「じゃあ不確かな推測の方じゃなくてあんた達が知ってる情報の方で良いわ!教えてよ。」
『知ってどうする。』
っとにこの男は……!!!
「あの子弱いとことか、見せてくれないのよ。そういう核心に迫るような事も話してくれない。……何か出来る事があるならしてあげたいじゃない。」
だって私たち、同じ目標に向かって頑張ってる仲間だもん。
その仲間が一人で何かを抱えてるなら
話だけでも聞いてあげたい。
辛い時には傍に居てあげたい。
本当の姉みたいに慕ってくれて懐いてくれるウイに
お姉ちゃんらしい事、一つくらいしてあげたい。
『お前が夜一緒に寝てやってるだけで、あいつはきっと救われてる。』
「は?」
そりゃ一緒には寝てるけど
それが何の役に立つって言うんだ。
『お前と毎晩寝る前にくだらねえこと話したり、一緒に買い物行ったりするのが楽しいんだと。』
「そりゃ、私も楽しいけど……。」
ウイはローに私とのやりとりを楽しいって
そう話してくれてるのか。
なんか、嬉しいかも。
『悪いな。あいつの事気にかけて貰ってるようで。』
「いや、そんな何も出来てないから本当に。」
どうしたって言うんだ。
コミュ障が急に流暢に話し出した上に
詫びまで入れてきた。
話すトーンも、さっきまでの刺々しさがなくなった気がするし。
何なの?
調子狂う。
『また何かあったら教えろ。助かった。』
「え、ちょっ……!」
一方的にそう言われて、通話は切れてしまった。
まだウイと海賊団ズが離れてる理由、聞いてないのに。
「流石ローだね。情報を洩らさずに指示だけ出して、当の本人にそれを気付かせないんだから。」
「……!?」
ディゼルに言われて初めて気付いた。
本当だ。
あいつ情報だけちゃっかり仕入れてしれっとでんでんむし切りやがった!!
「ああいうやり口もあるんだって、勉強になったよ。」
他人事みたいに感心してるディゼルに
いつも以上に腹が立つ。
ローもローなら
ディゼルもディゼルだ。
結局何の収穫も得られなかったけど
ウイが孤児に拘る理由って、何なのよ一体。
私の盛大なため息を
誰かさんが楽しそうに聞いていた。
懐かしいな。
三兄妹の家を見上げると、なんだか自分の生まれ育った家以上に懐かしさや暖かさを感じる。
前にここを訪れた時、私は病み上がりなのに遊ぼうと懐いてくれるあの子達が可愛くて
だるい体に鞭を打って夕食までの時間を一緒に過ごした。
疲れたけど、
助けられて良かったなって
この子達の笑顔が守れて良かったって凄く思ったのを覚えてる。
3人のご両親も、凄く温かい人達で
おいしい家庭料理を沢山振る舞ってくれた。
私も結構食べる方だと思ってたつもりだけど
もっと食べなさいって沢山勧められるままに食べたら、つい食べ過ぎてしまった。
ユウとリュウはご飯の時間だって言っても食べることなんてそっちの気でお喋りが止まらないし
食べ始めたかと思えば、お互いに嫌いな物を押し付け合うし
とにかく賑やかで楽しい家庭だった。
こんこん
「はーい……ウイちゃん!!?」
「おば様、ご無沙汰してます。」
おば様は私の顔を見るなり、物凄く驚いた顔で
強く抱き締めてくれた。
「もう!!心配したのよ!!?急に指名手配なんてかけられるし、全然顔も見せないし!!」
「ごめんなさい。……なんだか色々あって。」
サザンスターにも、ベガス聖やブラーヴェのニュースは届いていたようで
今の今までずっと心配かけ通しではなかった事にひとまずほっとした。
責められてるような口調だったけど
なんでそうなったかを考えると、少し嬉しい。
取り敢えず上がってと腕の力を緩めて家に通してくれたおば様の目は
