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ー最終話



私は高杉のほぼほぼ全てを知っていると思っていた。
でも違う。

よく考えるといつも一緒にいたけど、高杉には私の知らない部分が沢山ある。

そもそも彼は孤独だ。家族がいない。
普段そういう部分は見せないが常に孤独と戦っている。
それは何となく触れてはいけないような、逆に全てを知りたいような、そんな彼の繊細な部分だ。



退院の日。
この日はちょうど日曜日だったので、お昼に病院まで高杉を迎えにいった。

普通は家族が迎えに来たりするのだろう。こういう時、高杉に家族がいない事を実感させられた。

入院時「ご家族の方は?」と聞かれて「‥いない」そうポツリと呟いた高杉の顔をぼんやり思い出しながら病室の扉を開けた。


「遅ぇよ、ブス」

私が先ほどまで思い出していた辛そうな顔つきとは全く違い、高杉は今私の目の前でニヤニヤとした表情を浮かべている。

「あ?嘘だよ、可愛いって。オレの彼女は今日も超可愛い」
「‥何かうざいんですけど」
「いや、だって退院ぜ?ちょっとくらいテンション上がってもいいだろ」

高杉は二ィと笑った。

看護婦さんが部屋に来て退院手続きの書類を持ってきた。

高杉はその書類に色々書き込んでいく。


「そういや、さっき銀八来た」
「え?」
「担任だから渋々来たってよ」
「そっか」
「なぁ、見てみろコレ」

高杉は書類を指差す。
そこには本人以外の緊急連絡先と書かれていた。

「オレは家族がいないから、いつもこういう欄に書く番号がなくて」
「うん」
「でも銀八がさっき来た時、何か困ったらオレの番号書けって言っててよ」
「‥うん」
「アイツはムカつくけど、大人だ」
「そうだね」
「お前のこと宜しくって言われた」
「‥うん。そっか」


高杉に少し引っ張られて唇を合わせる。
多分高杉は書ける電話番号を手に入れて嬉しかったのだ。




私はずっと高杉と一緒だが、私の知らない高杉は沢山いる。
こうやってほんの日常の一部分に寂しさを感じていたなんて知らなかったし、私にキスをする高杉の瞳を閉じた顔に一瞬何とも言えない艶がさすのだって知らなかった。



「なぁ今日はオレの家泊まっていけよ」


あつい。
頭も顔も手足もすごく。

軽く涼しげに言った高杉のその一言は私にとっては、とても重厚で熱いものだった。



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