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「おめぇなんて名前?」
「…名字です」
「下は?」
「名前です。名字名前」
「ちょっと授業抜けようぜ名前」


やっぱり高杉君は不良だ。
まず女子の名前をいきなり下で呼ぶ感じがチャラい。そして軽々しく授業をサボろうと誘ってきた。

不良な高杉君。
今までそれなりに真面目に生きてきた私には理解が追い付かない。


「え?」

いきなりの彼の提案に固まっていると高杉君は突然立ち上がった。

「先生、名字が具合悪いらしいんで保健室連れていくわ」

ポカーンと高杉君を眺めていると「おら、いくぞ」とセーラー服の襟をつままれ教室から連れ出された。


スタスタと前を歩く彼の上履きの音が響く。
私はこの後どうなるか想像もつかず、とりあえず後ろをついていった。


「そ、外に出るんですか?」
「ん?ダメか?」

下駄箱で革靴に履き替える高杉君を見て驚いてしまう。

「腹へらねぇ?」

一瞬どうしよう、と戸惑ったが、
逆らうとどうなるか分からないという恐怖心と、
決してゼロではない好奇心からそのまま彼についていった。

今日がこんな一日になるなんて誰が想像できただろう。


先ほどお腹がすいたと言った彼についていきハンバーガー店に入った。


「何か食うか?」
「いや、お財布学校の鞄に…」


うっかり教室を出た私は手ぶらだった。そもそもお昼御飯はちょっと前の昼休みに食べた。


「あぁ」と高杉君はそういえばそうか、といった表情をしてハンバーガーセットとビックバーガーセットを頼んだ。


2つも食べるんだなと思ったらひとつは私の分らしい。


「やる」

席についてハンバーガーセットを私の前に置いてくれた。

「え」
「気にすんな。食えよ」
「え、え」
「ほら、食え」
「あ、ありがとうございます」


そこまでお腹はすいてなかったがいい匂いにやられハンバーガーに手がのびる。


「……私授業サボったの初めて」
「クク真面目なこった」


未だに自分が高杉君と二人でハンバーガーを食べているという事が信じられなかった。


「よくついてきたな」
「……うん」
「お前オレが嫌いだろ?」
「いや、……うん。こわい。」


そんなことない、と言おうと思ったが
高杉君には何だか全てを見透かされてそうな気がして正直に答えた。



「こわいけど、今は…ちょっと楽しいです」
「そうかよ」


満足気に高杉君は笑ってポテトをつまむ。高杉君って意外に結構笑うんだな。


「いつも学校来てない時なにしてるの?」
「別に、寝てる。それか走りに行ったり」
「ランニングが趣味なの?」
「ちげぇ。バイク」
「そっか、バイクかぁ」

バイクが趣味らしい。いかにもザ不良。

「お前バイク乗ったことある?」
「…ないです」
「風の音が気持ちいいんだぜ。こうザーッとよ」


高杉君はよく笑うだけじゃなくて、結構人懐っこい。普段あんなに怖いオーラを出してるのに二人きりの今は少し犬のようだとさえ思うほどだった。


その後ゲームセンターに行ってシューティングゲームを満喫し、すっかり夕方になった放課後、荷物を取りに教室に戻った。


教室は誰もおらず、夕陽が机を照らしている。
校庭で部活をする生徒の声が何人分も響いて聞こえた。
高杉君は元々手ぶららしく、私の荷物の為に律儀についてきてくれたらしい。


「今日は楽しかった。ありがとう。」


お礼を言うとそっぽを向きつつ「別に」とそっけなく答えた。


「ねぇ高杉君」


なんとなく気になっていたことを口にした。もしかしたら彼のなかでタブーなのかもしれない。聞いたら怒られるかもしれない。


それでも自然につい聞いてしまったのだ。




「……どうして、眼帯してるの?」




聞いた瞬間、高杉君は何秒間か黙っていた。

「…見るか?」

怒るわけでもなく、気まずい感じでもなく、返ってきた言葉は意外なものだった。

「…うん」

自分の机の上に座った高杉君はゆっくりと眼帯をはずした。

目のところに大きい傷があり、この目はもう見えないんだな、というのがすぐに分かる。

「キレイだね」

そう呟いて傷をそっと触った。
高杉君は驚いた顔をして私の顔をじっと見た。


「キレイってなんだよ。変なやつ」


高杉君の笑顔が夕陽を浴びてオレンジ色に染まる。

それについ見とれていると傷へと伸ばした手をそのまま掴まれ、気付いた時には私も同じオレンジ色の中に入っていた。



「ん、」
「……名前、また遊ぼうぜ」



私が初めてキスをした相手は学校1の不良だった。


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