少し潤んでいた気がする。
少しの時間しか一緒に過ごしていないのに
こんなに心配してくれるおば様の温かさが、心に染みた。
「……!!?ウイっ!!」
リビングの扉を開けた途端に目が合ったシュウは、物凄い勢いで飛びかかって来た。
一年とちょっとで、大分背も伸びたシュウのタックルには少しよろけたけど
こういう所は全然変わってない。
散々心配かけやがってと説教をしながらも、その声はどこか嬉しそうに聞こえた。
「シュウおっきくなったね。」
「ガキ扱いすんなっ!もうウイよりデカいぜ!」
顎を上げて得意気に見下ろしてくるシュウは確かに、私より少しだけ
背が高くなったみたいだった。
「夕飯食べて行ってくれるんでしょう?」
「えへへ。実はそれ期待して来ちゃいました。」
あの時の美味しいご飯をまた食べたいなってちゃっかり思ってた事を正直に話すと、おば様は目を細めて笑顔を浮かべながら
ご馳走作るわねって腕捲りをした。
「どうせアイツら自分で帰って来んじゃん。俺本当に迎え行くの?」
「ウイちゃんを一人占めしようとしないの。」
公園で遊んでいるらしい下の子二人を迎えに行くようにとおば様に言われたシュウは本当に嫌そうで。
嫌がるその素振りは、もう子供っていうよりやんちゃな少年だ。
文句を言いつつもちゃんと迎えに行く準備をしている所は
やっぱりお兄ちゃんだなって思う。
「いってらっしゃい。待ってるね。」
「マッハで帰ってくる!」
家の中だと言うのに、キャップを被るなり本当に全速力で走り出したシュウに思わず笑ってしまった。
そんなに急がなくても逃げないのに。
「シュウね、あれから近所の剣道教室に通ってるのよ?強くなるんだーって。」
手伝うって言ったのに座ってなさいとお茶とお菓子まで出して貰ってしまって。
包丁がまな板に当たるトントンと言うBGMをバックに、おば様の話に耳を傾けていた。
シュウが強くなって私をお嫁さんに貰ってくれるって約束は、今も有効なのかな。
どうしよう。私お嫁に行きたい人出来ちゃったのに。
「そろそろシュウも手に職を付けても良い年頃じゃない?剣道ばっかりって言うのも親としては少し心配よね。」
再会した時のあの様子じゃ、シュウが剣道を頑張ってるのは私のせいな部分も少しあるんじゃないかって
ちょっぴり責任を感じる。
そっか。シュウももう13歳か14歳か。
そりゃもう子供には見えない訳だ。
「シュウは何かしたい事とか、言わないんですか?」
「剣道一色よ?興味有ることならのめり込んで頑張るんだろうけど、それ以外はさっぱりダメね。」
ため息混じりのおば様の声は、それでもどこか嬉しそうに聞こえた。
なんか私、ちょっとこの状況で思い付いちゃった事があるんだけど。
言ってみても良いんだろうか。
「あの、おば様?もし、シュウが良ければなんですけど……」
「……本当にあの子で良いの?ウイちゃんとなら喜ぶと思うけど。」
「むしろ助かります!……でもシュウは興味ないかな。」
あの子役に立つかしらと鍋に大量の野菜を投入しながらそう話すおば様は少し、嬉しそうに見えた。
ソニア達のおかげで、ブラーヴェは結構名の知れた企業になってる。
そうじゃなくても、大事な子を預かるんだ。
親御さんにも胸を張って任せてくださいって言えるようにしっかりアフターフォローもするつもりだ。
「もしシュウも乗り気ならこっちからお願いしたいくらい。でも役に立たなかったら遠慮せずに返品してね。」
「乗り気になってくれたら絶対シュウは凄く頑張ってくれると思うんです!」
ひとりぼっちの子供達をブラーヴェで受け入れた後も、見知らぬ大人達に囲まれて慣れない場所で過ごすのは
