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嘘だ
来るはずがない
私の居場所なんて分からないはずなのに
例え分かったとしても、まさかこんな敵の本拠地に


次の瞬間すごい勢いで襖が開き、隊士が慌てて入ってきた。


「副長!大変です!!た、高杉が屯所内に潜伏中とのこと!!」
「なっ、何だと!?」


ピーッとあちらこちらから警報の笛が鳴った。
ざわつく隊士達が次々と刀をかまえて外へ出てくる。


「高杉ィィどこだー!自首しに来たのか!大人しくお縄につけェ!」


名前は満月に導かれるように窓の方へと手を伸ばした。
鼓動がどんどん早くなる。


(来てる、
晋助が、来てる)


伸ばした手がグイッと引っ張りあげられた。

「きゃっ」

気づいたら窓から屋根の上へと持ち上げられていた。
満月が綺麗に江戸を照らしている。

月明かりの下で晋助の右目と目が合った。


「まさかこんなとこにいるとはなァ」
「し、晋助っ‥」


たまらず抱きつくと晋助は黙ってゆっくりと私の髪を撫でた。

「見つけたぞ!高杉ィィ!」


土方が屋根の上へと登ってきた。
高杉といる名前の姿を見て一瞬動きが止まる。
その隙を見て高杉は名前を抱き抱えた。


「名前!?お前っ、」
「副長殿、名前が世話になったな」
「おい!どういうことだよ!名前!」


土方が名前の腕をつかもうとした瞬間強い風が吹いた。
穏やかだった夜がザワッと唸ると同時に、雲が動き月を隠した。


満月の光を失い、一瞬あたりが闇に溶ける。


「あなた、嫌い」


闇に怯んだ隙に名前と高杉は消えていた。

オレに残ったのは名前が最後にこぼした一言と、涙ぐんだ満月の瞳。


(名前、お前何なんだよ)


満月を見る。
雲は風がまた運んでいった。


つづく


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