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ー10話

「話ってなぁに?」
「‥銀ちゃん」
「名前 、今日学校サボったな」



銀八はニヤリと笑った。
風が銀八の銀色の髪をなびかせている。

今日は土曜日で授業は午前中だけだった。
その授業をサボって一眠りした後、銀八に話があると告げて屋上に呼び出したのだ。

屋上からは太陽の下、校庭で部活に精をだす野球部員達がよく見えた。


「あのね、」
「決めたの?」
「うん」
「‥オレ別れ話は聞かないって前言ったよ?」


銀八は意地悪そうに笑って私のほっぺをつまんだ。


「‥うん」
「何だよ、悟った顔しやがって」


そうだ。
銀八が、私が一生懸命考えた答えを否定するはずがない。
そんな人じゃないって、私はもう十分すぎるくらい分かっている。


「‥‥ごめんなさい」
「‥はぁ、いいよ。分かってた」


泣いたらいけないと思って涙をこらえる。


「別に泣いてもいいよ」
「だめ‥甘やかさない‥で」


強がったけど結局涙は流れた。
銀八との思い出はあたたかく、心のなかで今も全部輝いているのだ。
大切にされていたのが手に取るように分かる。


私が涙を流すと銀八は困ったような笑顔をこちらに向けた。


「私ね、銀ちゃんが好きだった。本当だよ」
「うん」
「でも高杉は、好きとか嫌いとか、そういうんじゃなくて」
「うん。分かってるよ」


銀八は全部を知った上で、それをぐるぐる包んで相変わらず笑ってくれた。
本当に、この人はどこまで優しいんだろう。


「銀ちゃん、ありがとう」
「ありがとう、はこっちの台詞」
「え?」
「なんつーかさ、お前ら本当に青くてさ。青くて、青くてよぉ、そんな青春の仲間に入れてもらえた」

銀八はタバコに火をつけた。

「ほんとは名前の事とっとと奪っちゃうつもりだったんだよね。でも出来なかった」
「銀ちゃん‥」
「だってお前全然汚れてないんだもん。応援してあげたくなっちゃった」
「そんな私、汚れてないことないよ」
「ううん。全部名前のおかげだよ。名前がオレの心、綺麗にしてくれた」


銀八はふーっとタバコの煙をはいた。
その煙が上っていくのをゆっくり見つめる。
煙はもくもくと空に昇り、ふわふわと消えていく。


銀八は私の涙を指でなぞってそれをペロっと舐めた。



「甘ぇ」


何言ってるんだ。涙が甘いわけない。
私は泣きながら笑った。


「そりゃ銀ちゃんとの思い出で出来た涙だもん。甘いに決まってるよ」


大好きだった
甘くてにへらとわらったその笑顔が、
全部を包んでくれる広い腕が
あったかい身体も、
くるくるの髪の毛も、
たまに見せる狡い顔も。



「銀ちゃんと付き合えて、本当に幸せでした」


ありがとう、さようなら。






これから私は涙を拭いて、
高杉に会いに行かないといけない。




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