8-3

「アイツただの愛想ねぇゴロツキじゃねぇんだな。いくら惚れた女の為とは言え億出すか?普通。」
「……ちょっと待って。ローっていくら置いて行ったの。」
「丁度一億。」



私たちの自己資金だと最初は一店舗がギリギリだったけど助かったわと素敵な笑顔で微笑むソニア。

ちょっと待て本当に。

確かにロー達は潜水艦資金が貯まった後もたまに賞金首狩りは続けてたけど

億って。





億ってやり過ぎでしょ。





私が今まで皆にしてきたことなんて
もう本格的に足元にも及ばないじゃない。

恩着せがましくするつもりなんてなかったけど
皆には良くして貰ったって

そう思ってて欲しかったのに。



「愛されてるわね。どっちにも。」
「どっち?……ペンギン?ペンギンは面白がってコキ使えって言っただけでしょ。」



そんなペンギンの身内への対応みたいな所も
ちょっと嬉しく思う気持ちもある。

ペンギンはブラーヴェの皆を凄くもてなしてくれてたし
なんだかんだで面倒見良いし優しいもん。

コキ使えなんて、本当に仲良くないと彼は言わない。



ただコキ使われる限度ってもんがあるけどな!!











「あら。あなたを暇させとくとくだらない事ばかり考えるからって。彼なりの優しさでしょう?」


















もう、本当にやだ。
なんなの皆揃って。

やっぱりペンギンは
結局おいしいとこ持って行くんじゃない。



『一人が不安なら、俺がお前の傍に居てやろうか。』



なぜか別れ際にそう言ってくれたペンギンの顔が脳裏に浮かんだ。

胸が苦しくなって
また皆に会いたくなった。



私は本当に
素敵な人達に恵まれすぎてる。




「なんでウイのとこには良い男剰ってるのに私には寄ってこないのよ。不公平!ふーこーうーへーいーー!」
「カレンは見る目もないし前のめり過ぎるんだよ。」



結構ひどい事をしれっと言うディゼルにカレンがなんだとと声を荒げて掴みかかる。
そんな様子をソニアはにこやかに、アオイは呆れたように眺めてた。








本当に、頑張らなきゃ。

これで私がへこたれでもしたら
応援してくれてる皆に、本当に申し訳が立たない。

気合いを入れてジョッキの中身を飲み干す。




見ててね、皆。





やってやろうじゃねぇか。



結局アオイとカレンの言い合いは決着が付くことがなくて
じゃんけんであっさり負けたアオイは肩を落として落ち込んでいた。

負けた方が私側なんて酷いのねって、ソニアが恐ろしい程綺麗に微笑むものだから
アオイもカレンも顔色を青くして縮こまってしまっていた。



アオイの自由気ままな所はやんちゃな弟でも出来たみたいで好きだよ。

でもね、年の近い女の子と一緒に暮らすなんて初めてで
正直カレンが来てくれたら良いなって思ってた。

カレンは2つ年上。
ステラさんともまた違うけど
なかなかぶっ飛んだ彼女の性格は結構大好き。

恋に一生懸命で
当たって砕けてもまた当たって行くカレンのガッツは

私も見習わなきゃって
私にない所だなって、いつも思ってた。



「じゃあ人選も決まったところで、次は長期的な今後の予定。」



ソニアの顔つきがなんだか逆らえないミステリアス美女から経営者のものに変わった。

落ち着いてからでも良いと思ったんだけどと切り出された話に
皆が意識を傾けていた。




「資金の調達が出来てしまった以上、早い内に長期目標を決めてしまいたいわ。ブラーヴェをこうしたいだとか、別ジャンルでもやりたい事だとか。何かない?」




確かに今後店舗を増やして行くにしても
当初の目的はほぼ達成できるだろう。

落ち着けば、だけど。

自分たちの直営店が落ち着いた後
やりたいこと、か。



「私ブラーヴェで結婚式のプロデュースしたい!お酒に引き出物にドレスのレース!絶対楽しそう!」




