6



この日高杉君は最初から最後まで授業に出た。
これには帰りのホームルームで銀八も
「どうしたの高杉。一日中いたの初めてじゃん。暇なの?」と驚いていた。



「帰るぞ」


ホームルームが終わるなり高杉君は私にボソッと一言つぶやいてスタスタ歩いていった。


(これは…一緒に帰ろうって意味だろうか)


お構い無しに歩いていった高杉君の後をよく分からないまま追った。



「わ!」

驚いた。高杉君についていくと彼のバイクが学校の駐車場に止まっていた。


「おらよ」


高杉君に突然ヘルメットを投げられる。
昨日の消しゴム同様、いきなりのことに反応しきれずヘルメットは私の掌にはおさまらず音を立てて地面へと落ちた。


「わ、ごめん」
「クク、おめぇ本当にどんくせぇな」


高杉君は楽しそうに声を出して笑った。


「乗れよ」


高杉君は不良だ。
私の知らない世界の人間だ。
そんな知らない世界を私は昨日から少しずつ体験している。



「こわ!怖い!待って!待って!」

バイクが走り出すと共にその音に驚き、その速さに恐怖を覚え悲鳴をあげた。
最初は触れるのに緊張し、控えめに高杉君に掴まっていたが、
走り出した今はもう恐怖心が勝り、おのずと腕を回して彼にピッタリとくっついていた。


高杉君は私の悲鳴が楽しいらしく、顔は見えなかったが笑っているようで、掴んでいた身体がずっと小刻みに震えていた。


「ねぇ!ちょっと笑ってるでしょ!」
「だっておめぇ…」
「もう!もっとゆっくり走ってよ!」
「嫌だ」


高杉君はスピードを落とすどころか上げていく。


「待って待って!」
「待たねぇ。風が気持ちよくねぇか?」


高杉君の言うとおり風が頬を通りすぎ制服をパタパタと翻すのは気持ちよかった。


「何回か乗れば慣れるからよ」


高杉君は私を少なからず何回かバイクに乗せてくれるということだろうか。その言葉に急に恥ずかしくなる。
何だか意識してしまい、知らぬ間に回していた腕から高杉君の体温を感じた。


(細い……でも、あったかい)




高杉君の鼓動と私の鼓動がドクンドクンと連鎖するのが分かった。


/


戻る

TOP