-2話
一般の生徒が冬休みを満喫するなか、レインは魔法局インターンシップのため魔法局に通っていた。夏のインターンシップに引き続き、レインは魔法図書管理局で神覚者のソフィナ・ブリビアの下で雑事をこなしていた。業務は多岐に渡ったが、1年生の時からインターンを続けているおかげか、業務は大きなミスをすることもなく、インターンシップはつつがなく進んでいた。
 冬休みも中盤にさしかかった頃のことだ。その日もレインは昼食を早く済ませてしまおうと食堂へ足を運んでいた。魔法局の食堂のメニューは一流シェフが作るだけあって非常に美味しかった。学生に任せていいのか疑問に感じるレベルの激務が続く中でも、食事だけが唯一の救いだった。
食券を買い列に並び、食事を受け取る。
昼食を食べるのに適当な席を探している時、人混みの中に知っている背中を見つけた。肩口まだ伸びた髪越しに肩に手をかける。
「ヨーク」少女が振り向くとマゼンタの瞳がレインをとらえた。
「あれ、レインじゃん。おはよう」
「もう昼だ」そうだったっけ、とシンリーは小首をかしげる。
「お前もインターンか?」
「私があくせく働くわけないじゃない。ただ知り合いを探しにきただけだよ」
 たしかに、インターン中は義務付けられているため制服を着ているレインと違ってシンリーは私服だった。それも、歴史と威厳のある魔法局にはそぐわないかなり大胆な服装をしている。肩を出したシャツワンピースの丈は下着が見えそうなほど短い。制服の時ですら下着が見えるんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、このワンピースの丈は、もう少し目線を落とせば見えているに違いない。これは人前に出ていい服装なのだろうか。ファッションに疎いレインにはよくわからなかった。
「せっかく私が帰ってるのに、家に寄り付きもしないでこんなとこで一体なにしてるんだか」
「働いてるんじゃないか」
 腕を組むと胸が強調される。咄嗟に目を逸らす。
 食堂にいるにもかかわらず、仕事中なのだろうか、カトラリーを動かしながら魔法で浮かした書類に目を通し、同僚と今後の仕事について打ち合わせを行う器用な職員が何人も目についた。シンリーの探している人間もあの中の一人にいるのだろうか。
「は〜めんどくさい。なんで私がセルのこと探さなきゃいけないんだろう」
聞いたことのない名前だ。シンリーの親族だろうかと思考を巡らせる。そんなレインの横でブスくれていたシンリーの不機嫌そうな顔がぱあっと明るくなる。
「あ、いたいた。セル!」シンリーがレインの前に飛び出て、目の前を歩いていた男性の腕に抱きつく。拍子に彼が持っていた料理が落ちそうになるが、そんなこと知ったことないとばかりにぎゅうぎゅうと強く顔を寄せ、見たこともない無邪気な笑顔を向けるシンリーに対し、抱きつかれた方はさぁっと顔を青くする。
「シンリー……!? お前、なんでこんなところに」セルと呼ばれた青年は、赤茶色の髪をしている。そばかすが夜空を飾る星屑のように顔に散らばっていた。その耳ではシンリーがつけているのと同じピアスが揺れていた。いないはずの存在がここにいることに戸惑いながら、少女を振り払うことはしない。
「セルが私に会ってくれないからじゃん。私がいなくて寂しかったでしょ」「んなわけねーだろ」「あはは。は?」軽快なやり取りが続いていたシンリーが男の一言に真顔になる。「…寂しかった。これでいいか」渋渋、と言った具合の言葉の返答は無言の笑顔だった。微笑ましいとも上下関係を感じるとも言えるやり取りが終わるとシンリーがレインの方を向く。
「紹介するね。レイン。これはセ___」男の手がシンリーの口を塞いだ。「セシリアです……セシリア・ウォーロック…ッ!?」セシリアと名乗った青年が塞いでいた口から手を離す。