きっと辛いはず。
シュウはお兄ちゃんだから面倒見も良いし、きっとまだ見ぬその子達の支えになってくれそう。
そうじゃなくても
たまにしか会う機会のないシュウと、今後も仕事を通してだけど一緒に居られたら
一緒に同じ目標に向かって頑張っていけたら
それって凄く楽しい事だと思う。
「ウイちゃんにはなんだかお世話になりっぱなしね。」
おば様がそう言いながらかき回している鍋からは、凄く食欲のそそられる良いにおいがした。
夜ご飯なんだろ。
なんだかこういうのって、家族って感じがして良いな。
「あの時ウイちゃんが助けてくれなかったら、今あの子達に手を妬いてるのもなかったんだなって思うと、ね。」
「私もちっちゃな友達が出来て嬉しいんです。おじ様とおば様にも、心配して貰えたり、こうしてご飯食べさせて貰ったりって。ありがとうございます。」
あの時あの子達を助けたのは、自分のためだ。
目の前で辛い思いをするって分かりきってる子達をあのまま放っておいたら
きっと私は一生後悔してた。
ロー達と一緒に居られない理由を考える度に
でも私も同じことをしたじゃないって。
寂しさや怖さを感じる事すらも、罪悪感に感じてたと思う。
私はいつも、自分の為にしか生きてない。
それなのにこうして、私には勿体ない位の素敵な人たちに支えられてる。
私は本当に、恵まれてる。
あの人達のマイナスを補って尚余るくらい
ちゃんと私に、返ってきてる。
「シュウ、ウイちゃんをお嫁に貰うんだって騒いでるけど。どうなの?ウチの子。」
「あれ、本気だったんだ……。」
口の端を吊り上げて、イタズラでも思い付いたみたいに笑うおば様の表情は
なんだかカレンみたいだなって思った。
シュウ、未だにそれを言ってるのか。
ちゃんと言わなきゃな、好きな人がいるって。
でも何も言われないのに急に言い出すのも、なんだかな。
「……好きな人が、居るんです。上手く行くかとか分からないけど。」
「あらあら。シュウってば失恋ね。一緒に旅してたお医者さん?」
なんで……
ローに会った事ない人にまでバレてんだろ。
やっぱり自分の好きな人とかの話をされるのはまだ慣れなくて。
顔が熱い気がする。
俯きながらこくりと頷くと
自分の息子の気持ちに応えられないっていう
おば様にとっては面白くもない筈の私の恋愛話なのに
おば様は上手くいくと良いわねって、暖かい笑顔で応援してくれた。
「シュウの事とは関係なく、いつでも自分の家だと思って帰ってらっしゃい。」
「え……。」
聞こえてきたその内容に、驚きすぎて言葉が出てこなかった。
「あの子達も喜ぶし、私も家の人も、たまにはウイちゃんの元気な顔見たいわ。」
なんて言えば良いんだろう。
上手く言葉に出来ないけど、凄く嬉しい。
私には帰る場所なんて
今までなかったから。
父様の元へは、もう帰れない。帰りたくない。
例え母様が生きていたとしてもあの家は
帰りたいと思えるような場所じゃなかった。
ここみたいに、笑顔で迎えてくれて
来れば美味しいご飯が待ってるって思えて
離れてる間の話を聞きたい人達も
心から心配して、小言をいってくれる人達もいるこの場所。
私が憧れてたものを、憧れてた場所を
おば様はくれるって言ってくれてる。
「どうしよう、……嬉しい。」
「あらあら。ここに帰りたいって思ってくれてるウイちゃんの気持ち、私たちは嬉しいわよ。」
つい溢れてしまった涙。
おば様は呆れたように笑いながら
濡れた手をエプロンで拭いて、頭を撫でてくれた。
ローとは違う、少し手荒れの目立つ華奢な手は
とても温かくて、その熱が染み込んで来るみたいに感じた。