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朝ごはんを食べて自室に戻ると、部屋を出た時にはなかったものがあった。

隊服が脱ぎ捨ててある。
私のより明らかにサイズが大きかった。
それをつまむとふんわりお日様の匂いがした。久しぶりに香るその匂いはすん、と鼻から胸へと通っていき、無意識に心地よいと思ってしまう。


「あー、帰ってきちゃったか」

心の準備をしなければ、と思った矢先、部屋に開いてる穴から返事がきた。

「失礼だねィ、聞こえてやすぜ」

穴の向こうは沖田さんの部屋だ。
どうやら帰って来たらしい。

「私の部屋に隊服脱ぎ散らかさないで下さい」
「洗濯出しとけって意味でさ。それくらい汲み取れ、パシリが」


沖田さんは声はするもののこちらには姿を現さない。
穴をくぐってひょい、と沖田さんの部屋を覗いた。


「‥‥勝手に覗くんじゃねぇや」
「沖田さんに言われたくないです」


沖田さんはちょこんと穴の横の壁際に体育座りをしていた。
長旅のせいか少し顔が疲れている。

気だるい雰囲気を纏いながら、睫毛を伏せがちにこちらを向いた。

「お前のマヌケ面、久しぶりに見た」
「私も沖田さんの顔久しぶりに見ました」
「化粧してねぇと不細工だな」
「化粧してれば美人ってことでしょうか」

だからキスをしたのか、と言わんばかりの顔を私がすると沖田さんははぁ、とため息をついた。

「‥この間の詫び」
「お詫び?」
「お前の部屋の机の上」
「机?」


沖田さんは言うだけ言って「風呂入ってくる」と部屋を出ていった。

私は慌てて部屋に戻り確認すると言われた通り、机の上に小さな木箱が置いてあった。

おそるおそるそれを手に取り、蓋を開ける。


「鍔‥」


刀の鍔が入っていた。
丸い鍔には花を満開に咲かせている樹木が彫られている。

「綺麗‥」

こんなに芸術的な鍔を初めて見た。
満開の花はひとつひとつ細部まで作り込まれており、風が吹いてその花びらが散る光景すら目に浮かぶようだった。

見れば見るほど燦爛たる品に見える。


「マヌケ面が一層マヌケ面になってらぁ」

うっとりと鍔を眺めていたら声がした。

沖田さんが風呂から帰ってきたらしい。
隊服から着物へ着替え、髪の毛をまだ濡らしたままタオルを首にかけている。


「お、沖田さん。あの、ありがとうございます」
「‥別に」


お礼を言うと沖田さんはぷい、とそっぽを向いた。


「これ何の花ですか?桜じゃないですよね?」
「さぁな。遠征先の市場でたまたま見つけただけでさ」


沖田さんはわしわしと適当に髪の毛を拭きながら欠伸をした。


「お茶くだせぇ」
「はい」


久しぶりに沖田さんにお茶を入れる。


「大切にします」
「‥そうしろィ」


返事をしながら沖田さんはズズ、とお茶を飲んだ。
遠征でやり合ったのか頬にうっすら切り傷が見えた。


たまたま見つけたなんて絶対ウソだ。
安物ではないと、あまり詳しくない私にでさえ分かる。

私には身に余る勿体ない鍔だ。
あの鍔に相応しい持ち主になれるよう、美しく剣を振るいたいと思った。


つづく


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