おおう!
確かにそれは楽しそう。
カレンのレースを使ってウェディングドレスとかデザインしたら綺麗だろうなー。




「ちょっと待て。俺何すんだよ。結婚式に時計とか使い所ねぇだろ!」
「あんた手先器用なんだからティアラとかネックレス作れば良いんじゃん。」




俺は時計に誇り持ってやってんだよと再びアオイとカレンのバトルが勃発する。

何度ソニアに窘められても懲りない二人は本当に仲が良いと思う。

でもまあ、確かにどっちの言い分も分からなくはないかな。

自分の左手首を見下ろすと
そこにはもうすっかり見慣れたアオイに貰った腕時計。

アオイはアクセサリーとかのセンスも良いと思う。

でも
拘りのあるもので勝負したいアオイの気持ちも分かる。


さて、どうなるんだろうか。


「そこは後で討論しましょうか。他には?何かない?」
「僕は特にないかな。方向性決めるのは向いてないんだ。皆の方針をアシストするよ。」



自分のお酒を売れるだけで十分だよとディゼルが爽やかに笑っていた。

ソニアに後にしろと言われたのに相変わらずギャーギャー掴み合っている二人の隣に座るディゼルが
凄く偉大で大人に見える。




「ウイは?広告塔でもあるし、資金の件だってあなたのおかげだもの。何かないの?」
「うーん。そうだな……。」




ブラーヴェでやりたいこと。

やりたいことやりたいことやりたいこと……





なんだろ。

別に私たちの商品とか関係なくても良いわよとソニアが首を傾げる。



ブラーヴェを抜きにしても
私がやりたいこと。













「……子供。身寄りのない子達の居場所を作ってあげたい。」




私の言葉に言い合いをしていた二人の声がピタリと収まった。

皆の視線が集中する。










やっぱり突拍子がなさすぎたかな。





「良いんじゃない?ウイのお酒も作り手が増えれば店舗拡大にも繋がるし。」
「そうね。孤児院を出た後の子供達を受け入れるのは社会的なイメージも良いわ。」



ディゼルとソニアの言葉に自分がほっと息をついたのを実感した。



「いつまでも私一人でマネージャー業務はいくらなんでも無理よ?あなた達も会社的に言えば役員みたいなものなんだから。いつまでもプレイヤーだけでは困るわ。」



要は後輩や後継者を育てろと。

ソニアの言葉に確かにと思うところはある。
作り手が私たちだけでは店舗を拡大しても生産が追い付かない。

折角オープンさせる直営店も
まだまだ先だとは言え私たちが年を取って引退したら
はいおしまい。
では勿体無い。
どうせならいつまでもいつまでも長く続いて欲しい。




「まずは落ち着いてからだけど。孤児の受け入れ、進めましょうか。」













良かった。





一人ぼっちの子供達に
全員は無理だけど、居場所を作ってあげられる。

生きる意味も
人と関わる素晴らしさも
教えてあげられる。

一人ぼっちの孤独から
救い出してあげられる。




右耳のピアスにこっそり触れてみた。


ロー。

これって





第一歩、なのかな。


「それじゃミーティングはおしまい。明日は10時にここで取材よ。」



ソニアが解散を言い渡すと皆が伸びをしながら席を立った。




私も、帰らなきゃ。




窓の外に目を向けると
当たり前だけど夜空は闇色で

自分の船で
家みたいなものなのに

今日は帰りたくないなって思ってしまう。




でも、色々お礼とかのでんでんむしかけなきゃだし。

帰らなきゃ。




「ウイー!もう海賊団ズ居ないなら帰らなくても良いでしょ?私の部屋泊まってく?」
「良いの!?」



勿論だよー!と飛び付いてくるカレンを抱き止めると
カレンからはシトラスの良い香りがした。

皆への電話は明日にしよう。

