思考の海から戻るといつの間にか空が赤らんでいた。
「帰らないと」
夕焼けを見るといつも胸騒ぎがする。まるで夜の闇を避けるように。
町を足早に歩いていると大きなかごを背負った少年が向こうから歩いてきた。
やけに大きなかごに気をとられていると少年と目があう。ぱちりとした大きな目になぜかどきりとした。
少年は不躾に見ていた私を糸とも気にせず笑顔を浮かばせて話しかけてきた。
「お姉さん、炭はいかがですか?」
なるほど炭か。少年の赤みがかかった髪を見下ろしていると、ふと寄舎の部屋が頭をよぎった。冷たく暗い、じめじめとした部屋。そこにぱちぱちとはぜる炭火。
「そうだな。ひとかたまりくれるか?」
「ありがとうございます!!!」
太陽のように笑い、少年は背中のかごを下ろしせっせと炭を包む。
「どうぞ」
思っていたより重たい包みを受け取り硬貨を渡す。
「御代はこれで足りるかな」
少年は手にのせられた硬貨の重みに驚いた。
「こんなに!?頂けません!」
「いいよいいよもらっておけ」
「それでも頂けません!!」
ぐいぐいと手を押し返す少年にどうしようか、と考えあぐねていると少年の頬が炭で汚れていることに気がついた。
「それより少年、顔に煤がついているぞ。顔は綺麗にしておけ」
「へ?あ、すみません」
懐から手ぬぐいを取りだし少年の頬をふく。
「良い香りですね。何かお香を焚いているのですかってあれ?」
炭治郎は唖然とした。たった今まで目の前にいたお姉さんがこつぜんと消えたからだ。
「さっきまでここにいたはずなのに」
残されたのは呆然とする炭治郎とかすかな香のかおりだけだった。