8-12

「良かったね。大好きなキャプテンと会えて。」
『ペンギンにも会いたかったよ。』



少し不貞腐れた調子で言った言葉に
言葉の意味だけ素直に受け取れば嬉しい返事が返ってくる。

ただきっと
昨日キャプテンに会ったばかりのウイの頭はキャプテン一色で
照れも戸惑いもせずに俺に会いたいとか言う辺り
俺の気持ちは結構忘れ去られてる気がする。



「俺は会うだけじゃ物足りないけど。」
『……。』



ほら見ろ。
そういう雰囲気を出した途端にこれだ。



『そういうこと言われると、……会いに行きにくいんですけど。』
「じゃあ我慢するから会いに来て。」



うーん、それなら、と曖昧な返事を返すウイは今
でんでんむしの向こうで
少しだけ頬を染めながら、微妙な表情を浮かべている気がする。



「約束な。“俺に”会いに来いよ。」
『うん?うん。分かった!』



部分的に強調した俺の言い方に何かの意図は感じたようだが
結局素直に返事をする辺り、よく分かんないから流しとこうというウイの適当感が否めなくもない。



まあ良いか。

なんでも良い
会いに来てくれれば。




近況報告を延々と聞いた後
ディゼルに呼ばれて仕事に戻るウイに合わせて通話を切った。


久々に、誰からも邪魔される事なく
ゆっくり話せたと思う。




会える物なら会いたかった
でも今更それを言ってもどうにもなんねぇ。





さて。
クリスマスの夜にうちのお姫様をまんまと独り占めしたキャプテンへの制裁はどうすべきか。

シャチは……使えない。
残念そうに文句を言うんだろうが、アイツはこういう時は役立たずだ。

ベポ。
ペポは使える。
俺が文句を言うよりも、ベポに言われる方がキャプテンは嫌がりそうだ。
ベポがキレるように情報を調整して流せば、あとはオートで事は進む。



面倒臭ぇと思っていた筈のこういう思考が自然と身に付いたのも
キャプテンの指導の賜物だろう。





師匠に頭脳戦の上達を
報告も兼ねてご覧にいれようじゃねぇか。


頭の中でキャプテンへの仕返しを考えている自分の顔は
我ながら悪どい顔をしていたと思う。

あのクリスマスの奇跡はね

私が今まで生きてきた中で
一番素敵なクリスマスだった。

小さな頃、なんとなくだけど父様と母様から大きなクリスマスプレゼントの包みを貰った記憶がある。

うろ覚え過ぎて、もしかしたらこれは
私がそうであって欲しいっていう思いが作り出した妄想なのかもしれない。

でも今は
クリスマスと言えばローの顔が思い浮かぶ。

ローに抱きしめて貰いながら眺めた、あの夜景が
一番に思い出せる。




幸せな思い出過ぎて、うっかり浸っちゃったね。

今はブラーヴェの直営店の準備を終えて、ルンルンバースに戻る途中です。
頑張ったおかげで、予定よりも早く戻れそう。



あ、そうだ。



「カレン、ディゼル。私ちょっと寄りたい所あるんだけど。」



場所も通り道で、一泊だけで良いからお願い!と手を合わせて二人に頼み込むと
あっさりオッケーの返事を貰えた。


エターナルログポースのコレクションケースの
左から二番目に収まっているそれを取り出す。




あの子達、元気にしてるかな。




とても懐いてくれていた元気一杯の三兄妹。
彼らの島へのエターナルポースを片手に甲板へと足を踏み出した。

流石はフリーウィング。
私が舵を切るより早く、船首部が目的地へ向かってズレ始めてる。




いきなり会いに行ったら驚くかな。
喜んでくれるかな。

リュウは小さかったけど
一年以上前に会ったきりの私のこと、覚えててくれてるかな。

ユウは今でも
お姉ちゃんって呼んでくれるかな。

シュウは
まだ私をお嫁さんにしてくれるとか
思ってくれてたりするのかな。


どうしよう。
楽しみすぎる。





「面舵いっぱーい!!」
「ウイそれ、意味分かって言ってる?」



なんとなくテンションが上がって叫んだ言葉に
ディゼルの冷静な突っ込みが入った。

確かに。
進行方向は文句なく取り舵だ。

でも良いじゃん。
気分だ気分。


やれやれと呆れるディゼルに
カレンが面舵ってどんな意味よと腕を組みながら訪ねた。


今日もフリーウィング号の上はこんな感じです。

サザンスターの港は、前にここを訪れたときとはちっとも変わってなくて。

比較的栄えた商店街に、沢山の住宅が立ち並ぶのどかな街。
その西側に広がる鬱蒼とした森も、あの頃のままだ。


生まれてはじめて銃で撃たれた事とか、皆に怒られた事とか、ついこの間のことみたいに思い出した。


懐かしいな。
もう1年も前のことなんだ。




「じゃあごめん、ちょっと行ってくるね!」
「いってらっしゃーい。」




カレンとディゼルを船に残して、港に足をおろした。
あの子達の家に向かう足取りは、
最近で一番、軽く感じた。
























「ウイ子供好きよねー。」
「そういうとこも誰かさんとは全然違うね。」



本当に。
なんでこいつはいつもいつもこうやって私に突っ掛かってくるんだろう。
にこにこと人好きするような笑顔を浮かべているから
更にたちが悪い。



「私だって嫌いじゃないし。子供。」
「向こうはどうだろうね。」



ウイは子供にも好かれそう、と爽やかに笑うディゼルを睨み付けながらため息をついた。



「あんた何か聞いた?ウイが孤児を助けたいとか言う理由。」
「知らないな。海賊団ズなら何か知ってるかもね。」



