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小林さんがミスをした。それもとても大きな。順調に進んでいたと思われていた緑と歩く展のチラシのデザインを急遽変更して欲しいとクライアントから注文が入ったのだ。こういうことは少なくない。それでもクライアントの意向を汲むのが私たちの仕事である。詳しいことはわからないが、クライアントの注文がうまく通っておらず、また新たなデザイナーさんを探さないといけなくなってしまったようだ。


土方さんは怒っていた。この人は自分にも他人にも厳しい。私も新人のとき叱られたことがある。女だからって優しくしない、そんなところを叱られながらも嬉しく思ったのを思い出す。いやいやマゾとかじゃなくて、真剣に叱ってくれたのが嬉しかったってことね。でも怖かったなあ。


土方さんと黒川さんに怒られてしまった小林さんは目に見えて落ち込んでいた。この部署に来て初めての仕事だったし、うまく行きそうだったから尚更なんだろう。なにか、なにかいい一言はないだろうか。なんだこの小娘って思われたとしても、いまの小林さんには少しでもフォローの言葉というか、励ましというか、そういうものがないとちっちゃくなって消えてしまいそうなくらいだった。


考えあぐねていると田所さんが「やっぱりニモちゃんだな。」と吐き捨てて会議室を出ていった。私はハッとして、同情かもしれないけれどすぐに「小林さんは、ニモちゃんなんかじゃないです!」とだけ伝えると田所さんの後を追った。





「田所さん!」

「ん?」

「さっきの、ひどいと思います……ニモちゃん。」

「はあ、なんで?」



田所さん、イライラしてる。いつもなら私に(いや女の子相手に)こんな冷たい表情は見せない。



「ミスをしたら叱られる。上等です。でもそれは上司がする仕事であって、田所さんがあんなこと言う必要はなかったと思います。」

「じゃあなに、なまえちゃんは俺が優しい言葉でもかけてあげればよかったっていうの?」

「いやそうじゃなくて、何も言わなくて良かったかと。あんなんじゃ田所さん、嫌なやつだって小林さんに思われちゃいますよ!」

「嫌なやつで結構。自分より仕事出来ない人になに思われようとどうでもいいから。」



そう言うと田所さんは足早に去っていった。ちがうの、私は、あなたとケンカがしたかった訳じゃなくて。