「でけぇ島だなーおい。」
「だからこそそういう連中も居るんだろ。」
海中から浮上して目的の島が現れると
それは帝国かと突っ込みたくなるほど巨大で、遠目で見ても繁栄具合が一目で分かる賑やかな島だった。
「こっち側で良いの?上陸するの。」
「ああ。裏側は治安の良い街らしい。そっちに用はねぇ。」
ベポとキャプテンが島のどこに船を付けるかを話し合っている横で
ぼんやりと目的地の島を眺めた。
ここにアイツも居れば
隣で一緒になって上陸後は何をしよう、どんな島だろうってはしゃいで居たんだろうと思うと
この上陸前のひとときもそんなに面白い物でもないもんだと少し感傷的な気分になった。
ドフラミンゴと裏ルートで取引のある連中が、この島には居るらしい。
ウイと別れてからもう3ヶ月が経った。
各々が覇気をメインに鍛練を積みながら
訪れた島ではドフラミンゴ率いるドンキホーテファミリーに関する情報収集に明け暮れている。
覇気の修行の進み具合と言ったら
まるで効果が実感できなくて面白みがない。
ただ、キャプテンとベポは武装色、シャチは見聞色の方が得意そうってのは分かった。
俺はどっちもどっちだ。
全く修行の効果がない訳ではないものの
特化して得意な方がないというのも微妙な気がする。
得られた情報も、ドフラミンゴが裏の世界でジョーカーと呼ばれていることが突き止められたくらい。
暴君のくせに慎重派を極めるキャプテンは覇気が満足のいく程度に使いこなせるようになったとしても
勝算のある勝ち筋が描ける情報が手に入らない限り動かないだろう。
最近戦術の稽古と称してキャプテンとよくチェスをするようになった。
ゲームというより、指導だ。アレは。
ひと駒進める度に、キャプテンの意図と俺の今後の出方を述べさせられる。
お陰様でシャチやベポにはもう負けなくなった。
ただ、常日頃相手の考えや自分の行動をいくつも想定しながら動くってのは
やっぱり正直向いていないと思う。
何て言うか面倒臭ぇ。
「たまにはどんちゃん騒ぎてぇなー。」
俺の独り言は誰にも届く事なく潮風が拐って行った。
上陸する準備に勤しむ仲間達には届かなくても良い。
この海のどこかに居る、相棒としてなら喜んで受け入れてくれるだろう誰かさんに届きやしないだろうかと
雲一つない空を見上げた。
「この武器の密輸グループを張れば良いの?」
「拠点3箇所もあんのかよ。どうする?」
ジョーカーの得意先らしき密輸グループは
この街で表向きの武器屋、商工会登録のある事務所、そして一番怪しいスラム街の小屋に出入りしている事が分かった。
これ全部を四人で四六時中見張るって、無理じゃない?
