「出店するかどうかは治安が良くて、定期船の往来が多い島。商店街とかよりは高級店とか寄りの立地。小さめの店舗で、従業員は1〜2人。まとめるとこんなもんかな?」
「そうだね。あとは実際島に着いてみないとなんとも言えないかな。」
ディゼルと概要を纏めながら話しているとリビングで一人何か作業をしていたカレンが出来た!と声をあげた。
「なに作ってたの?」
「じゃじゃーん!どう?」
得意気な顔のカレンの手には黒の繊細なレースプリントがされたラベル。
そこには金字でブラーヴェとシードルの文字がスタイリッシュに印字されていた。
「かっこいい!これ今作ったの?」
「直営店デビュー後は気分一新で良さそうじゃない?」
これは中々格好いい。
そもそも今のラベルはウィングカンパニーのものだし
ブラーヴェのものは用意してなかった。
黒に金、高級感もあるしお洒落で格好いい。
「カレンに店の内装と従業員の制服関係任せても良いかな?」
「なにー?!私のセンスが必要?しょうがないなー。」
凄く必要だから宜しくねと微笑むディゼル。
誉められて満更でもなさそうなカレンは最低限の必要物品を上機嫌で調べだした。
カレンセンス良いもんね。
素敵なお店にしてくれそう!
「どうせ打ち合わせには役に立たないだろうし。あっちは任せとこう?」
「……ディゼルが怖いよー。」
「なんで?ほら、何かもおだてると木に登るって言うでしょ。」
そういうとこだよ。
その笑顔がめっちゃ怖いんだよ。
あんなるんるんでカタログ見てるカレンは
まさかディゼルに食用家畜扱いされてるなんて思ってもいないだろうに。
「ルテインは出店できそうな島だと良いね。」
こうやって悪意のない言葉を話してれば文句なく爽やか王子様なのに。
ベポの腹黒さって、全然可愛いもんだな。
本当に。
それからも毎日仕込みは続いて
先に仕込んだ物が出来て行く分1日の作業量は増えていくんだけど
手慣れて来たカレンとディゼルのおかげで大分スムーズに進むようになってきた。
あいた時間でハートの海賊団に電話をかけたり
ご要望の半袖のつなぎを試作してみたり
夜に3人でお酒でも飲もうかってなった時
流石にもうシードルには手をつけられなかった。
あんな苦労して作ってるのに
自分たちのために減らせないなって。
「ここ良いじゃん!なんかお洒落ー!」
「うん。良いんじゃないかな。」
ルテインに着いて、さっさとその日の仕込みを終えた私達は店舗選びに街を散策していた。
立地自体は商店街の並びだけど
角にあるこの空き店舗は良い具合に年季が入っていて
アンティークっぽい作りも中々素敵だ。
「賃料も問題ないし、住宅地も港も近いから集客も配送も都合良さそうだよね。」
「ここに決めちゃおうか。」
ディゼルとカレンが賃貸契約関係と改装、求人の準備をしてくれている間に私は挨拶周りだ。
買ったばかりのルテインの地図で商工会とギルド、市長さんの家を確認する。
毎日忙しくて充実している
皆ともたまにだけど電話もできてる
食事や休憩の時もカレンやディゼルが居てくれるし
皆と離れてからの時間はそんなに悪いものではなかった。
でも、皆に会いたいな。
別に特別用事があるわけじゃない。
でも、
起きたら皆が居て
賑やかにご飯を食べて
皆が鍛練してる間に掃除や洗濯を済ませて
午後のあいた時間は商品を仕込んだり一緒に出掛けたり
釣りをしたり海に入ったり
夜ご飯のメニューを相談して
お酒を飲みながらゲームをして
でもローと二人の時間も欲しい。
一緒に本を読んだり
何かについて議論したり
ううん。
何もしなくていい。
ただローと二人、同じ空間に居るだけで
それだけで嬉しかった。
考え事をしながら歩いていたら
あっという間に商工会の前に着いていた。
最近はこういうことが多い。
考え事しながら何かをしてると
気付くと時間が結構過ぎてる。
さて、行きますか。
頭を仕事モードに切り替えて扉をノックする。
私が今やることは、ブラーヴェの直営店オープンを無事に成功させることだ。
「志望動機は?」
「天竜人お抱えってことはあの酒取り扱えるんっすよね!!?」
「勤務可能な時間帯と日程を教えてください。」
「朝はー11時くらいからが良くってー、4時には帰りたいかな。休みは週休2日以上!」
「何か質問ございますか?」
「ぶっちゃけ金ないんで給料もっと欲しいっす!」
「ねえ。ディゼルじゃないけど毒吐いて良い?」
「僕は毒なんて吐かないよ。いつでもありのままの事実しか言わない。」
よりひどいわ。
こんな状況で、面接の人が帰ったあとも笑顔を絶やさないディゼルには恐れ入る。
ダメだ。
配送や事務担当とも連携を取りながら店舗の管理をしていくにしても
今日来たような人達には大事なお店を任せられない。
「なんかさ、ブラーヴェ自体に思い入れがなくても、お店やってみたいとか、人と関わるのが好きとか、そういう人が良いよね。」
「まあ横領横着給料泥棒、贅沢言わないにしてもあれだとお店は潰れるかな。」
本当それ。
面接に来てくれた人達は他に思惑がありそうだったり
真面目に働いてくれる気配がまるでなかったり
なかなか上手くいかないものだ。
あと一人、二十代後半の女の人が面接に来て今日はおしまい。
ちゃんとした人だと良いな。
「こんにちは。素敵なとこですね。」
「あ。本日はお越し頂きありがとうございます。」
タイミング良く店の戸を開けて入ってきたのは
少し気が強そうだけどその分仕事はできます!って感じの女の人。
「どうぞ掛けて下さい。」
「ありがとうございます。えっと、あの……ヨナと申します!是非!!私を雇ってください!!」
おおう。
意外と熱血派だ。
今までが今までだっただけに呆気に取られて固まってしまっていると
ディゼルが微笑みながら立ったままの彼女に掛けてもらえるように再度促している。
頼りになるな、ディゼルは。
「理由をお聞かせ願いますか?」
「あの、私。いつか自分のお店を出したくて。ここでそのノウハウを学びながら資金を準備、したくて。」
ヨナさんは目線を伏せたまま、ぽつりぽつりとブラーヴェで働きたい理由を話し出した。
うん。
いつかは自分のお店出しちゃうんだろうからずっと働いてくれる訳じゃなさそうだけど
これは良いんじゃないか?
