未来へと/煉獄
これは夢なのか
天からの光がステンドグラスに射し込み作り出された光景になまえは息をのんだ。
窓に埋め込まれたガラスから降り注ぐ蒼や紫の影はまるで紫陽花の花弁が降り注いでいるかのよう。とうに過ぎ去った睦月のような景色に心に季節外れの花が咲いたみたいにほわりと暖かくなる。控え室の真っ白な壁に時雨色がちらちらと舞い宝石がちりばめられているように見えた。
非現実な光景に囲まれぼうっと佇んで見惚れていると今や耳にすっかり親しんだ愛しい足音がした。扉にノックされ
「俺だ。入るぞ」
と少々固く緊張した、しかし明快な声がかけられハッとする。
「はっ‥‥ハイ」
思わず声が裏返り恥ずかしさで頬がかあっと熱くなる。クッと笑い声が聞こえますます赤くなる。ドアノブが下げられ愛しい、煉獄さん、否 杏寿郎さんが入ってきた。口元に手の甲を当てクックックッと喉で笑い声を押さえながら扉の敷居を跨いだ杏寿郎さんはこちらに目を向けるとハッと大きく見開いた。対するなまえも杏寿郎さんのスーツ姿から目を反らせなかった。魔法がかかっているかのようにキラキラと眩しい。互いに時が止まったかのように見つめ合う。先に解けたのは杏寿郎さんだった。ごほんと一つ咳払いをして目を横に反らしながら口を開いた。
「あー、(しっかりしろ) 綺麗だ」
「‥‥‥‥杏寿郎さん?」
赤く染めながら部屋の片隅に目を向けながら溢された言葉。静かななまえの声に杏寿郎さんはびくりと肩を跳ね上げた。気まずそうに向けられた赤く燃える炎のように燃える目と合ったかと思えば
「〜っ綺麗だ!!!空から天使が落ちてきてしまったかのような、可憐で綺麗な姿に思わず見惚れてしまった。すまない」
と周りの建物まで聞こえそうな程大きな声が発せられた。つらつらと出てくるメルヘンチックな言葉を止めようと駆け寄る。慌てて踏み出した足がドレスの裾を踏みつんのめる。
「わっうわぁ?」
傾く世界に襲いくる衝撃に思わず目を閉じるが、何も痛くない。そろりと目を開けると近すぎるボタンが目に入った。顔を上げると目を閉じほおーと息をついた杏寿郎さんの顔が見えた。
「あんまり心配させないでくれ‥‥」
「すっすみません!あっ!スーツ、スーツは大丈夫でしょうか」
「俺は大丈夫だ。それよりドレスは」
はたと抱き締められている状況と距離の近さに恥ずかしくなり離れようとした。腕を掴まれ叶わない。
「こらこら、あんまりはしゃがない」
まるで子を叱る親のように言われ面白くない。むーと膨らんだなまえの頬を大きな手のひらで手のひらで包み込む。
「あんまり可愛いことしたらダメだ。我慢できなくなる」
目を細め困り笑顔でしゃがみこみ、耳元で呟く。
「続きは終わったらな」
色気を含んだかすれ声が頭に直接響く。
「〜〜っずるい!」
はははと笑う杏寿郎さんを叩いていると教会の鐘が聴こえた。始まりの合図だ。からかいの表情から一転引き締まった表情で見下ろす。
「さあ、お手をどうぞ?」
目の前に差し出された手のひらに手をのせる。
「この先どれぼど嫌と言ってももう離してやらん。それでもこの手を取ってくれるか?」
「ええ、望むところですよ」
ぐっと力強く握り返す。緊張で冷めた手が合わさりじわりと温かくなった。
「行くぞ」
「はい」
目が眩むほど眩しい祝福の間へと同時に踏み出した。