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その日は沖田さんと一緒に帰りコーヒーを飲んだ。始業式の日は部活がないらしい。
「お前のクラス何やるんでィ」
「しがない喫茶店です」
「ハハ、芸がないねィ」
沖田さんにコスプレ喫茶というと絶対からかいにくるだろうと思い、普通の喫茶店ということにしておいた。
「沖田さんは何やるんですか」
「お化け屋敷でさ」
「王道ですね」
「うちのクラス変なヤツばっかだから入ったら命なくして出られねぇぜ」
「何ですかそれ。私怖いの駄目なんですよね。」
「ミスコンは夕方からだからちゃんと彼女として見とけよ」
「はいはい」
「ハイは1回だろィ」
「はいはい」
「お前新学期から調子のってまさァ」
それからは何だかあっという間に文化祭の日になってしまった。
楽しみにしていた文化祭だったが、
ミスコンの候補者の写真が校内に貼り出されるやいなや、いやがらせが何倍にも増えたので、もうさっさと終わってほしい気持ちの方が大きかった。
赤ずきんなので赤い衣装を身にまとう。帽子を深くかぶれば顔が隠れるので、沖田さんのファンから隠れるのにちょうどよかった。
「いらっしゃいませー」
「なんでィ。お前‥」
「え、沖田さん」
昼頃黄色い声援と共に現れたお客は沖田さんだった。
しかし、いつもの沖田さんと違う。沖田さんの頭には大きな茶色い耳があり、しっぽも生えていた。
「何コスプレしてるんでさ。聞いてないぜィ」
「そのセリフそのまま返します」
「そらオレぁ狼男の係なんでさ」
女子達の携帯のフラッシュを浴びながら沖田さんはケロリと私の手を掴んだ。
「遊びにいくぜィ、姫」
赤ずきんは姫ではない
まだ私は店番中である
周りの女子達の視線が怖い
一体どれに突っ込もうか悩んでいる内に沖田さんに連れ出された。
今日の沖田さんはいつもと違う。なんというのだろうか。そりゃいつもの制服や道着姿も相当格好良いが、今日は耳やらしっぽやら、何だか可愛くてどこに目をやればいいか戸惑っていしまう。
そういう訳で周りの女子がパシャパシャと写メを撮るのも分かる。
勝手に写真を撮られるといつもは沖田さんは不機嫌になるが、今日は写真を撮る人々がいつもよりずっと多く、諦めているようだった。
文化祭ということで生徒だけでなく外部の人もいるため、声援を送る声も一層多いのだ。
「なんであんな子が彼女なのかな」
そんな声もいつもより多く聞こえる。
野次に慣れてるとはいえ恥ずかしくなり、深く赤ずきんの帽子を被ってうつむいた。
「赤ずきんかィ」
「そうです」
「そら大変だ」
「何がですか」
「着いたぜィ」
相変わらずマイペースな沖田さんに引っ張られて着いたのは3年Z組のお化け屋敷だった。
「総悟じゃねぇか」
受付にミイラ姿の土方さんと貞子の姿の小さい女の人が座っていた。
「何ネ、どエス。彼女アルか?」
「そうでィ」
「どエスの彼女なんて不敏アル」
「うるせぇ」
「しかも赤ずきんって‥大変アルな」
大変、大変と先ほどから沖田さんやこの人といい、赤ずきんの何が大変なんだろう。しかし沖田さんになびかない女の人もいるんだな、と考えている内に中に案内された。
中に入ると真っ暗だった。
「え、と沖田さん」
「ん?」
「私、だめなんですけど。怖いの。前に言いましたよね」
「おう。で?」
「足が動かないんですけど」
「おう。で?」
「ま!待ってくださいよ」
私などお構い無しにスタスタ行ってしまう沖田さんのしっぽを慌てて掴む。
「置いていかないで欲しいならちゃんとお願いしろィ」
「‥‥」
「ほら早く言わねぇと置いてくぜ」
「お、置いていかないでください」
「ん。で?」
「‥‥」
「で?」
「て、手を繋いで下さい」
「仕方ねぇなぁ」
沖田さんはわざとらしくため息を吐きながら私の手を取り、繋いでくれた。
本当にどエスだ。
多分私にこう言わせたいが為にお化け屋敷に連れてきたのだ。
「沖田さんひどい」
「聞こえねぇな。オレぁルート分かるんでさ。オレに着いてくればすぐゴールだぜィ」
「そりゃ、そうでしょうね‥」
「頼りになんだろ。ほら、ここで山崎が出てきまさ」
そう言って出てきた吸血鬼の足を引っかけ転ばせていた。
「それにしても赤ずきんがこんなお化け屋敷に来るなんてねィ。場違いでさ」
「沖田さんが連れてきたんでしょう‥」
しばらく進むと壁に満月が描かれ、段ボールで作った大きな木があるセットにたどり着いた。
その木をスポットライトが薄暗く照らしていて何だか不気味だった。
「オレぁこの木の後ろに隠れて驚かす係なんでさァ」
「何かここ怖いです。良くできてますね」
「そらオレが汗水垂らして作ったんでねィ」
そう言った沖田さんに突然グイっと繋いでた手を引かれ、木の後ろへと引っ張られた。
体勢を崩し沖田さんの胸へと飛び込む。
暗くて状況がよく分からなかったが、どうやら教室の壁と沖田さんの身体との狭い間に挟まれてしまったようだ。
「痛た‥。お、沖田さん‥?」
「赤ずきんなんだから狼に食べられても文句言えねぇなァ」
「え?」
次の瞬間、狼男に耳をカプリと食べられた。
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