三者三様だ。
ただ、その顔はよく見慣れたもので
ここには居ない彼女に
常日頃向けていたような、そんな顔だ。
「何書いてあったの。」
「内緒。ペンギンは?」
「なんでお前見せねぇのに俺だけ見せなきゃいけねぇんだよ。」
ウイからの手紙を共有するつもりがないのは皆同じようで。
各々が大切そうに、それを懐にしまいこんだ。
「あれ。そう言えばなんだっけ。」
「……着いてこい。」
思い出したかのように声を上げたペンギンを連れてリビングを出た。
目的地は突き当たりの部屋。
黙って着いてくるペンギンの足音を確認して
その扉を開けた。
「そーいやこの部屋何に使う訳?」
「お前にやる。」
え、なんで?と怪訝そうな顔で部屋を見回しているペンギン。
8畳程度のこの部屋は、副船長室としてこいつにくれてやるつもりだ。
設計時から使用目的はこうしようとは思っていたものの
あの時は部屋の主はシャチにしようと考えていた。
「お前に副船長を任せる。」
「いや無理。人選ミスも甚だしいでしょ。」
即答で辞退を申し出たペンギンの顔は
社交辞令での謙遜という訳でもないようで
本気で拒否したいという感情がありありと滲み出ている。
まあ自分の部屋は魅力的だけど、と小窓から外を覗くペンギンは
この辞令を大人しく受ける気はないらしい。
「大体俺が人の上に立つキャラだと思う訳?管理とか教育とか統率とか、むしろ俺がされるべきでしょ。」
「それが楽だから自分には必要ねぇってお前が決めつけてるだけだろ。」
片目を細め、じと目でこっちに視線を向けるペンギンは
ため息を付きながら備え付けのベッドに腰を降ろした。
まあ、本当に嫌なんだろうな。こいつは。
向き不向きは置いておいて
ペンギンがそういう立場や責任を好むかどうかと言えば
答えは否だ。
「俺さっきウイにさ。お前の為なら船降りても良いよって言っちゃった位結構無責任なヤツなんだけど。良いの?そんな副船長。」
相変わらずやる気のない表情のペンギンから紡がれたその言葉。
そうだな。
もう1つ
こいつとは話しておかなければならない事がある。
「お前は結局、ウイのことが好きなんだろ。」
「さぁ?どうでしょう。」
バカにしているようにすら見えるペンギンの表情は
簡単には相手に心情を探らせない。
何度目になるかももう覚えていないこのやりとり。
分かりにくい頑固さも
毎回自分が設定したキャラクターをこうして本心の隠れ蓑に使う所も
本当に、ウイとペンギンは似ている。
只でさえ二人の悪ノリには着いていけない。
それに加えてこうも似通われると
今は俺に向いているウイの気持ちが、いつかペンギンに向くこともあるのではと
似ているからこそ
こいつはウイが抱える心の闇を俺よりも理解してしまうんじゃないかと
そんな思いは結構な脅威だ。
「ニシキでのお前の立ち回りには、感謝してる。」
「別にキャプテンの為にした訳じゃねぇけど。つーかキャプテンにそこの礼言われるのは流石にムカつくな。」
あの時、こいつがウイの傍に居てくれなければ
例え後からステラに話を聞いたとしても
意外とネガティブすぎる所がある彼女の思考は取り返しの付かない方向へと向いてしまっていたかもしれない。
最近のウイの人間臭さを見ていると
覇気の習得の為とは言え、随分と危ない橋を渡ったものだと己の軽率さに我ながらぞっとする。
どこかで歯車が少し狂うだけで
全てが崩壊していてもおかしくなかった。
それを上手く調整してくれたのは、紛れもなくこいつだ。
ムカつくと良いながらも
ペンギンの口調や表情は普段通りやる気がない様子で
ただその言葉は、結局こいつもウイのことを好きだと言っているようなものだ。
「ムカつかれようが構わねぇ。あの一件で、お前に俺の意図を汲み取って状況を動かす能力があると思っただけだ。」
「流石。尚更ムカつくわ。」
こいつは何がしたいんだろうか。
ウイのことが好きで
俺とウイの仲を取り持つような動きをする。
かといって
はっきりとはそれを口には出さないものの
ムカつくと言うからにはそれを面白くないと思う感情もあるんだろう。
「お前に拒否権はねえ。勿論、船を降りるのも許さねえ。」
「船降りる件はどうせウイちゃんそれ望まないでしょ。」
「前から思ってたがお前その呼び方やめろ。腹立つ。」
別にどう呼ぼうが俺の勝手だろう。
ウイと一緒に旅をするようになってから
キャプテンは丸くなった。
意見を曲げないことは変わらないが
角が取れたというか
暴君っぷりを発揮する頻度は大分減っていて。
仲間思いであることは知っていたものの
こんなに分かりやすく誰かを気にかけたり
誰かのために何かをしようとするヤツじゃなかったのに
離れた途端にこれだ。
副船長だか何だか知らないが
何で俺がそんな面倒そうなことをせないかんのか。
「なんで?焼き餅?呼び捨てとかの方が親密度高そうじゃん。」
「……あれからだろ。お前がたまにウイをそう呼ぶようになったのは。」
「……あれからっていつから?」
ニシキの一件のあとからと
怒っている訳ではなさそうだが、元からお世辞でも目付きが良いとは言えないキャプテンが睨みをきかせている。
え。
そうだったっけ。
「マジか。」
「自覚なかったのか。」
呆れたような物言いだが自覚がなかったのは事実だ。
初めてウイをちゃん付けで呼んだのはいつだ?
