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「あ?」
「け、消しゴムが」
「?」
「消しゴムが足元に…」

足元という単語を出すと、彼は自分の足元を見て消しゴムに気づいた。
そしてさっと拾ってこちらにポーンと投げてきた。

「わ!」

まさか投げられると思わず慌てて手を出すも、消しゴムは私の掌を弾いてまた高杉君の方向に飛んでいく。
自慢ではないが私の運動神経及び反射神経は並以下である。

「ククク、何してんだよ」


手渡ししてくれればいいものの何してんだ、はこっちの台詞だ。
そう思いつつ高杉君を見ると初めて彼の笑顔を見ることが出来た。


よく考えると笑顔どころか彼の顔をちゃんと見たのは初めてである。
恐怖心からいつも高杉君自体を視野にいれないようにしていた。


(…かっこいい)

色が白い肌。シュッと伸びている鼻筋。切れ長な目。
反対の目は眼帯で隠れていて、そのアンバランスさが普通の人にない雰囲気をもっていた。


「ほら、消しゴム」


落ちた消しゴムを再び拾ってくれた高杉君は今度は手渡しをしてくれた。
一瞬触れた彼の指先は暖かい気候の割にヒヤリと冷たかった。


「お前どんくさいのな」



ニヤリと笑ったその顔の向こうに時計が見える。最初に見た時より針は5分ほど進んでいた。



たった5分。されど5分。
―運命が変わった5分。


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