06



次の日出社すると小林さんがいた。ーー戻ってきてくれたんだ。嬉しくなった私は元気に小林さんに挨拶をした。


「おはようございます!」

「みょうじさん、おはようございます。」

「なんか、嬉しいです。」

「妻に正直に話したんです。背中を押してもらえて今日ここに来られました。でも妻に話せたのは、みょうじさんのおかげです。」

「いえいえ、私はそんな、」

「次は、みょうじさんの番です。」




ああ、そんな約束をしてしまったんだっけ。私は半分冗談のつもりだったけど。小林さんと会話してるのを見ていたのか、チラッと田所さんを見ると不機嫌そうな顔と目が合った。なんですかその顔は、ちょっとかわいいです。毎日だと鬱陶しいと思っていた田所さんのウザ絡みも、数日ご無沙汰になるとこうも寂しいものか。押してだめなら引いてみろって言った人、天才かもしれない。




勇気を出して出社してきたであろう小林さんとの約束を放り出す訳にも、このまま田所さんと冷戦を続ける訳にも行かない私は、田所さんを人気の少ない廊下に呼び出した。





「あの、この前はすみませんでした。」



私が素直に謝ると、田所さんは驚いた顔をした。


「まさかなまえちゃんから謝ってくれるとは思わなかった。ーーー僕も後悔した、なまえちゃんの言うことも一理あると思ったけどなんだか悔しくて。でもだめだね、なまえちゃんと話せないのはやっぱり寂しい。」





あれ、もうこの人の発言にはいちいち振り回されないはずだったのに。田所さんの言葉が嬉しくてついついにやけそうになってしまう。たまには私も素直になってみるのも悪くない、なんて思った。



「私も、この仕事大好きなはずだったのに、田所さんと気まずいだけで会社来るのが少しだけ嫌でした。」

「なまえちゃん、あんまりかわいいこと言うとチューしちゃうよ。」

「だめです。」

「えー?じゃあギュー。」

「だめです。」

「えー?じゃあご飯。」

「ご飯ならいいかなぁ……。」

「えー?じゃあ、って………え、なまえちゃん、まじ!?」





え、いつ行く!?今日?あ、今日はだめか、え、休みの日とかアリ!?ねえ!ねえ!ってうるさい田所さんを廊下に置いて、まだ鬼のように残っている仕事の山を片付ける為デスクに向かった。緩む頬を抑えないと黒川さんに叱られちゃうのに、なんだか今日は抑えられそうにない。