3

「なぁ、」

血が飲みたいとき総悟はいつもこの一言から始まる。
今は三限目の授業中だ。隣の席でぐったりしている。
私は手を上げて「沖田君が体調悪いので保健室に行ってきます」と先生に告げた。

総悟は冷や汗をかきながら、はぁ、はぁ、と浅い息を吐いていた。
力が入らない総悟の身体を支える。初めて血を吸われてから三年が経つ。総悟の扱いもある程度慣れてきていた。

学校で血を与える時は空き倉庫を使っていた。誰にも見られていないのを確認して倉庫へと入る。

入った瞬間総悟に抱き締められた。

「名前、名前」

苦しそうに目を瞑り私の名前を呼ぶ。
いつもはツンツンしている総悟だが、この時ばかりは甘えてくるので少し可愛いと思っているのは本人には内緒である。

「喰っていい?」

おでこを合わせられ聞かれた。返事を待たずに首へと顔を沈められる。

何回やってもこの瞬間は慣れない。
血を吸われるなんて痛そうだが、逆に気持ちいいなんて、餌に逃げられないようにという吸血鬼と人間の生態系がよく出来ている。

「っん」
「あっ、やぁ」

血を吸えるのは最初に吸った1人のみ。つまり総悟は私がいないと生きていけない身体になった。

私もだ。
もうこの血を吸われる快楽を知ってしまうと逃げられない。本当によく出来ているのだ。

「んっ、くすぐったいよ」
「傷治してんでさ、動くなよ」

血を吸い終わった総悟はペロペロと首を舐めていた。こうやって舐めると噛んだ傷は治る。

虚ろだった瞳は、もう回復したのかギラギラと光っていた。

「ごちそうさまでさ」
「はいはい」
「不便な身体になっちまったもんでさ」
「ほんとだね」
「でもその分気持ちいいからいいでさ。名前もそうだろィ?」
「えっ」
「気持ちいいはずでさ。そう出来てんだからねィ」
「分かってるなら聞かないでよ!」

総悟は悪戯そうに笑った。八重歯が見える。
私はこのドエス吸血鬼の餌なのだ。


/


戻る

TOP