泣き虫な君と私 1/冨岡

遠い昔に約束をした。いつも泣いてばかりのあの子。なまえがこの地を去ることを知った時、まるで世界の終わりのように、絶望し静かに泣いていた。

好きな子の涙はかなり心にきた。泣いてほしくなかった、なまえのせいで苦しめたくなかった。
だから嘘をついた。

「とみおか、約束しよう」

突然のなまえの言葉に小さな子供はきょとりと顔を上げた。こちらを見上げるその瞳にはあふれんばかりの涙。零れそうだと思っている矢先に目じりから大きな雫となって落ちていった。

「次、とみおかと会ったときには決して離れない。約束する」

なんて馬鹿なことを口走ってしまった。遠い地にもらわれていく私はどうなるか分からない。こんな広い世界で生きている間に再会するなんて叶うはずない。約束できなかったのに。
しかし、冨岡はなまえの言葉に涙を止め、目を輝かせた。

「ほんと?」

こくりと頷き返し、そのまま指切りをした。

「指切りげんまん、嘘ついたらはりせんぼん、のーます、指切った!」

二つの子どもの声が響いた。

まあ、私たちは馬鹿な、無知な子供だったのだ。その時は冨岡を泣き止ませることで必死だったなまえは、他に良い考えが思いつかなかった。そして何年も月日が経ち、あのなまえの恋心を奪っていった、初恋の君はどこにいるのかと思いを馳せ続け、今年でもう良い年頃の娘となった。今では朧げな記憶の中となっていた。
しかし、たった今奥底で眠っていた記憶が掘りおこされた。


「っ見つけた!」

急に手を取られ、驚き固まるなまえに目の前の男は目を開きながらいった。

「〜っ、と、冨岡だ」

いきなりなんだこの男は。いかんせん、顔が良いがこんな男知ったこっちゃない。
不審者か?と睨みつけながらどう逃げようか、と策を講じるなまえに、目の前の男はあたふたと手をせわしなく動かしていた。

なんだか、見覚えのあるような姿に眉をひそめた。ぼさぼさの烏色の髪に、視線の合わない目、それに冨岡という名前。

「冨岡、か」
「そうだと言っている」

一瞬喜びを醸し出したかと思うと、瞬時に冷静を装う冨岡に苦笑した。

「いつも言葉が足りない。で何?私は忙し「約束」

かぶせるように紡がれた言葉に思考が止まる。約束。そういったきり、こちらをじっと見つめる冨岡から視線を逸らす。
約束。何か約束していた。それは思い出せる。だが肝心の内容が思い出せない。
パッとしないなまえの顔色に冨岡は、「やはり忘れてしまったか」と呟いた。悲し気に顔を伏せる冨岡に罪悪感が込みよせる。

「約束を思い出せたら、今度はちゃんと果たしてくれ」


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