6

銀魂高校の卒業式がきた。
長々とした式が終わり 、教室に戻って最後のホームルームを待つ。


「名前〜いよいよ卒業で寂しいアルな。でも私たちズッ友ダヨ!」
「たまには遊んで下せぇよ、高杉抜きで」

席につくと神楽ちゃんと総悟が話しかけてきた。

「うん」
「ダメだ」

高杉も席について総悟へと悪態をつける。

「高杉ばっかり名前を独占して狡いでさ。大学受かったからって調子のるな不良が」
「不良の時代は終わったアル。大人しく名前を渡すネ」
「うるせぇな。誰にも渡すかよ」


周りよりずっとスタートが遅かったくせに高杉は第一志望に合格した。
涼しい顔をしているが、陰でどれだけ努力をしていたか私は知っている。


「お勉強頑張ってたもんね、晋ちゃん」
「そうか、よくやったアルネ、晋ちゃん」
「偉かったんだねィ、晋ちゃん」
「お前らが晋ちゃん呼ぶんじゃねぇ」

高杉をからかい笑っていると銀八が入ってきた。


「はーい、席につけよ」


いつもと変わらず気だるげに銀八は話す。


「最後だからって特に特別なことはねぇな。まぁ、各々元気でやれよ」

最後だからか珍しくしん、と静まる教室に銀八の声が低く響いた。


「‥お前らは、本当に青くて眩しかったよ。卒業、おめでとう」



同じ教室に、銀ちゃんや、友達や、高杉がいる。
今まで当たり前だったけどこんな空間は二度と訪れないと思うと、とても寂しく感じた。

教室の窓から空を見る。
綺麗な青空が広がっている。

きっとこの先、青空を見れば今の気持ちを思い出せる。
終わってみれば一瞬で、とても愛しい日々だった。

どんどん青く青く、青く染まった私の高校生活。
傷ついて、傷つけて、やっと大切なものが見えた18歳。


「ばいばい」

沢山別れを惜しみ、写真を撮り、皆と別れる。

帰路につく私の隣には幼なじみ兼隣人である愛しき彼氏。


「おい、銀八との写真消せよ。頬っぺたにちゅーされてたろ。まじでむかつく」
「消さないよ」


式でもらった花束と卒業証書を持ちながら二人で思い出話をしながら笑って歩いた。




ーーー


家につくと高杉はそわそわとキスをしてきた。


「ん」
「名前、」
「なぁに」
「やる」


高杉はポケットから箱を出した。
このサイズ感は開けなくても何が入っているか想像がついた。


「‥え、?何で?」


高杉は照れるとそっぽを向く、絶対だ。
今も頬を赤らめ目線を外している。

箱を開けると想像を遥かに越えた綺麗な指輪が入っていた。


「青い、‥綺麗」


シンプルな形の輪っかに青い石がキラっと眩しい。青い石の両端はダイヤモンドがついていた。

「卒業祝いだ」
「卒業祝い?ごめん、私何も用意してないや」
「あ、いや。卒業祝いっていうか‥」


高杉は私をゆっくり抱き締めた。


「‥結婚しよう」

その声は小声で震えていたが、私の耳にしっかりと聞こえた。

「‥」
「‥」

沈黙が漂う。
高杉に抱き締められたままぽかんと青い指輪を見つめた。

よく考えれば彼からプロポーズの言葉を言われるのは初めてではない。
付き合う前はよく口癖のように言われていた。
久しぶりに言われたが明らかに今までとは本気が違う。


これは俗に言う婚約指輪というものなのか。
いつかはそうなるかもしれないという可能性は考えていたが、まさかこのタイミングで貰うとはこれっぽっちも思っていなかった。


「‥返事は?」
「え、あ‥」

高杉の顔を見た。
彼は耳まで真っ赤だった。


出会った頃の小さい高杉。
初めましてとお母さんの後ろに隠れていた。
片目を失い、両親を失い、派手な女子を侍らせ、どんどん不良になった過去。
何も出来なかった自分。
銀ちゃんと付き合った私を深夜まで待っていた寂しそうな顔。
喧嘩した時の瞳。
二度目の事故にあった日。
恋人になれた瞬間。
心の痛みを分けてくれた夜。
必死に勉強して、大学に合格した時の笑顔。
私を好きだと言う声。

今までの高杉との日々がぶわっと頭を駆け巡り、目の前の高杉へと着地した。


「‥今すぐって訳じゃなくていいけどよ‥オレと、ずっと一緒にいろよ」

あつい涙がぐっと目頭へと上がってきた。
青い指輪が視界に滲む。

深く青々としたこの指輪は私の青春が全部綺麗に形になったみたいだ。


「よろしくお願いします」


涙を堪えて返事をすると、高杉は今まで見た中でとびっきりに嬉しそうに笑った。





/


戻る

長夢
TOP