5
夜中0時を過ぎた頃、総悟は私の部屋の窓を叩いた。
血が飲みたいらしく窓を開けた途端、私の首に腕を巻き付けてきた。
「あれ、この前あげたばっかなのにね」
「今日体育の時にオレんこと話してたろィ」
「聞こえたの?」
「あれくらいの距離なら、聞こえまさ」
総悟はそう言ってから口を大きく開けた。がぶりと首に歯が刺さる。
「うめぇ。きもち、い」
「んっ」
「名前」
「あっ、だっ、め‥」
じゅるる、という音が耳元で聞こえる。
朦朧とする意識の中、赤く光る瞳がぼんやり見える。
(こわい)
ふ、と恐怖心が襲って目を瞑った。
(総悟はもう私と同じような人間ではないんだ‥)
この先、私はどうなっていくんだろうか。
何度も血を吸われながら今まで考えないようにしていた事が、何故か今日になって急に頭をよぎる。
(あ、れ‥私‥)
身体が震えていた。
「名前?」
血を飲んだ総悟が傷を治そうと手を伸ばしたきた。
「っ」
バッと手を振り払ってしまった。
「あ、‥」
「どうしたんでさ?」
どうしよう、と思った。しかし顔が上げられない。吸われた傷から血がダラダラしみでてきた。ズキンズキンと痛む。心臓が大きく揺れた。
いつもの総悟だ。怖がることはない。
これまでだって何回も血をあげた。
(大丈夫、大丈夫‥)
そう思っても身体の震えは治まらなかった。
「その、」
「オレが怖いかィ?」
「あ‥いや」
「手ぇ出してくだせェ」
おずおずと震える手を出すと総悟はその手と自分の手を重ねた。総悟の手は血が通ってないように冷たかった。
「オレも怖いでさ」
「‥」
「見てくだせぇ。爪がもう伸びてら。いつか、この手で、この牙で、お前を‥壊してしまうんじゃないかって」
「総悟‥」
「今だってお前の首から流れてる血が‥オレを誘惑する」
「‥」
ゆっくり総悟は握っていた私の指を甘噛みした。
「っ」
「血は出しやせん。己の本能に負けたくねぇんでさ。怖がらないでくだせぇ」
指先から手の甲、そこから頬へ、総悟は私の身体に何度も唇をつけた。
「あぅっ、」
「何でィ、まだ怖いんですかィ?」
ぎゅっと目を瞑ると総悟に顔を覗かれた。
違う。もう怖くなんてなかった。
恥ずかしいのだ。こんなの捕食じゃない、ただのキスだ。
部屋が暗くて助かった。私の顔は絶対真っ赤だ。
「‥ごめんな、名前」
首元で総悟の声が暗闇にポツンと響いた。
いつの間にか首元の傷も舐めて治されていた。
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