「武器屋と事務所は出入りしてる連中見張るくらいで良いんじゃね?スラム街の方は張り付いてた方良さげだけど。」
「ああ。取り敢えずそれで様子を見る。」
副船長様々は最近まともなことを言う事が多くなった。
キャプテンの見解とも合致してるみたいだ。
結局スラム街は12時間交代制で、武器屋と事務所は営業時間とその前後をそれぞれ12時間。
休憩を交えながら手分けして見張る事になった。
ニシキでのステラの一件があって以来、ペンギンってただのバカじゃなく実は凄いんだなって思うようになった。
それはキャプテンもシャチも同じだったみたいで
ウイと別れた後に唐突に発表されたペンギンの副船長就任に
俺もシャチも文句なんて一言も出てこなかった。
文句が有りそうなのは当の本人。
面倒臭ぇって。
本人に自覚があるかは知らないけど
ペンギンはそれから少し変わった気がする。
副船長を敬えと掃除や洗濯当番をサボろうとする所とは別でね。
なんだか観察されてるような、そんな感じ。
今までが俺らに無関心過ぎただけなのかな。
鍛練で足を痛めたのを、誰にも言わなかったのに気付かれた事には驚いた。
そんなに大事でもなくて、キャプテンにも湿布貼っとけって言われて終わる程度の怪我だったんだけど。
一緒になって騒ぐウイが居ないせいか
落ち着いた雰囲気になってきた気もするし。
最近はむしろシャチが騒ぐ声を聞く方が多い気がする。
皆それぞれ成長するんだろうけど。
ウイと楽しく過ごしたあの日々がどんどん変わって行くみたいで、少し寂しく感じた。
「ベポ、お前は事務所か武器屋に専属で付け。」
「なんで?」
「スラム街に熊が居たら目立つだろ。」
あー。なんか久々に熊差別来たわー。
へこむ気持ちを表に出さないように、分かったよとキャプテンに返事をした。
雲一つない晴天。
こんな空は、俺をへこませない熊差別が得意な
笑顔の似合う捻くれ者みたいだなって
そう思った。
「お前の方なんかあった?」
「特に。やっぱりヤバい人はあっちに出入りしてるんじゃないの?」
武器屋の見張り当番だったベポと一緒にすっかり暗くなった夜の街を船へと向かって歩く。
何度も出入りする客は怪しさの欠片もないというか、戦闘経験がなさそうな隙だらけの商工会関係者ばかりで
こっちの見張りはもう形式ばかりと言った所だ。
スラム街の方は結構収穫があったらしく
ボロい小屋で助かったと言うペンギンが先日それらしきでんでんむしの通話を盗み聞きしてきた。
どうやら連中は武器屋に卸す以外でも反国家組織やヤバいヤツらに纏まった量の武器を高額で卸しているらしい。
そしてその通話の最後に“ジョーカーに宜しく”と、確かに聞いたそうだ。
黒だ。
連中がドンキホーテファミリーと繋がっているのは確実だろう。
「ねえ。この前ウイにでんでんむしかけたんだけど出ないんだよね。シャチかけた?」
「あー。俺も見張り始まる前昼間にかけたけど出なかったわ。」
忙しいのかなとため息を付くベポの心境はとても理解できる。
昼間の見張りだけの俺らでも
こうも連日気を張っているのは精神的に疲れる。
夜通し張ってるペンギンの疲労はこんな物じゃないだろう。
戻ってからも覇気の修行を少しでもして、後は寝るだけの毎日。
ウイの声を、聞きたいと思う。
船に戻ってアイツが笑顔で迎えてくれるということが
モチベーションの維持や癒しになっていたことに
離れて改めて気付かされた。
海賊という立場にないアイツの素朴な疑問や下らないワガママは
雰囲気を和ませてくれるというか
オンとオフのメリハリを与えてくれていたんだと思う。
「そういやもうすぐクリスマスだな。」
俺とペンギンの誕生日祝いだと
飾り付けやご馳走を作っては主役以上に楽しそうだったウイの姿が鮮明に脳裏に蘇った。
ウイが居れば、クリスマスも盛大に祝おうと今頃楽しそうに準備をしていただろうに。
港に近付くにつれて街灯が減ってくる影響か
どこで見上げても同じな筈の夜空の星が、一層輝きを増したかのように漆黒の闇に散らばっていた。
ウイの居る場所から
この星空はどう見えているんだろう。
アイツも今、この空を見上げていたりするんだろうか。
