05


「どういうこと」

「え?こういうこと」

「は?…っちょ!」




ニヤリと笑った仁王から目が離せないでいると突然腕を掴まれてしまった。



「こっち来て」

「は?!」



腕を掴まれたと思ったら仁王に後ろから抱きすくめられてしまった。


「俺が誰か分かってる?」

「…仁王」

「ん。俺がそのまま帰ると思ったか?」

「っ…」


ぎゅっと後ろから腕を回してくる仁王。突然で私も体が固まってしまった。どうしたらいいかも分からずに思考回路が上手く動いてくれない。やっとのことで開いた口もものを発するには機能していなくて、


「ど、したの…仁王?何?」


かっすかすの声で問いかけても腕を回してる張本人は何の気なしに淡々と答えてくるのだ。


「何って、なんだと思う?…俺がしたいからしてるだけじゃ」

「そんなっ…」

「好きな子と二人きりでこの俺がほっとくわけないじゃろ」



好きな…子って…何、私?仁王の事だ私に対する好きなんていつも連れ込んでいる女の子達に対する思いと変わらないと思っている。前に学校の子で立海のテニス部のファンの子に聞いた事がある、仁王君はいつもいろんな女の子と遊んでる、って。そんな仁王の事だ、ふざけて私を揶揄ってるに違いない。それなのに仁王は私を抱きしめていた腕を緩ませると今度は私を自分の方に向き合わせて両手で私の頬を掴んできて、目の前に合わせた。


「……」


無言で見てくるから、どうしていいかわかんないし。私も突き放せばいい物を。切れ長の軽く倦怠感を帯びた瞳から目が反らせないでいる。腹が立つほど綺麗な顔だ。不意に口元が、口角が上がるのがわかった。そこで私はハッとし我に帰る。


「っ、に、おう、待って!」


私の頬を覆う少し骨張った手を退けようとしたが、





「だめ、待てない」




言うが早いか、いとも簡単に私の顔は仁王に引っ張られ仁王のそれに私のそれは重なったのだった。



「ふ…んん、…」


キス…されている。

唇が重なった瞬間私は目を瞠った。しかし仁王はうすーく目を細めた後そのまま目を閉じた。うっわ、睫毛なっが。



「ん、にお…ふぁ、んん!?」


って呑気にそんな事考えてる暇があるのか私は。抵抗の意味も含めて仁王の名前を呼び掛けたのだったがそれがいけなかったのか、あろう事か少し開いた隙間から舌を侵入させてきたのだった。馬鹿!何してんの!?……言えたら言ってやりたい。頬にあった手はいつのまにか腰と後頭部に回っていた。抵抗の余地もない、というか全くできない程に力が完全に抜けていた。手は仁王の胸を必死に押しかえしているつもりだった、のに…シャツを掴むので精一杯。苦しくなって酸素を求めようとするも何度も角度を変えてくる仁王に邪魔される。生憎鼻で息するなんてそんな技術私は持ち合わせていないのだ。だめだボーッとしてきた。



「んん、…ふ、んんっ」

「ん…っ、はぁ…」



やっと解放された途端私の肺は酸素を求めようと一生懸命上下に動いた。はぁはぁとするばかり。力が抜けている私を支えてくれる仁王の左手は肩に。右手は人差し指で私の目元を拭った。



「名前ちゃんその顔は、やばい…」


やばいっ、て?


「本当になんか…んー、今度はちゃんと帰るかの」


チラッと私の顔を一瞥してから。んー、と軽く伸びをするとさっさと玄関まで行き、ドアを開ける音がした。なんなの。


「んじゃー、お邪魔したナリー」


いつもの軽い仁王のテンションでそのまま出て行った。


なんなの、なんなの、本当になんなの!ドスンとソファーに倒れこむ私。付けっ放しだったテレビからは何やら聞こえてくるが何も耳に入ってこない。何されてんの私、…いやキスでしょ、と自問自答の脳内。なんで抵抗しなかったの?私、馬鹿馬鹿馬鹿!テレビを見ればお笑い番組に変わっていた。つまらない苦手な芸人が出ていた。でもチャンネルを変える気にすらなれなかった。



140413



もくじ


勝ち気なエリオット