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夜中0時を過ぎた頃、総悟は私の部屋の窓を叩いた。
血が飲みたいらしく窓を開けた途端、私の首に腕を巻き付けてきた。

「あれ、この前あげたばっかなのにね」
「今日体育の時にオレんこと話してたろィ」
「聞こえたの?」
「あれくらいの距離なら、聞こえまさ」

総悟はそう言ってから口を大きく開けた。がぶりと首に歯が刺さる。

「うめぇ。きもち、い」
「んっ」
「名前」

「あっ、だっ、め‥」



じゅるる、という音が耳元で聞こえる。

朦朧とする意識の中、赤く光る瞳がぼんやり見える。

(こわい)

ふ、と恐怖心が襲って目を瞑った。

(総悟はもう私と同じような人間ではないんだ‥)



この先、私はどうなっていくんだろうか。

何度も血を吸われながら今まで考えないようにしていた事が、何故か今日になって急に頭をよぎる。



(あ、れ‥私‥)

身体が震えていた。

「名前?」

血を飲んだ総悟が傷を治そうと手を伸ばしたきた。

「っ」

バッと手を振り払ってしまった。

「あ、‥」
「どうしたんでさ?」



どうしよう、と思った。しかし顔が上げられない。吸われた傷から血がダラダラしみでてきた。ズキンズキンと痛む。心臓が大きく揺れた。



いつもの総悟だ。怖がることはない。

これまでだって何回も血をあげた。

(大丈夫、大丈夫‥)



そう思っても身体の震えは治まらなかった。



「その、」
「オレが怖いかィ?」
「あ‥いや」
「手ぇ出してくだせェ」



おずおずと震える手を出すと総悟はその手と自分の手を重ねた。総悟の手は血が通ってないように冷たかった。



「オレも怖いでさ」
「‥」
「見てくだせぇ。爪がもう伸びてら。いつか、この手で、この牙で、お前を‥壊してしまうんじゃないかって」
「総悟‥」
「今だってお前の首から流れてる血が‥オレを誘惑する」
「‥」



ゆっくり総悟は握っていた私の指を甘噛みした。



「っ」
「血は出しやせん。己の本能に負けたくねぇんでさ。怖がらないでくだせぇ」



指先から手の甲、そこから頬へ、総悟は私の身体に何度も唇をつけた。


「あぅっ、」
「何でィ、まだ怖いんですかィ?」


ぎゅっと目を瞑ると総悟に顔を覗かれた。

違う。もう怖くなんてなかった。
恥ずかしいのだ。こんなの捕食じゃない、ただのキスだ。

部屋が暗くて助かった。私の顔は絶対真っ赤だ。



「‥ごめんな、名前」



首元で総悟の声が暗闇にポツンと響いた。

いつの間にか首元の傷も舐めて治されていた。


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