「っ…! お前何するんだ!?」
「舐めてほしいのかなって」どうやら手のひらを舐められたらしい。セシリアは汚いものでも触ったかのように何度も手を拭いている。
「そんなわけないだろうが殺すぞ」
「殺せるわけないじゃん。あはは、おもしろ。お父様に言いつけるよ」
「クソガキ……」どうやら、シンリーに困らせられているのは同じらしい。レインの気持ちが若干セシリアに傾く。
「で、コイツは誰だ」
「ああ、レインね。レイン・エイムズだよ。私の……ペット!」
「違う。友人だ」
「エイムズ……噂は聞いていたが」セシリアはぶつぶつと独り言をこぼしながらレインの顔を上から下に、右から左に観察する。
「なにか?」
「いえ。今年度の神覚者候補としてお噂を聞いていたので……庶民的なものがお好きなんですね」
セシリアの目線の先にはレインが持つトレイがあった。その上にはレインの昼食が並んである。食事バランスの取れた、食堂の中で1番安いメニューだ。
「これが好きなので」
「そうですか。健康的でいいですね」セシリアの笑顔の裏の胡散臭さがなんとなく鼻につく。拒絶する時のシンリーとは似ているが、それとは異なる不快感のある向けられたくない笑顔だ。
妹のような存在と仲良くする男が突然現れた___。レインは自身の置かれた状況を自己流に解釈し、これは勘違いされているやつだと結論づけた。
「安心してください。オレとヨークは恋人ではありません」考えられる原因を否定するレインに1番大きな反応を返したのはシンリーだった。
「っはぁ!! あはは、そんなわけないじゃん!!!セルもそんなこと考えてないよね!!ね!!!」
ゲシゲシとシンリーが「ね」と念押しされてセシリアは嫌そうに首を縦に振る。「知ったこっちゃねえ」という言葉が喉元まで出かかって、なんとか飲み込んだ時の顔だった。
 シンリーが無理やり話を進め、気がつくとなし崩し的に3人で昼食を取ることになっていた。シンリーとセシリアが並んで座る隣にレインが並ぶ。
「あ、水無くなっちゃった。とってきて」シンリーがセシリアに命令すると彼は顔を顰める。
「なんでボクが」口答えする前に「は?」とシンリーが凄む。しばらく睨み合った後、セシリアは舌打ちして席を立った。どうやらシンリーの方が立場が強いらしい。
「似てないな」セシリアが声が届かない距離に行ったことを確認してから、先ほどから思っていたことを口に出す。
「うん。実の兄弟ではないからね」
「義理の兄か」シンリーが首を横に振る。首の中ほどまで伸びた髪が金色のピアスと共に揺れた。
「お兄ちゃん代わり? 家族代わりみたいな」
「薄々思ってたが、お前の家系は複雑なんだな」
「複雑かもね。まぁどこもそんなもんでしょ」
「そうか……?」
「そうそう。うちは兄弟みんなお母さんみんな違うから、流石にちょっと特殊かもだけどね」
「……そうか」思っている以上にシンリーの家庭は複雑らしい。以前語っていた、「弟のことをよく知らない」という話も理解できた。
「すまん」
「なに?」
「以前お前に『お前の家は居心地が良さそうだ』って言っただろ」
「え……? あー、うん。そんなことも、言ってた……っけ?」
「浅慮だった。詫びさせてくれ」レインが頭を下げる。周囲がなんだとそれに目線向けた。
「うーん。傷ついたなぁ。この傷はここのプリンでも奢ってもらえないと消えないなぁ」
「そんなことでいいのか」レインが頭を上げる。灰色の瞳に目を丸くした少女が映る
「……それもそうだね。こんなことで借り返させるのも勿体無しい、将来に取っといて」白けたとでも言いたげに口角を上げたシンリーが立ち上がる。
「帰る。また学校でね」
 レインの向かいの席には、ほとんど手のつられ ていないトレイだけが残された。料理のうちの、肉と果実だけに手がつけられているがそれも全て食べられているわけではない。
