「やだぁっ!もう!ウイったらどんだけ私のこと好きなのよ!!」
「ローの部屋だった所カレンに使われたくないんじゃない?」
ディゼルの鋭すぎるご指摘にカレンがなんだと!と目を見開く。
ごめんね、カレン。
カレンのこと大好きなのも本当だよ。
「結局ウイだって男男言ってるじゃない!私と何が違うのよ!」
「あはは。カレンってば面白いこと言うね。」
昨晩言われた言葉を気にしているらしいカレンがディゼルに詰め寄る。
無理だよカレン。
相手が悪すぎるよ。
何でもないことのように爽やかな笑顔を浮かべているディゼルは
絶対にベポよりもヤバい種類の腹黒さを持ってる。
「仕方ないなぁ。もー。貸し1だからね!」
「ごめんね。ありがとう!」
カレンには本当に申し訳ないんだけど
今までローが居た部屋を
ローが寝てたベッドを
他の人が使うのはどうしても嫌だった。
まだ少しくらいは、どこかに
ローの名残が残っている気がするから。
ぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる
でんでんむしの着信を知らせる音に
私は自分でも驚く程凄い勢いでその着信を受信した。
「も、もしもし?」
『やっと出た。お前何やってんの。さっそく夜遊び?』
……ペンギンだ。
ペンギンの声だ。
「やっほーペンギン!潜水艦の乗り心地どうよ!?」
『……カレン?何。今度はブラーヴェが乗ってんの?』
「私とディゼルがチームウイだよ!」
声を聞いて乱入してきたカレンがペンギンと楽しそうに話してる。
なんだか
私も居るのにカレンと話してばかりのペンギンが
遠くに行ってしまったみたいで
私の知ってるペンギンじゃないみたいで
寂しいって感じた。
「カレン。ペンギンウイに用事あるんでしょ?」
荷物運んで来なよと二人の会話を中断させようとするディゼルに
せっかくかかってきたんだから良いじゃない!とカレンが噛みつく。
前に二人が話してる時、二人が恋人同士とかになったら良いなって思った。
大好きな二人なら
お互いにお互いを幸せにしてくれそうだなって。
でも結局、私はペンギンにちゃんとした彼女が出来たとしても
仲間として別枠で特別扱いして貰うことを前提にそう思ってたんだ。
なんか、色々複雑だ。
「それでね、これからお店のテナントとか探しに島を回るの!」
『へー。本格始動じゃん。行き先どこ?』
「えっとね、最初はー……、ルテインってとこ。ペンギン達はどこ向かってるの?近い?会えない?」
「そういうとこが前のめりって言ってるのに。」
ぼそっと呟かれたディゼルの言葉は
カレンの耳にしっかり届いたようで
なんならペンギンにまで届いたようだ。
でんでんむしの向こうで
爆笑してるペンギンの声がリビングに響き渡った。
「あんったねぇ!!今言うことないでしょ!今!!」
「じゃあせっかくだから荷物運ぼうか。」
ペンギンに爆笑されたことに頬を膨らましたカレンがディゼルの胸ぐらに掴みかかったけど
でんでんむしからカレンが離れたのを良いことに
ディゼルはカレンを2階へと連行して行ってしまった。
去り際に苦笑いしながらごめんねと言うディゼルは
私が複雑な気持ちで二人の会話を聞いていた事に
気付いていたのかな。
「いつまで笑ってるの。」
『あれ。ウイ?いや、カレンまじでウケんのね。ってかディゼルがウケんのか?』
あーそれにしても笑いすぎて腹痛ぇと未だに半笑いのペンギンに対して
どうしても、しゃべり方がつっけんどんになってしまっている気がする。
「そいえばどしたの?何かあった?」
『あー。つなぎとか色々。ありがとって言っとこうかと思って。』
「どういたしまして。」
さっそく皆で着てるとか
ベルトのやつマジ便利とか
シャチのスクランブルエッグが旨くないだとか
ペンギンがせっかく近況を話してくれているのに
さっきカレンと楽しそうに話していて
私を蔑ろにした癖にって
そんなに楽しいなら
カレンと話してたら良いのにって
そう思ってしまう気持ちがどうしても消えなかった。
『なに?ご機嫌斜め?』
「別に、忙しくて疲れただけだよ。」
『あーあれか。ウイちゃん俺に構って貰えなくてカレンに焼き餅妬いてたのね。かーわいーい。』
焼き餅?
誰が?
私が?
誰に?
カレンに?
え?なんでそうなるの。
「違うよ。そういうんじゃない。」
『へー。残念。』
焼き餅では、ない。
ただ、ペンギンは私よりカレンと話したいんだって思ったら
面白くなかった。
違うって言ってるのに
ペンギンの声はなんだか面白がってるような声色で
それもなんだか面白くない。
『なに。カレンはペンギン先生に惚れちゃったの。』
「流石。どんだけ自信満々なの。」
アレは分かりやすすぎるっしょとけたけた笑っているペンギンはカレンのことをどう思ってるんだろう。
ペンギンとカレンが付き合ったら
私は今までみたいに構って貰えなくなるのかな。
『ウイが今日何してたかとか、これから何すんのかとか、それ聞きてぇと思うのがそんなに不満?』
うわ。
「……そういうんじゃないってば。」
『へいへい。』
仕方ねぇなって感じで話すペンギンは
私が感じてるもやもやの原因も
その対処法も
全部分かってるんだなって思った。
いつの間にかもやもやが消えてしまってることを
さっきとは違った意味で
面白くないって感じた。
荷物を置いたカレン達が2階から降りて来る足音が聞こえてきて
なんとなく、二人の前でペンギンと話してるのを気まずく感じてしまう。
「そいえば皆は?一緒いるんじゃないの?」
『あー。そういや俺副船長様々に任命されちゃったのよなぜか。今それで貰った部屋に居るから誰も居ない。』
副船長?
