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ー11話


私の目の前には真選組の鬼の副長がいた。

「高杉の女がこんなとこで何してんだよ」
「いや、私は‥」
「とりあえず屯所まで来てもらうか」


土方はしりもちをついたままの私の手を取り、身体を起こさせた。


「抵抗しねぇのか」
「‥どうしたらいいか、分かんなくて」


先ほど自分が天人という事実を知ったばかりでまだ私の頭は混乱していた。
その上にこの状況だ。

もうどうにでもなれ、という気持ちと、行きたくない、という気持ちがおり混ざる。


「何だよ、それ」
「私、晋助には捨てられると思うから‥」
「あ?」


自分でそう言って涙が出てきた。
そうだ。私は天人なんだ。もうすぐ晋助に捨てられる。
今さら一人でなんてどうやって生きていけばいいか分からない。
それならもういっそのこと真選組で打ち首にでもなってもいいかもしれない。


「な、泣くなよ‥」
「っ」
「お前の泣き顔、苦手なんだよ‥」


そう言うと土方は溢れる私の涙をぬぐった。
近づいた指先から微かに煙草の匂いがする。

この数時間でおきた現実味のない出来事の中、その匂いだけは私の中でやけに現実的だった。


「煙草、」
「あ?」
「煙草‥やめたらいいのに」
「‥何だよ‥やめねぇよ」


土方が眉を下げポツリと呟いたのと同時にバイクのブレーキ音が響いた。


「いた!いたいた!」
「名前!心配したアル!」
「良かったです!帰りましょう」

坂田さん達だった。
神楽ちゃんと新八君は白い犬に乗っている。
三人とも汗だくだった。
どうやら勝手に出ていった私を一生懸命探してくれていたようだ。



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