04



あれから小林さんは会社を休んでいる。本人の意思なのか上からの指示なのかはわからない。田所さんとも相変わらずだ。挨拶は交わすものの他の会話が一切ない。いつもはうざいほど私に絡んでくる田所さんが、わざとかと思うくらいに渡瀬さんに話しかけている。……別にやきもちとか、寂しいとか、気のせい。そんなことも感じてられないほど仕事は山のようにあるのだ。




「クライアントの所行って来ます!」

そう元気にオフィスを出ると「いってらっしゃーい」とみなさんの声。もちろん田所さん以外。なんだよ、いってらっしゃいくらい言ってくれたっていいじゃん。私は意外と頑固で、田所さんとまた楽しくおしゃべりしたいのに、なんだかこの前のことは譲れなかった。小林さんはなんだか私の兄に似ている。だから肩入れしてしまうのかもしれない。兄の話は、この職場の人誰にも話したことはない。

もやもやした気持ちを晴らしてくれる晴天に、少しだけ心が軽くなった。暗くなってしまいそうな自分を切り替えてクライアントの元へ向かった。





無事に仕事を終え、職場へ戻ろうとすると近くのベンチに小林さんが座っているのが見えた。……スーツ着てる。きっと会社を休んでいること、奥様には言ってないんだろうな。言いづらいよね。何か声をかけたい所だけど、背中が切なすぎて一歩が踏み出せない。


そのまま小林さんを観察していると、近くでお弁当の移動販売の方が釣り銭切れでやむなく営業を終わろうとしていた。それを見たのか小林さんは突然立ち上がるとどこかへ走って行ってしまった。ちなみに走り出してすぐ私の存在に気付き、小さく会釈をしていった。

どうしよ、私も会社戻らなきゃ。仕事がまだたくさん。でも小林さんが戻ってくるまでなんだかその場を動けなくて、私にだって多少の休憩は必要だ!なんて誰かに言い訳をして小林さんが戻ってくるのを待った。