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「うわ、男装君頬っぺたどうしたの?」
「瞼もじゃねぇか、ひでぇな」
「せっかくの可愛い顔が‥」


朝御飯の時食堂で山崎さん達に驚かれた。

私の頬や瞼には真っ青な痣が出来ていた。
着物で隠れているが勿論身体も同じように痣がある。

「男装君強いのに、そんなにやられるなんて‥どこの攘夷志士とドンぱちしたの?」
「はは、ちょっとやられちゃって」

これを喰らわせてきたのは攘夷志士なんぞではなく、沖田さんな訳だがそれは伏せておくことにした。


「歌舞伎町に怪我によく効く薬屋があるから行ってごらんよ」
「ほんとですか?行ってみます」
「そういえば沖田さんは?隊長の事だから男装君がこんなになって怒ってるでしょ」
「なんか最近朝部屋にいなくて‥」

これまで毎朝沖田さんを起こしに穴から部屋まで迎えに行っていたが、ここのところ部屋にいないのだ。


「おう、名字隣いいか?」
「土方さん‥」
「あれ副長、いつももっと早いのに珍しいですね」
「沖田さんいないからって副長も男装君狙いですか?」
「ちげえよバカヤロー」


土方さんが隣に座ってきた。
朝食と一緒にマヨネーズを3本おぼんにのせている。
土方さんはそれをたっぷりと朝食にかけた。

ただでさえ怪我で食欲ない中、マヨネーズを見るともっと気分が悪くなる気がして逆側を向いて食べた。

山崎さん達が先に席をたった後、土方さんは私に話しかけてきた。


「総悟の事だけどよ、あれはあれでお前を心配してんだよ」
「‥」
「アイツがあんな一生懸命稽古つけんの初めて見たわ。厳しいだろうけどよ、それもアイツなりの愛情だからよ」
「愛情って‥」
「間違ってでもお前に命を落とされたくねぇんだろ、1番隊は危険だからよ」
「はい」
「まぁ、無駄に苛めてる訳じゃねぇことくらい分かってやってくれよな」
「‥分かってますよ」


そうだ、分かっている。
沖田さんが、私を心配して稽古をやってることくらい。
自分も大変なのにそんなの全く見せないで夜通し付き合ってくれてることくらい。
本当は今も疲れて空き部屋で眠っていることくらい。



「土方さん、オレ1番隊、やめませんから」


私がそう言うと土方さんはニッと笑った。




ーーーー



部屋に戻ると沖田さんがいた。


「あ、ちょうどよかった。沖田さんの分の朝御飯持ってきました」
「そこ置いとけ」


沖田さんは私の痣を見てニヤリとした。

「大分いい面してきたな」
「お陰様で」
「もっと見せてみろィ」


私の腕を掴み押し倒す。
顎を掴まれて頬の痣をまじまじと見られた。
沖田さんの顔がどんどん近づいてくる。


「敵にこういうことされるくらいなら死ねって上司に言われてるんですけど」
「じゃあ死ぬかィ?」


沖田さんはそう言って私の着物の帯をほどいた。
肌が露になり、身体についている痣をそっと指で撫でられた。

「え、ちょ、ちょっとちょっと、冗談ですよね?私死にたくないんですけど」
「うるせぇ」
「っ」

沖田さんはそのまま押し倒した私の背後をとってサラシを外した。

サラシまで外されるとは思わず、顔の熱が上がり、身体がビクッとなる。
まさかこの人は本当に私の胸の肉を削ぎ落とすつもりなんだろうか。


悶々と考えていると突如背中にひんやりとした感触が走った。

「ぎゃっ」

後ろを取られているので何をされているか見えない。

「どこもかしこも真っ青でさァ」
「な、何してるんですか?」

沖田さんは黙って私の背中やお腹、足にもスーっとした冷たい透明のジェルのようなものをペタペタと塗ってきた。

最後に沖田さんの手が頬に触れる。
ジェルからほんのりとはちみつの香りがした。


「今日も稽古やるからな」


沖田さんはそう言って私に小さな瓶を投げつけ、部屋を出ていった。

どうやらこの瓶には先ほどつけられたジェルの残りが入っているようだ。


ほぼ裸の状態にされてしまったので、あわあわと着物を羽織り瓶のラベルを見てみる。


ラベルには今朝山崎さんに教えてもらった薬屋の名前が書かれていた。

「何だよ‥あの人」


私はその瓶の蓋を開けて、またはちみつの匂いをかいだ。




つづく



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