ヨナさんは勤務可能な時間帯もまあ許容範囲。
お子さんが小さいから、今はまだ毎日働くのは難しいみたいだ。
もう一人雇えれば、お店の定休日を設けなくても運営できる。
うん。ヨナさんに私たちの商品を売って貰いたい。
「では後日、採否の連絡をさせて頂きます。前向きに検討させて頂きますね。」
「絶対に素敵なお店にしてみせます!!よろしくお願いします!」
帰り際まで熱意をぶつけてくれるヨナさんを
自然と笑顔になってしまった顔で見送って戸を閉める。
「やったねディゼル!」
「類稀に見る熱血だね。頑張ってくれるのは有難いけど。」
とりあえずヨナさんは採用決定だ。
ディゼルもまあ良いんじゃない?ってヨナさんの採用に異論はなさそう。
問題はあともう一人、従業員が必要だってことだ。
「まあ店内の改装と卸す量決めるのに市場調査もしなきゃいけないし。もう少し待ってみよう?」
「そだね。」
焦りは禁物だ。
でもこの朗報を
カレンにも早く教えてあげたいな。
「ただいまー。ほら、あんたも入りなさいよ。」
「あ、お邪魔します。」
「おかえりカレン、と……どちら様?」
買い出しに行ってたカレンが見慣れないおどおどした女の子を引き連れて帰ってきた。
私と同い年くらいのほわーっとした印象のその子は
まだ何もない店内を見渡して素敵なところ!と嬉しい感想を述べてくれる。
「外の張り紙見てたから連れてきた。働き口探してるみたいよ。」
「こんにちは!アリスです!」
アリス、ちゃんか。
中々社交的に見えるしこれなら接客も上手くできそう。
「志望動機とか、聞かせて貰っても良いですか?あと働ける時間とか。」
「志望動機……楽しそうだなって!いつでも働けます!」
うん。他の人より大分マシ!!
良い子そうだし。
カレンは連れてきたくらいだし彼女の採用に乗り気なんだろう。
ディゼルもにこやかに対応してるし。
ヨナさんとアリスちゃん。
タイプは違う二人だけど
この二人が私たちの商品を売ってくれるなら素敵なお店になりそうだ。
後日ヨナさんとアリスちゃんに採用の連絡をして、オープン後の打ち合わせをした。
従業員にお願いすることは店舗の清掃と接客、在庫の管理と発注業務だ。
ヨナさんは事務的な業務も得意そうだし
アリスちゃんはほがらかな雰囲気でお客さん受けも良さそう。
何より新しい事を始めるのに、二人で頑張ろうねって笑い合っている姿は微笑ましかった。
カレンは看板や棚、店内のカウンターやインテリアを素敵に作ってくれて
ディゼルも近場の酒屋での売上や定期船での来島人数等をどこからともなく調べてきて
それを一覧に分かりやすくまとめてくれた。
本当にこの人達は凄い。
私も負けてらんないな。
ルテインを出航する日、ヨナさんとアリスちゃんにオープンまでの予定を説明して
夕方まで、久しぶりに仕事抜きの自由時間になった。
シードルの仕込みも今日の分はもう終わっている。
カレンとディゼルはそれぞれ観光や買い物に出掛けて
フリーウィングには私一人。
二人が居ないうちに、やりたいことがあるんだ。
エターナルログポースで移動しているせいで
まだ出番のない皆に貰ったログポースを持って2階への階段を登る。
バタバタしすぎて
皆からのラブレター解読できてねぇ。
駆け出しはしないものの
なんだか胸がドキドキしてる。
皆は私へのどんな思いを
この石に込めてくれたのかな。
作業用のデスクの椅子を引いてウォーターセブンで買った宝石図鑑を棚から引き抜く。
さて。
誰から行こう。
一番気になるのはローだ。
でも
メインディッシュは最後の方が良いよね。
じゃあお兄ちゃん、キミから行こうか。
「シャチのはー、これは真珠?だよね。」
シャチのイニシャル、Sの刻印に埋め込まれた白い石。
なんだかベポのなんかは緑っぽい珍しそうな石だけど
これは絶対真珠だ。
真珠のページを開いてこの石に込められたシャチからのラブレターの解読を始めた。