『脚短いウイちゃんには難しかった?』
アレか。
キャプテンに焼き餅を妬かせてステラから引き剥がそうとウイを連れて船に戻る途中。
ステラを纏わり付かせているキャプテンを見て落ち込むウイを気の毒に思ったものの
その場を離れたら離れたで
気になるのか表情に暗い影を落とすアイツをどうにかしてやりたくて
足跡踏みをした時。
いとも簡単にこっちの思惑通りに
アイツの体格では中々難易度の高い間隔を必死で飛ぼうとするウイの様子がなんだか小さな子供みたいで
俺ならウイにあんな顔をさせないのにと
俺なら常にウイに楽しさを与えられるのにと
片足立ちで文句を言いたげに俺を見下ろすウイをそう呼んだ気がする。
そうか。
あれからか。
無意識ってこえーな。
「俺が諦める必要はないんじゃなかったの。」
「一応確認だ。」
認めれば認めたで噛みついて来るくせに。
「キャプテンがそう思うんならそうなんじゃねぇの?何でわざわざ俺にそれを言わせたい訳。」
「お前とウイは似てる。お前もそうなら一応警戒しておく必要はある。」
つまりはどっちにせよ言質をよこせと。
っつーか似てるかそんなに。
この二人は本当に、同じタイミングで同じようなことを俺に言ってくることが多い。
似てんのはお前らだろ。
「それってノリとかそういうのでしょ。ご本人からも似てると思ってたけど違かったーって言われてるよ俺。」
「本当にやりてぇことの為にくそうぜぇ役作りして誤魔化そうとするやり口も、アホそうに見えて誰よりも周りを見てるとこも、そっくりだろうが。」
つなぎの内ポケットにしまいこんでいたウイからの手紙を取り出してそっくりさん説を否定してみたものの
どうやら効果はないようだ。
言われてみれば確かに似ている。
周りを見れているかは正直微妙だが
自分のこのキャラが便利だからと、それにかこつけて面倒なことを煙に巻くのは良くやる自覚がある。
本当に、よくもまぁ人のことをそんなに観察してるもんだ。
「じゃあ正直に話すけど。俺自分がどうしたいのか分かんねぇ。」
続きを聞こうということなのかキャプテンは何も言わない。
ただ黙って腕を組んでこっちを見下ろしてる。
こういう雰囲気は苦手だ。
「ウイのことは好きだけど。キャプテンとウイを応援したいと思ってんのも本当。」
何が楽しくて、こんな話をしなきゃならんのか。
俺がどう動こうが
ウイはキャプテンを好きで
キャプテンが心配するようなことはきっと
起き得ない。
俺にチャンスがあるとすればどちらかだけでも
思い合っている二人の気持ちがすれ違うのに賭けるくらい。
んなことは分かってんのに
「でも、二人がイチャついてんの見るのは面白くねぇし。目の前にウイが居たらどうにかしたくなる。」
一番ウイと距離を取るべきなのは
俺かもしれない。
ドフラミンゴを倒して
ウイを仲間として迎えに行くまでに
他に好きな女でも出来ていねぇもんかと
本気で思う。