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坂田銀八。
胡散臭い私の担任。
仮に好きだとしても先生と生徒じゃ駄目だよなぁ。

まだ夜明け前の早朝、
そんなことを考えながら私は新聞をポスンポスンと郵便受けに入れていた。
このマンションで終わりだ。

「あれ名字じゃん」

マンションの集合郵便受けに部屋番号を確認しながら入れていたら聞いたことがある声がした。
その声を聞いて心臓が跳び跳ねる。

「うそ」
「何お前新聞配達してんの〜」

今さっきまで考えていた銀八だった。
ほらまた心臓がバクンバクンいう。

「銀八ってここのマンションなの」
「そうそう。変な時間に寝たら早起きしちゃってさぁ、タバコ買いに行ってたんだよね〜」

銀八は手にコンビニの袋を下げていた。髪が寝癖でいつものグルグル頭がもっとグルグルしていた。

「頭グルグル」
「うるせぇ」
「ねぇ部屋上げてよ。朝ごはん食べよう」

自慢ではないが私は今まで言い寄られたことしかないから、もし銀八を好きだとしてもどうやって自分からアピールすればいいかなんて分からない。
でもこの憎き母ちゃんからもらった顔が武器なのは知っている。

「えーまじ?作ってくれる?」
「いいよ」
「うるせぇから他の先生には内緒な」
「はいはい」

下心がないとは言えない。


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銀八の部屋はほとんど物がなく、意外に綺麗だった。
冷蔵庫にもあまり物は入ってなく玉子焼きとサラダとお味噌汁と簡単なものしか作れなかった。
それでも朝ごはんを前に銀八は嬉しそうに席につく。

「名字って料理出来るのな」
「これ料理って言えるかな」
「うまいよ」

銀八はズズ、とお味噌汁をすする。

「お前その顔で料理も出来て、モテんだろ」
「否定はしないけど」
「うわーいい人生だねぇ。羨ましい」
「‥‥全然」
「え?」
「全然、いい人生なんかじゃないよ‥」

いい人生、
そんな事思えない。
こんな顔もいらないからもっと普通な皆と同じ暮らしがしたかった。

「じゃ、これから良くしてけばいいじゃんよ」
「‥銀八ってポジティブだね」
「え、そう?」

銀八はゆるい。ゆるすぎる。
私が毎日母親みたいにならないようキビキビ生きているのが馬鹿みたいだ。

「あーぁ」
「ん?」

空のお皿を洗い場に運んだあと銀八のグルグルの髪の毛を掴んだ。

「おい、髪ひっぱんな!っ痛ぇ‥‥ん」

そのままこちらを向かせて唇を奪う。

「先生が私の人生もっと良くしてよ」

ニッコリ笑ってそう言ったら銀八は驚いて目を見開きそのまましばらく動かなかった。


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