「いねえ…」グラスを片手に戻ってきたセシリアにレインが彼女が帰ったことを教えると優しげな顔立ちにそぐわず、「あのクソ女……。昼メシの肉だけ食って帰りやがった」と青筋を立てた。
残されたトレイを持ったセシリアは、無言のままレインの前から立ち去ろうとする。そして背中を向けたところで動きを止めた。くるっと振り返る。見下ろしてくる二つの黄色い瞳にやけに圧がある。
「忠告しておく。あの女はやめておけ。重いぞ。色々と」
「重い……? この前抱いた時は軽かったですが」レインは数ヶ月前、怪我をしたシンリーを抱き上げたことを思い出す。その時の彼女はちゃんとご飯を食べているのか疑うくらい軽かった。
「抱い……まぁ一夜の関係で終わるならいい女か」
「なにを言って」レインが瞬きをすると、セシリアの姿は消えていた。
 魔法を使ったのだろうか。だがレインの前から消えるためだけに魔法を使う理由が思い浮かばなかった。
あとでこの話をソフィナにしたところ、「はて…そんな局員いたでしょうか…?」とセシリアの名前にピンと来なかったのか、彼女も首を傾げていた。今度、人材管理局の知り合いにセシリアについてに聞いてみようと思って結局、聞かれることもなく、セシリア・ウォーロックの名前はレインの記憶から薄れていった。


三魔校対争神覚者選定最終試験、イーストン魔法学校、ヴァルキス魔学校、セント・アルズ聖魔学校の三校から各三人ずつ、合計九名が神覚者を目指して争い合い、その結果で今年度の神覚者が決まる。例年通りであれば始まりの杖を手にした者が神覚者に選ばれることになる。
 そんな最終試験の直前、学内での神覚者選抜試験を終えたレインはといえば、食堂で女子生徒に囲まれていた。
きゃあきゃあと、黄色い声に塗れて、まるで檻に閉じ込められた羊のような顔でこちらを見つめてくるレインを、シンリーは死んだ目で見つめていた。その隣にはマックスもいる。
成り行きはといえば簡単なもので、課題をしに自習室にやってきたマックスとレイン、トムに連れられ反省文を書きにきたシンリーが合流したのが数分前。
神覚者候補のレインとドゥエロ年間MVP筆頭候補のトムに自習室の生徒たちが集まってきたのが数秒前、そして、輪の中から「いらない」とばかりにマックスとシンリーが弾き出されたのが今の話である。レインの隣では、トムが慣れた顔で女子生徒の対応をしていた。
まさにモテる男とモテない男の差がそこにあった。
「くだらない。なにがいいんだか、あんな男たちの」
「ははは……レインもトムくんもすごい人気だね」
「トムはまだモテるからわかるけど、レインのあれはなんですか? 信じられない。今更その辺の女に囲まれたからって、鼻の下伸ばして___。死ねばいいのに。今すぐ」不機嫌そうなシンリーが炎に包まれていくのにマックスは苦笑いしかできなかった。
「神格者選抜試験で勝てるかどうかも分からないのに。こんな大事な時期になにやってんの。周囲もレインも馬鹿。馬鹿しかいない。ばかばかばか…」恨み言のように繰り返すシンリーをマックスが宥める。
「……心配だよな。わかるよ」
「わ、私が心配とか……しません、けど」ごにょごにょと言い訳を始める。語気が弱くなる。レインがいなければ、態度で、言葉で、ずいぶん分かりやすい女の子になるものだ。きっとこれをれいきっとこれをレインに見せれば流石の彼も__と思ったが、親友の鈍感さはマックスが一番よくわかっている。きっと今の彼女の姿を彼が見たところで「トイレか。そこを曲がった右奥だ」というだけに違いない、と考え至った。前途多難という言葉そのものだ。
「心配ならお守りをあげるのはどうかな」
「おまも……」ピンとこないシンリーにマックスが説明する。
「あなたの無事を祈っていますって伝えるためにものを渡すんだよ」
