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―4話

その日珍しく高杉は学校に来た。
昼休みのチャイムと共に教室へと入ってくる。


「名前これ忘れてったぞ」

高杉はヒラヒラと赤いスカーフを手に持っていた。
その姿に今朝を思い出し顔が少し赤くなってしまう。
高杉も顔が赤かったが、それは私が肘鉄を喰らわしたところだった。


「なんでィ。名前のスカーフ高杉が持ってるなんて怪しいですねィ」
「結局二人はそういう関係アル。不潔ネ」
「ち、違う!違うから!」
「クク名前激しいからよ、オレ死ぬかと思った。見ろよこのケガ」
「すげぇプレイしてたんですねィ。名前はドエムかと思ってやした。ドエスのお仲間さんだったとは驚きでさ」
「ちょっと!勘違いされるようなこと言わないで!」


慌てて高杉からバッとスカーフを奪った。

「なんだよ、間違ってねぇだろ」
「高杉くーん」

高杉が私に言葉を返したところで教室の入り口から甲高い声がした。何人かのギャルがキャッキャッと騒ぎながら高杉を呼ぶ。

その光景に少し身体がこわばった。
気づいた頃には高杉はモテていて、いつの時も集まる女の子達は目ざとそうに地味な私をジッと見てくる。その目は派手な化粧でキラキラパチパチしていて、私はその視線につい下を向いてしまうのだった。

因みに一度私も少しお化粧をしたことがあるが、「似合わねぇ、やめろ」と高杉に一蹴されてやめた経験もある。


「わ、私ご飯買ってくる」

高杉達の方を視線に入れないようバタバタと走って逃げ出した。


高杉の事を考えると胸の中がずっしりと重くなる。
でも多分私はそれに気付かないようにしている。




ーーーーー



「あれ、つけちゃったのスカーフ」
「銀ちゃん‥」


屋上に行くと銀八がタバコを吸っていた。


「放課後デートだから誘ってんのかと思ったのに」
「何言って‥ちがうよ!」
「冗談だよ」


笑って銀八はタバコを消す。


「今日ちょっと遠く行って映画でも見ようぜぇ」
「銀ちゃん何か楽しそうだね」
「え!?そりゃそうでしょ!もしかしてオレ浮かれすぎ?え、引いてる?」
「んーん、私も楽しみ。嬉しいよ」
「そ、そうだよね!ビビらせんなよ、よしよし」


銀八といると心が軽くなる。
さっきまで胸にあった重たいどろどろした気持ちが嘘のように消えていくのが自分でも不思議だった。


「銀ちゃん、」
「んー?」
「ありがとね」
「なにが?」
「いや、えっと、‥何だろう」
「なんだそれ」


良かった、包み込んでくれる人がいて。
こんな人が私の彼氏なんて最高だなぁとしみじみと思う。


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