2
タクシーに乗って家へと帰る。
白い見慣れたマンション。
私たちの並んだ部屋。
なにも変わらない。
変わったのは私たちの関係性だ。
「高杉いない間に掃除しといたけど」
「おーさんきゅ」
高杉はすぐに服を脱ぎ部屋着に着替えた。
「眠ィ。ちょっと寝ていい?」
「どうぞ。私も一回部屋帰る」
「お泊まりセットちゃんと持ってこいよ」
高杉の前では隠しているが私はもう内心ハラハラしていた。
自分の部屋に帰ってくるなり慌てて下着の引き出しを開ける。
一体どれをつけたらいいのだろう。
その時が来たらどんな顔をして、どんな行動したら良いのだろう。
正解のない答えにしばらく悩み、女性誌の情報を漁り、結局それを読んでる内に自分もすやすやと眠ってしまっていた。
「‥ん」
「何寝てんだよ」
「‥あ」
頬にぺち、手が添えられて目を覚ました。
高杉が私の前にいた。
寝癖がふわふわと少し揺れている。
「寝てた」
「見りゃ分かる。何でこんな部屋荒れてんだよ」
私の部屋は下着やら本やらでごった返していた。
「‥何してたんだっけ」
「知らねぇよ」
「ちょっと何持ってるの!」
ぷらーんと私の下着を掴む高杉の頭をはたいた。
「痛ぇな。早く来いよ。もう夜だぜ?」
結局、特になんの準備も出来ずに即席ラーメンを食べて、お風呂に入り、いつもと何ら変わらない下着を着けてテレビを見る、緊張感のかけらもない流れに至った。
ソファーに座って普段通りテレビを見ている高杉に何とも言えない気持ちになる。
よく考えれば泊まれとは言われたが、そういう事を致すとは言われてない訳で、ただ一緒にいようという意味だったのかもそれない。
己の早とちりに恥ずかしさを覚えたところで突然テレビがプツンと消えた。
テレビに気をとられたのと同時に高杉がリモコンを持って立ち上がる。
「あのよ」
「え?」
「いい加減限界だわ」
キョトンとする私の腕を高杉が引っ張り上げてそのままベッドへと連行された。
「た、かすぎ?」
「あ?」
「待っ‥」
「もう十分待った、病室でどんだけ悶々してたか分かるか?」
「っ〜」
高杉の唇が首に触れる。
「っやぁ」
「ちょっ‥やべぇ」
「っし、晋ちゃん」
「やべぇって、お前。ほんと‥」
やべぇやべぇと言いながら高杉はどんどん私の服を剥いでいく。
やばいと言いたいのはこっちだ。
想像を越えるスピードで服を脱がされて慌てて高杉のブランケットで必死に身体を隠す。
「や、やだっ」
あっという間にパンツにまで手をかけられ咄嗟にその手を掴んだ。
「嫌か?」
「こ、心の準備が‥」
「何だよ、それ」
「電気‥消してよ‥」
「生娘みてーな事言うな」
「き、生娘‥だもん」
「‥‥は?」
「っ‥だ、だから‥」
「え、お前、うそだろ?マジで?銀八は?」
どう答えていいものか分からず口をぱくぱくさせていると、やっと察したのか高杉の目が真ん丸に見開く。
そしてブランケットごと私を抱き締めた。
「わ、悪ィ」
「っ‥」
「その、やさしく、するからよ‥」
高杉はおろおろと目線を飛ばしたが、そう言って意を決したように私の頬にそっとキスをした。
「っあ」
キスが頬から唇へとうつり、髪を撫でられ、ゆっくりと手を握られる。
先ほどまでのスピード感はなく、私の呼吸に合わせて少しずつキスは深くなっていった。
終わらない口付けに息が苦しくなり、酸素を取り込もうと胸が大きく膨らむ。
部屋には自分と高杉の荒い呼吸音とリップ音だけが響き、それはまるで日常ではないどこか違う世界に来てしまったようだった。
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