「べつに無事とか、心配してないです……」
「思ってるだけじゃ伝わらないよ。行動に移せばきっと何かにつながるはずだ」マックスの目が真っ直ぐシンリーを見つめる。その瞳の真っ直ぐさについ、「か、考えます」と素直に返答してしまった。シンリーは耳に手を伸ばし、指先で金色のピアスを撫でた。

 澄んだ空気が肌を刺すのは冬だからだろう。昼間にも関わらず、気温は上がらないままで、天気のぐずつき具合からも今にも雪が降り始めそうだった。レインはアドラ寮の中庭に来ていた。春には咲き誇っていた花々も今ではすっかり枯れ落ちて緑の葉すらも残さない。それでもまた春には去年と同じように花は咲き誇るのだろう。来年はどんな花がこの場所を彩るのか思考を巡らす。ぶちっと頭の中でシンリーが花弁をもぎ取って花占いを始めた。春ごろの朝の逢瀬が懐かしい。
「こんなところに呼び出してなんの用だ」レインを呼び出したシンリーは手を後ろに隠してもじもじとしている。また花瓶でも割ったのだろうか。
「ただ顔が……負ける人の顔が見たかっただけ」シンリーはいつも通りの人を小馬鹿にする笑い方で返す。彼女と出会ってほとんど一年、もうレインも慣れたもので、いちいち苛立つこともなく会話を続ける。
「神覚者選抜試験だっけ。負けるといいね」
「……ありがとう」
「会話が成立してない」シンリーが眉を顰める。
「応援してくれてるんじゃないのか」
「してない! なにをどう聞き取ったらそうなるの」
「……確かにそうだな」
彼女の言葉には一切、これから人生で最も大事な勝負に出る友人を励ます言葉など含まれていなかった。それどころか負けることを望むような発言は、きっとレイン以外が聞けば激昂していただろう。だがレインにはもうシンリーの言葉に敵意が含まれていないことがわかっていた。それほど長い時間を一緒に過ごした。
「別に今日はこれ渡しにきただけだし。応援とかしてないから。決して」シンリーがぐいっと
差し出されたてのひらサイズの白い巾着を受け取る。
「くれるのか」
「あげないから。返して。全部終わったら。わかった?」
「わかった」
レインが中身を確認しようと袋を開ける。「見たらだめ!」シンリーがそれを手で制止した。レインの手に、脈が通っているのか疑問に思うほど冷たい指先が重なる。
「これは、その」恥ずかしそうに視線を逸らし、口篭ってから、「お守り、だし……」と続く。
レインの中で腑に落ちる。なるほど。お守りなら中を開けてみてはいけないか。と、押し付けられたそれをポケットに入れた。
「ま、まぁ、君が勝つなんてないんだろうけど、せいぜい死なないように頑張って」
「勝つ」レインが言い切る。
「勝たなきゃいけねえ理由がある」
「じゃあ、勝ちなよ。君の好きな有言実行、私が全部見届けてあげるから」

聖セントアルズ魔学校で開会式が行われたのち、三魔校対争神覚者選定最終試験が始まった。
今年の舞台は廃病院だった。首都から外れた場所にあるそこは長年人の手が入っていないのだろう、鬱蒼とした木々に囲まれている。戦時中は医療魔術に特化した貴族が経営していたが、戦争が終わると同時に経営が傾き、そのまま貴族のお家柄ごと潰れたらしい。そんなことが歴史の教科書に付属する参考書の片隅に書いてあった。
病院の入り口の傾いた看板には貴族の家名が病院名として書かれているが、具体的になにが刻まれてあるかは解読はできなかった。
試合開始のアナウンスと同時に、廃病院に転送される。レインたちが転送されたのは廃病院のオペ室だった。散らばった手術用の道具。至る所に血が染み付いている。今にも幽霊が出てきそうな雰囲気に呑まれそうなところをレインが率先して他の生徒の前を歩く。