流石に今日は
一人で寝られる気がしない。



「ガールズトーク!超楽しみ!」
「カレンの武勇伝発表会でしょ?」



お前もなんか吐きなっ!とカレンに軽くお腹をパンチされて
私たちは目を見合わせて笑い合った。


お姉ちゃんがもし居たら
こんな感じなのかな。


























「……出ねぇんだけど。」
「俺らと別れて早速夜遊び?」



海中を進む黄色い潜水艦。
ウイとの連絡用にと新調したでんでんむしを過酷労働させるペンギンとベポ。

その脇で寛ぎながらブラーヴェの連中とでも飲んでんだろ、とウイに分けて貰ったシードルに口を付けるキャプテン。

時計を確認するともう12時は過ぎている。
飲みに行ったとしても遅すぎやしないか?

泊まり?
ブラーヴェの連中と?



「ディゼルは安全そうだけどよ。アオイとかウイに手ぇ出したりしねぇよな?」




思った事を口にしただけだ。

それなのに
二人分のあまり良い感情が込められているとは思えない強い視線を感じる。

我らがキャプテンと
さっき唐突に発表された副船長様々。

ハートの海賊団ツートップの
んな事あって堪るかと言わんばかりの猛烈な視線。




っていうか睨む相手俺じゃない筈っしょ。









ウイ、よく考えたら
俺の気苦労増やしてるの







いつもお前だよな。



遠くを眺めるような目で2つ分の殺気を交わした。

気苦労はいくらでもかけて良いから
アオイや変な男にだけはほいほい着いて行かないでくれ。

頼んだぞ、妹よ。


「では、よろしくお願い致します。」
「半年後、楽しみにしているよ。」



笑顔で頭を下げ、扉を閉めた。
コツコツと2つのヒールが地面を蹴る音が響く。




「……カレンー!ちょっと休ませてよー。」
「次は広告代理店のワトソンさんだからー、あっちだ!行くよ!」



聞いちゃいねぇ。

先を歩くカレンに遅れないように
重い足をまた踏み出す。


朝から一度もまともに休憩がない!


カモメ新聞の取材を終えると
諦めの悪いアオイを引きずりながらソニアは快速便に乗ってウォーターセブンを出航した。

本当に、今までストックしていたシードルは全てディゼルの手によって運び出されてしまっていて
そのまま昼過ぎまでディゼルと挨拶周り。

ディゼルの担当が終わってやっと休めると思ったら
待ち構えていたカレンと合流してシードルの材料を選んで
運ぶのはディゼルがやるからとカレンと挨拶周り後半戦。




ペンギン、確かにくだらないこととか
考える余裕


ないよ、全く。





結局全ての挨拶周りを終えたのは10時過ぎで
船に戻って即フリーウィングを出航させた。



「つ、疲れた……。」
「お疲れ様。明日は、酵母からかな?」



リビングのソファーに沈んだ私にディゼルが苦笑いを浮かべながら労りの言葉をかけてくれる。

そっか。船の上では仕込み地獄か。



「ウイ、私どこの部屋借りたら良い?」









そうだった。

いくらブラーヴェの皆が仲良しとは言え、流石にディゼルとカレンが同じ部屋ってのもまずいよね。

でも、地下以外で空いてる部屋って



「2階2部屋あるんだっけ?かたっぽウイの部屋?」
「あの、そうなんだ、けど。」



じゃあもう片方借りて良い?とカレンが首を傾げる。
















どうしよう。
なんかやだ。



でもあの部屋は空いてると言えば空いてる訳で
上手く断る理由もなければ
他に空いてる部屋もない。



「どーしたウイ。」
「……カレン。私と同じ部屋じゃ、嫌?」



恐る恐るカレンの顔を覗きこむ。

きょとんとした顔で見下ろしてくるカレンは
これからの長旅を、私と同室で我慢してくれるだろうか。



destruct at reality.