ペンギンが?
リビングに戻ってきたカレンの耳にもその声は聞こえていたみたいで
ペンギン副船長になったの!?と明るい声を上げる。
「なんでまた急に。」
『俺が聞きてぇよマジで。』
でも、うん。
良いんじゃないか?
ローとは違ったタイプだけど
ペンギンも人の上に立つのに向いてそう。
「おめでとう?」
『めでたくねえよ。面倒臭ぇ。』
そう話すペンギンの声は心底面倒臭そうで
どんな顔して話してるのかが簡単に想像できてしまう。
でも引き受けて、今も副船長室に居るってことは
なんだかんだ言ってこの人は
ちゃんとやるんだろうなって、そう思った。
「あ、ペンギン。私ローに用事あるんだけど今かわれる?」
『ムリ。今俺部屋居るって言ったじゃん。』
いや、そうだけど。
そうなんだけど。
同じ船の中にいるんだからその位良いでしょ。
なるべく早く出資の件のお礼を言いたい。
そうじゃなくても
ローの声が聞きたい。
「お礼言いたいの!」
『えー。良いじゃん別に。』
なんなんだ本当に。
ペンギンは本当にローに繋いでくれる気がないみたいで
夏島に行ったら暑いから半袖のつなぎも作れだとか
シャチにスクランブルエッグの作り方を教え直せだとか
そんないつものやる気のない調子の声がでんでんむしから聞こえてくる。
「……ねえペンギン。」
『俺の焼き餅は無視か。ハイハイ、かわりゃ良いんでしょ。』
面白くなさそうなペンギンの声と共に足音や扉を開け閉めする音が聞こえてくる。
えーっと……
なんだか背後から刺さるような視線を感じる気がして振り向けない。
「ウイってローのこと好きなんでしょ?ペンギンそれ知らないの?」
「いや、知ってるんだけども……。」
視線の主が私に問いかける声は不満そうで
ペンギンも分かりやすいって言ってたけど
やっぱりカレンは次の彼氏候補としてペンギンに狙いをお定めになったようだ。
「気持ちに応える気がないならちゃんと振ってあげた方が相手の為でしょ!」
『カレン煩い。……振られても俺が勝手に好きなだけだから。ウイちゃんのこと虐めないでよ。』
移動中でもこっちの会話は聞こえていたみたいで
割り込んで来たペンギンの声に今度はディゼルが耐えきれず吹き出した。
「カレンは本当に、学習能力ないんだね。」
「もぉ……。虐めてないわよ別に。」
堪えようとしながらも肩を震わせて笑うディゼルにカレンの睨みが飛ぶ。
なんだか場の雰囲気は張り詰めた物ではなくなったけど
カレンの言うことは事実だ。
ペンギンの気持ちに応えられないのなら
いつまでもその優しさに甘えていないで
ちゃんと突き放すのが相手の為、だよね。
なんだか聞き取れないけど話し声みたいなのが遠くで聞こえて来て、扉の閉まる音がした。
『どうした。』
ローの、声だ。
ローの声をでんでんむしを通して聞くのは初めてで
聞き慣れた声とは少し違って聞こえる気がするけど
この低い声のトーンも
少し素っ気なく感じる話し方も
昨日まで隣で常に聞いていたローのものだ。
でんでんむしの向こうでローが私に話しかけてくれてる。
「あの、ね。ブラーヴェの出資の件、ありがとう。」
『あの女早速バラしたのか。』
口軽すぎんだろとため息混じりに話すこの様子だと
ローは出資の件を口止めしてたみたいだ。
教えて貰えなかったらローとソニアを恨んでたと思う。
お礼を言った位じゃ何にもならないけど
そんなことして貰っておいて知りませんでしたっていうのは嫌だ。
『変わりねぇか。』
「ちゃんと頑張ってるよ。」
ローが気にかけてくれたのが嬉しくて
私は今後の予定だとか、今日の過酷スケジュールの件を物凄い勢いで喋りまくった。
ローの相槌が適当な感じなのはいつものことだ。
でも知ってる。
ローはちゃんと聞いてくれてるって、今までの記憶が証明してくれてる。
やり過ごそうとする時には厄介なローの流してくれない性格が
こういうときには凄く嬉しい。
『コートとハット。あと鬼哭も。ありがとな。』
「気に入ってくれた?」
今も被ってると答えるローに
室内でまで被ることないのにって自然と頬が緩む。
「それ賞金首なのバレないようにって思って作ったんだから、暴れる時は被ってかないでよ?」
『貰ったもんどう使おうと俺の勝手だろ。』
うーん。
ローらしいご返答。
昨日別れてから変わりないかを聞いたけど
潜水して海中を進んでいるだけだから代わり映えがないと一蹴されてしまった。
確かにそれもそうか。
でも皆と居れば、そんな代わり映えのない毎日が
本当に何にもないなんて事はないと思うんだけどな。