前にこの島を訪れた時に仲良くなったらしい子供たちに会いたいと、うきうきしながら船を出て行ったウイ。

そしてウォーターセブンで今後のブラーヴェの方針を話し合っている時に
身寄りのない子供に居場所を作ってあげたいと真剣な表情でそう言っていた。

基本的に辛気臭い話だとか、ネガティブな話を
あの子はしない。

疲れたとか忙しいとか、そういう愚痴は言うこともあるけど
その口調や雰囲気はただの冗談や戯れだってすぐに分かるようなもので。



着信を知らせる音が鳴り響けば、誰が見ても分かるくらい顔を綻ばせては凄い勢いででんでんむしへと駈けていくし
電話が終わった後はいつも、一瞬だけ悲しそうな顔を浮かべては右耳のピアスを触ってる。

すぐに何事もなかったかのように私たちに笑顔を向けてくれるんだけどね。

あんなにお互いに好き合っている海賊団ズと離れている理由。
ひとりぼっちの子供に拘る理由。

あの子はそういう話、全くしてくれないからな。


「あんたは気にならないの?」
「どうだろうね。」



何を考えているか読めない顔で訳の分からない返事をするこいつと
これ以上この話をしても無駄な気がする。

私が思った事をすぐ口にしてしまいすぎるせいなのかもしれないけど
ウイが本当に困るような我儘を言わない事や
何だか隠し事をしているような事。

壁を作られてるみたいで、少し寂しいって感じる。



海賊団ズに聞いたら教えてくれるかな。
あの人達は知ってるのかな。



聞くとするならタイミングは今だ。
そして相手はローが適任だろう。

あの人イケメンだけど無愛想っていうか
あんまり得意じゃないんだけどな。



「お節介。すぐ何にでも首突っ込むよね。」
「だって気になるじゃない。悪い?」



でんでんむしで海賊団ズの番号を呼び出そうとすると、横からそんな言葉が聞こえてきた。
本当に、なんでいちいち人の行動に文句ばっかり付けるんだろう。

姑かよ。



「良いんじゃない?カレンらしい。」














珍しいこともあるもんだ。
てっきり咎められるかと思ったのに。

ディゼルの意外な発言にうっかり手が止まってしまった。







「まあそれが上手く働くかは分からないけど。」







そう言って帳票整理を再開するディゼルが
結局私に何が言いたかったのかは分からない。

貶された気もすれば、そうじゃない気もする。



まあ、とりあえずかけてみるか。











『もしもしー?』
「その声はー、ベポだ!私だよー!カレン!」



電話がウイからだと思ったのかベポは少し驚いたようだったけど
久しぶりー、元気?と社交的に対応してくれてる。

ウイ曰く、海賊団ズ版ディゼルらしいけど
全然良い子だよな、ベポ。



「ベポ!ロー居る?ちょっと聞きたいことあるんだけど。」
『え?カレンが?キャプテンに?』



居るには居るけど、と驚きを隠せない様子のベポは
取り敢えずローに繋いでくれるみたいだ。

あー。
なんか緊張する。

凄い嫌そうな対応されそう。
いや絶対される。

ウイの大好きな海賊兼お医者様の声が聞こえてくるのを
なんとなく落ち着かない気持ちでただ待った。

『なんだ。』



聞こえてきた声は案の定不機嫌そうで。
絶対電話の相手がウイだったらこんなしゃべり方しないんだろうなって
すっごく思う。



「あー、久しぶり!元気?」
『何の用だ。』













ウイはこんなコミュ障な男のどこが好きなんだろう。
顔か。
顔が好きなのか。
アイツ意外と顔が良ければそれで良い派か。

ペンギンの方が、絶対総合ポイント高いと思うんだけど。



「じゃあ単刀直入に聞きます。ウイが一人ぼっちの子供、孤児とかを助けたいって言う理由に心当たりとかある?」
『……なんだいきなり。』















用件を言えって言ったのはお前だろ!!!







なんなのこの人本当に。
特に用事がなければ絶対金輪際関わりたくないタイプの人間だわ。

顔が良くても勝手すぎる。
そして愛想がない!!

聞きたい事があるのはこっちだから
ここで電話をガチャ切りする訳にもいかないんだけど。
人としてもうちょっと言い方とかあるでしょ普通。








「今後ブラーヴェで何したいかって話してる時、あの子そう言ったのよ。でもその後も理由とか特に話さないし。」
『だろうな。』




本当に













ムカつく。



ウイの男の趣味を本気で疑うわ。
多少あの子には優しかったとしても

それ以外の人にこんな態度を取る男が彼氏とか
私は本気で無理だわ。

あんまり話したことないせいで気付かなかったけど


ないわ。

マジないわ。

ローはないわ。




「……あんた達はその理由、知ってるの?」
『微妙だな。知らねえけど、段々見えてきた。』




は?
知らないの?
見えてきたって何が?

ダメだ。
抑えろ私。

イケ好かない男だけど貴重な情報源だ。






「それ教えて貰えたりしない?」
『お前どうせ不確かだって言っても鵜呑みにすんだろ。』



まあ













確かに。











知らないって言ってたし、ローもきっと推測の範囲なんだろう。
でも悔しいけど
私達よりもこいつはウイのことをよく知ってる。









知りたい。




いつも笑顔で人懐っこくて
なんだか掴み所のないあの子が抱えてるその何かを。



destruct at reality.