燕尾服のような制服を着た3人の男子生徒。その真ん中で構える生徒には見覚えがあった。たしか、キングルスと名乗っていただろうか。開会式後の慇懃な挨拶が記憶に新しい。思い出している最中にも両者杖を抜き、戦闘が始まる。お互い実力は拮抗しているが、レインにはこちらがやや優勢に思えた。
しかし、イーストン側の生徒の中でも、レインが攻撃の要になっていることなど、誰の目から見ても明らかで、聖セントアルズ側の生徒の魔法によりレインと他のイーストン寮生は分断された。ワープかなにかの魔法で一人、どこかわからない廊下に投げ出される。周囲を警戒しつつ、他生徒と合流するため足急ぐ。遠くでは戦闘の音が聞こえる。
早く行かねえと、と走るレインが動きを止める。
幽霊を思わせる少女がそこに佇んでいた。立っているだけなのに不思議な圧を感じる少女のまとう黒を基調とした制服は軍服を想起させる。制服の胸元で、首元から伸びた白いタイが、後頭部の高い位置でまとめた白銀の髪と共にゆらめいている。
ヴァルキス魔学校の生徒だと認識し、咄嗟に構える。それはあちらも同じだった。
杖は持っていないが、持ち手にバラの装飾の施されたレイピアが、代わりに怪しい光を放つ。
「私はシャルルの同伴だし、神覚者を目指すつもりはないが___」女子生徒がレインの間合いで呪文を唱える。と同時に白い閃光が走り、レインの視界が真っ白に染まった。
一瞬遅れて耳に入ってくる爆音。間一髪で避けたが、当たっていれば戦闘不可能になっていただろうことは、崩壊し、空間同士を隔てる壁をすっかり無くしきってしまった破壊の跡から想像できた。
「対戦相手(キミ)に失礼だからね。全力で行かせてもらおう」「パルチザン___」レインが攻撃する前に、少女が再び間合いに入る。
攻防が続く。レインは一向に攻勢に出られない。
冷や汗が、頬を伝う。

「このままじゃ負けるね」イーストン魔法学校内、アドラ寮の談話室では、生徒たちがラフレの鏡で最終試験を観戦していた。今年度の神覚者が決まる重要な試験ということもあり、寮生のほとんどが行く末を見守りに集まっていた。

シンリーとトムもそのうちの一人だった。
「なに!? エイムズ先輩!!頑張れ!!竹のように!!バン」「うるさい。黙って」シンリーが竹ポーズをしようと立ち上がったトムのスネを蹴って黙らせる。「私以外に負けないでよ……」悶絶する友人には目もくれず、シンリーは祈るように両手を握り込んだ。

 鏡の中ではレインが劣勢のままであった。ヴァルキスの女子生徒の魔法の方がレインの魔法よりも圧倒的に早かった。打つ手なくレインは追い詰められていく。
「ふふ、君は強いね。やはり強者との戦いは楽しい。得るものがあるよ」
「戦闘狂が……」
「否定はしないよ。私たちは今、お互いを高め合っているのさ」
レイピアが再び風を切り、強い爆風がレインを襲った。壁に打ち付けられたレインのローブの内ポケットから白い袋が落ちる。先ほどの斬撃で袋が破れ、一部が冷たい床の上に投げ出されていた。深い金色のピアスがパーツごとにバラバラになっている。血の伝う指先で拾い上げる。それはシンリーの耳元を飾ってきたものだった。

『うん。大切。大事な人からもらったの。これをしてると孤独じゃない気がする。お守りみたいなものだよ』

 かつて彼女の姿が、瞼に浮かぶ。そこにいるのはどうしようもないほど弱々しい姿で、普段の彼女とのギャップについ、緊張の糸が切れた。
ふ、と視界がひらけてくる。
「どうかしたかい? それは一体___」
「なんでもねえよ」レインは床に落ちたピアスを握りしめる。一人で戦っているわけではない。
自身を支えてくれた友人がここにいる。
「テメェの魔法は見切った。勝たせてもらう」
杖を構えると、レインの背後から大剣が切先をのぞかせる。その数は徐々に増えていく。
「パルチザン___」
「本気だね。こちらも全力で迎え打とう」
勝負は、瞬きの間に決着した。