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「…嘘でしょ」
「クク、嘘だと思うか?」
高杉の目は本気だった。
「そんなことしたら鬼兵隊だって被害は大きいよ。返り討ちに合う可能性だってある」
高杉に詰め寄ると腕をグッと掴まれた。
「おめーみたいなチビでグズが隊士やってんだ。余裕だろ」
「は、離せ!」
「それによ、最近取引したんだよ」
「え?」
「春雨」
「は、春雨…?」
鬼兵隊と春雨が手を組んだ。
恐ろしい事実につい頭がクラっとする。
高杉は満足そうに私の青い顔を見てキセルの煙を吐いた。
一体この男はどこに向かっているんだろう。
私の大切な居場所は、みんなは、沖田さんは、どうなるんだろう。
「本当に‥春雨と屯所に攻めてくるつもりなの?」
「オレぁムカつくもんは壊すだけだ。お前も、お前がいる真選組もオレが壊してやるよ」
高杉はニヤリと笑う。
鬼兵隊と春雨が攻めてきたらいくら真選組でもひとたまりもないだろう。スケールが違いすぎる。
「クク、いい面になったじゃねぇか」
「っ高杉‥」
「まぁ昔のよしみだ。オメェがこっちに帰ってくるなら真選組は襲わねぇ」
「‥な、にそれ…意味分かんないよ。何で今更…」
「次の満月に迎えに来る。まぁ考えなくても結論は出るだろうけどな、クク」
高杉はそう言うと私の首に噛みついた。
「痛っ」
「お前はこっち側の人間だ。忘れんな」
ヒラリと高杉は消え、私1人が狭い路地裏に取り残される。
感情的に怒ることも、冷静に考えることも出来なかった。
ただ頬にピリピリと残っている緊張だけが感覚としてあった。
悔しい。
悔しい。悔しい。
私がこの何年間ずっと剣を振るっていたのも、髪を切って真選組に入ったのも全部無駄だった。
高杉は私なんかが考えてたよりずっと大きくて闇深い兵力を自分のものにしてきたんだ。
小さくはぁ、と深呼吸をして闇夜を見上げる。
空には檸檬の形をした月がぼんやりと浮かんでいた。
次の満月まであまり時間はなさそうだ。
「‥お別れだ」
真選組のみんなと‥
沖田さんと別れをしないといけない。
つづく
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