「キャプテンお疲れー。その後どう?」
「ジョーカーと連絡が取れる立場なのは例の男だけらしいな。」
夜の見張り当番の為交代に現れたペンギンに昼間得た情報を伝達する。
以前ペンギンにドンキホーテファミリーとの会話を盗み聞きされた男。
どうやらそいつ以外はヤツらとの連絡手段はないらしい。
今日の昼間、急遽大量の弾薬が必要になったらしいヤツらが
ジョーカーから至急それを取り寄せさせるのに血眼になってその男を探していた。
「ふーん。どうする?このままここ張っとく?その男に張り付く?」
「今晩はとりあえずここを張ってろ。シャチとベポの方の情報も擦り合わせてから明日以降の動きを決める。」
りょーかい、と返事をするペンギンに頼んだと一言声をかけスラム街を後にした。
ドンキホーテファミリーと繋がっている男がどれ程の情報を持っているかは分からない。
ただ、本格的に情報収集に動いて初めての手応えのありそうなヤマだ。
スラム街を抜けて商店街へと出ると
街はイルミネーションやふざけたサンタの衣装を着た売り子で賑わっていた。
今日はクリスマスか。
初めて得たドフラミンゴへと繋がる情報への高揚で
世間に向ける目が疎かになっていたのかもしれない。
昨日も一昨日もここを通っている筈なのに
この浮かれた街並みにまるで気付かなかった。
「ママー!!うらっかわの街のおっきいクリスマスツリーが見たい!あっちはもっとキラキラしてるんでしょう?」
「今から行ったら真夜中よ?来年連れて行ってあげるわ。」
偶然聞こえてきた親子連れの会話。
裏側の街は治安も良く密輸組織などは存在しにくい街だと聞いた。
どうやら子供が見たがるような、派手なイルミネーションがあるらしい。
イルミネーションには、興味はない。
いつか夜景が綺麗な場所にでも連れて行ってやろうと思ったまま
結局それを叶えてやれなかった相手も
今ここには居ない。
ただいつか
ドフラミンゴを倒したあかつきには
クリスマスを一緒に過ごしてやれるようになった時には
イベント事が好きで夜景も好きなあいつに
見せてやるだけの価値があるのかどうか
気になっただけだ。
「ルーム、……シャンブルズ。」
人目に付かないような場所に移動した後
人混みに紛れて賑やかな街並みを歩いた。
予想以上に手の込んだイルミネーションだ。
これならいつか、ウイを連れてこの時期にこの島を訪れるのも良いかもしれない。
人混みは皆同じ方向へと向かっているようで
それに倣って足を進めた。
諜報活動にかかりっきりで最近声を聞けていないウイは
今頃どこでクリスマスを祝っているのだろう。
どこに居ようと、ディゼルやカレンと
楽しそうに騒いでいるんだろうなと思う。
別にイベント事に興味がある方ではない。
ただ、それが好きなあいつは
一緒に祝えたら、それはそれは喜ぶだろうなと思うと
一緒に過ごせない事を惜しく思えた。
チカチカと目が痛くなる程の電球で彩られた街並みを抜けると
巨大なもみの木に取り付けられた無数の光が
夜の暗闇の中で一際存在感を主張していた。
近くまで足を進めてそれを見上げる。
綺麗だとは思う。
ただ、よくもまあ木に電球をまとわりつかせた物を見るためだけにこれ程の人間が集まるものだと
楽しそうにそれに目を向ける周囲の人間達の思考には
正直理解に苦しむ。
ウイもきっと、その理解に苦しむ思考を持つ人間の一人だ。
理解できなくても良い。
あいつがこれを見て喜ぶのであれば、いつか必ず連れて来ようと
そう思った。
用は済んだ。
こんな人の多い所に目的もなく長居する必要もないだろう。
そう思って踵を返すと少し離れた場所で
先ほどいつかここに連れて来ようと決めたばかりの相手が
視線をこちらに向けたまま佇んでいた。
なんでウイがここに居るんだ。
どこかのパーティーにでも呼ばれて来たのだろうか。
外行き仕様の化粧にアップに纏めた髪型。
ファーの着いたストールにコートを着こんだウイの右耳では
大粒のルビーがイルミネーションに反射して輝きを放っていた。
普段の見慣れたウイが、一番彼女らしいと思う。
ただ、今日のウイは
久しぶりに見たからというだけでは説明が付かない程
綺麗で、女の色気を感じた。